映画『滑走路』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品情報・概要・キャスト、予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
映画『滑走路』公式サイトにて作品情報・キャスト・上映館・お時間もご確認ください。
YouTubeで予告映像もご覧ください。
『滑走路』
(120分/PG12/日本/2020)
【監督】
大庭功睦
【原作】萩原慎一郎【脚本】桑村さや香【撮影】川野由加里【照明】中村晋平【録音】西正義【装飾】小林宙央【編集】松山圭介【主題歌】Sano ibuki【音楽】永島友美子【VFX】田中貴志【助監督】桜井智弘【制作担当】赤間俊秀
【出演】
水川あさみ 浅香航大 寄川歌太 木下渓 池田優斗 吉村界人 染谷将太 水橋研二 坂井真紀
【HPサイト】
映画『滑走路』公式サイト
【予告映像】
映画『滑走路』トレーラー
- 映画『滑走路』のオススメ度は?
- 映画『滑走路』の作品情報・概要
- 映画『滑走路』のあらすじ・ネタバレ
- 映画『滑走路』の感想・内容
- 映画『滑走路』の結末・評価
- 映画『滑走路』撮影監督・川野由加里さんと照明・中村晋平さんも素晴らしい
- 映画『滑走路』のキャストについて
- まとめ 映画『滑走路』一言で言うと!
- 『運だぜ!アート』本日の総合アクセスランキング
- 合わせて観たい映画
- 【イジメの描写がある映画】
- 中学生が出てくる映画
- 【格差社会を描いた映画】
- 【格差社会を描いた映画】
- 映画『MOTHER マザー』
- 映画『ミッドナイトスワン』
- 映画『ばるぼら』
- 映画『滑走路』
- 映画『絶唱(1975)』
- 映画『万引き家族』
- 映画『誰も知らない』
- 映画『存在のない子供たち』
- 映画『行き止まりの世界に生まれて』
- 映画『人数の町』
- 映画『天気の子』
- 映画『エリカ38』
- 映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
- 映画『パブリック 図書館の奇跡』
- 映画『凪待ち』
- 映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』
- 映画『鵞鳥湖の夜』
- 映画『はちどり』
- 映画『レ・ミゼラブル』
- 映画『パラサイト 半地下の家族』
- 映画『ジョーカー』
- 映画『カイジ 人生逆転ゲーム』
- 映画『希望の灯り』
- 映画『タロウのバカ』
- 映画『存在のない子供たち』
- 映画『荒野にて』
- 映画『ドッグマン』
- 映画『マイ・フェア・レディ』
- 映画『ウエスト・サイド物語』
- 映画『愛と青春の旅だち』
- 映画『黒い司法 0%からの奇跡』
- 映画『ファナティック ハリウッドの狂愛者』
- 映画『わたしは金正男を殺してない』
- 映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』
- 映画『朝が来る』
- 映画『スキャンダル』
- 映画『七人の侍』
- 映画『ミリオンダラー・ベイビー』
- 映画『道』
- 映画『楽園』
- 映画『第三夫人と髪飾り』
- 映画『グラン・トリノ』
- 【夢に向かって頑張っている映画】
- 映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
- 映画『行き止まりの世界に生まれて』
- 映画『ファヒム パリが見た奇跡』
- 映画『カセットテープ・ダイアリーズ』
- 映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
- 映画『ルース・エドガー』
- 映画『ハリエット』
- 映画『チアダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』
- 映画『マディソン郡の橋』
- 映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』
- 映画『キングダム』
- 映画『リメンバー・ミー』
- 映画『風をつかまえた少年』
- 映画『パリに見出されたピアニスト』
- 映画『レディ・マエストロ』
- 映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』
- 映画『さよなら くちびる』
- 映画『王様になれ』
- 映画『ブレス あの波の向こうへ』
- 映画『ガラスの城の約束』
- 映画『リアム16歳、はじめての学校』
- 映画『ビリーブ 未来への大逆転』
- 映画『旅のおわり世界のはじまり』
- 映画『トールキン 旅のはじまり』
- 映画『チワワちゃん』
- 映画『芳華-Youth-』
- 映画『翔んだカップル』
- 映画『WAVES ウェイブス』
- 映画『滑走路』の作品情報
映画『滑走路』のオススメ度は?
星5つです
とっても「胸を打つ」映画です
「イジメは絶対にダメです」
原作者・萩原慎一郎さんにイジメ根絶を誓いましょう!
脚本家・桑村さや香さんの物語の編み方が素晴らしい
未来の子どもたちに伝えたい映画です
映画『滑走路』の作品情報・概要
詩人・歌人である萩原 慎一郎(はぎはら しんいちろう、1984年9月16日 – 2017年6月8日)原作『歌集 滑走路』をモチーフに映画化。中学時代の「いじめ」を主軸に成長した若者たちが直面する、非正規雇用、自死、過労、出産、家族のあり方について繊細に編んだ脚本が秀逸。監督は大庭功睦。脚本は桑村さや香。主演は水川あさみ(映画『ミッドナイトスワン』)、浅香航大(映画『見えない目撃者』や映画『あなたの番です 劇場版』や映画『とんかつDJアゲ太郎』)、寄川歌太ら。共演は木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太(映画『竜とそばかすの姫』や映画『旅のおわり世界のはじまり』 )、水橋研二、坂井真紀(映画『燃えよ剣』や映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』)。NHKと埼玉県が共同出資するSKIPシティと角川大映スタジオによる共同制作によって映画化された。
映画『滑走路』のあらすじ・ネタバレ
学級委員長(寄川歌太) は授業中の外の飛行機を眺めて、教科書に絵を描いている。学校帰り、友人の裕翔(池田優斗) をイジメから助けたことで彼がイジメの標的になる。母子家庭の彼は母・陽子(坂井真紀)にも学校にも相談できない。一方、厚生労働省のエリート官僚・鷹野(浅香航大) は多忙極まる毎日に精神的に限界にきている。ある日、非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストが、NPO団体によって持ち込まれる。その中で25歳で自死した人物に興味を持つ。調査するとかつての中学の同級生だった。しかも自分をイジメから助けてくれた人。鷹野は彼の死の原因を追求していく。翠(水川あさみ) は切り絵作家としてキャリアを積んでいるが今ひとつ伸びていない。夫・拓己(水橋研二) は優しい。しかしいつも他人任せの発言ばかりで不信感が募っていく。学級委員長(寄川歌太)は苛烈なイジメにあいながらも「パイロット」を夢見る。彼を支える天野(木下渓) は画家を夢見ている。鷹野は友人の死の真相には非正規雇用問題もあるが「イジメ」のトラウマがありと知りショックを受ける。そして翠は妊娠した。「産むか、堕ろすか」の決断を夫に問いかけるが、、、、
映画『滑走路』の感想・内容
「イジメはいけない」本映画『滑走路』からストレートに伝わってくるメッセージ
「本当に素晴らしい」映画です。2020年最後に本映画『滑走路』に出会えたことを感謝しています。
そして「これからの人生をしっかり生きていこう」と誓わせてくれた映画でした。
本映画『滑走路』を観に行く際は絶対にハンカチを持参してください。「これでもか!」と思うくらいに涙が溢れてきます。
物語は決してハッピーエンドではないです。「とても可哀想」なラストなんです。
ただ本映画『滑走路』からストレートに伝わってきたメッセージは「イジメはいけない」です。
本当に撲滅させることが人間としての尊厳ではないでしょうか。
鹿野靖明さんは「イジメ」に負けず強く生きました
「イジメる方が絶対的に悪」人間は理性と知性と教養を身につけた動物だからイジメはダメ!
わたしたちは野生の動物と違って、理性を持った人間です。
「イジメられる方にも理由がある」という極右的な意見を持つ人もいますが、そんな屁理屈は要りません。
「イジメる方が絶対的に悪」です。
動物世界では弱者はイジメられます。それは理性のない野生だからです。
集団内で体に不自由な仲間がいると足手まといになり、自分たちの生存も危ぶまれます。だから時には殺したします。
でも人間は理性と知性と教養を身につけています。理性を持ってすれば人をイジメることなどしないでしょう。
体の弱い人やちょっと勉強ができない人、さらには身体的特徴について指摘するのは幼稚です。
「ここでこの子の心身をあざけ笑っても良いのか」と考えれば絶対的に「ノー」となります。それが理性です。
本映画『滑走路』は過去にイジメられた経験のある者からイジメた経験のある者、さらに縦割り社会構造における労働者問題についても深く考えさせられる素晴らしい映画です。
彼女を悩ませるのは「イジメ」だけではなく「差別」です
歌集『滑走路』萩原慎一郎さん原作を脚本に纏める桑村さや香さんの力量「おそるべし!」
映画『滑走路』は三つの物語を三つの時間が絶妙に交差しながら紡ぎあげられた構成となっています。
大庭功睦監督の演出も素晴らしいのですが、やはり脚本の桑村さや香さんの力量がすごいと思いました。
原作は萩原慎一郎さんです。原作といっても歌集『滑走路』を読み解き、萩原さんの感じた人生をオリジナルストーリーとして築き上げています。
萩原さんは中高一貫校へ入学した早々、野球部の顧問に怒鳴られて狼狽してしまい、その様子を同級生からからかわれ、次第に暴言と暴力が伴う苛烈なイジメに発展してしまったそうです。
それが高校を卒業するまで続きました。高校卒業後、短歌と出会い、多くの作品を残しましたが、やはりイジメによるトラウマに苦しみ自死してしまいました。
映画は萩原さんに中学時代、非正規社会人時代、そして萩原さんが亡くなった後の時代設定となっています。
まさか一編の短歌集からここまで物語を発展させるとは、、、。恐るべし!脚本家・桑村さや香さんです。
娼婦を見る世間の目がすでに「イジメ」です
大庭監督と桑村さんは萩原さんのお母上とお会いになり映画化した
遺作の『滑走路』は短歌集です。その歌の数々をモチーフに本映画『滑走路』は生まれました。
大庭監督と桑村さんは萩原さんのお母上とお会いになって、萩原氏の人となりから苦しみをお聞きになり、本映画の脚本を執筆されたとのことです。
ラスト近くの母親演じる坂井真紀さんのセリフならびに涙が忘れられません。
あれはきっと萩原さんのお母上とお会いしたからこそ書かれたセリフだと思います。
同性である桑村さんでしか書けない「愛のこもった」言葉だったと思います。
ミューズ・ばるぼらの世界には「イジメ」はないでしょう
友人をイジメから「助けた行為」が後に自身がイジメられる側になろうとは
さて映画『滑走路』のトップカットはごくありふれた中学校の教室から始まります。
映像の質感がとても良いです。夕日色と言うのでしょうか、どこか懐古的なんです。
学級委員長・隼介(寄川歌太)は数学の授業そっちのけで教科書に絵を描いています。飛行機の絵です。
先生に注意されますが、気にしません。
学校帰りの空き地でイジメられている少年を助けます。裕翔(池田優斗) です。裕翔と隼介は小さい頃から友だちでした。
正義感の強い隼介にとっては当たり前の行動でした。しかしこの「助けた行為」が後に自身がイジメられる側になろうとは思いもよりませんでした。
全世界中から「イジメられた」と言っていい二人
非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストの中に友人が、、、
一方、厚生労働省に勤務するエリート官僚・鷹野(浅香航大) は毎日毎日、大量の書類仕事と上司から命じられる雑務の中で精神的に崩壊寸前の日々を送っています。
不眠に悩まされ、もはや鬱を発症して休職寸前です。
そんなある日、非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストが、NPO団体によって持ち込まれます。
鷹野と同じ25歳で自死した青年に興味を持ち調べ始めます。
そして青年のことを調べていくに従って、自身の過去に受けた「イジメ事件」が彼の心に蘇ってきます。
刑務所内の「イジメ」は陵辱的で酷すぎる
「俺はどっちでも良い。翠が産みたければ生めば」という無責任な夫
一方、切り絵作家の翠(水川あさみ)美術の講師(非常勤かも)である夫・拓己(水橋研二) と慎ましやかな生活を営んでいました。
夫はとても優しい人で翠のやりたいことに一切、反対しません。
翠はとても才能があるのですが、少し伸び悩んでいる様子です。
年齢の30代の後半に差し掛かり、子どもを産むか否かの選択にも追い詰められています。
翠は夫に対して不信感を持つようになっています。「翠はどうしたい、俺はどっちでも良いよ」が夫の口癖。
一見、優しそうな言葉だけど結局は無責任な男なのだと、、、。
そして翠の妊娠を告げた時も同様に「俺はどっちでも良い。翠が産みたければ生めば」によって完全に夫への気持ちが崩壊していきました。
この夫婦のやり取りの中で「不安しかない世の中だから」という言葉は現代社会への痛切なメッセージだと感じました。
確かにいくら頑張っても報われないかもしれません。
そして日本という国の行き先は決して明るいものではないからこの発言が生まれたと思うのです。
でも「未来は続くのです」残酷かもしれませんが、わたしたちは生きて行かなければいけない現実を代弁する言葉だと受け止めました。
少年たちを凶行へ向かわせたのは「イジメ」が発端にあると言われてます
隼介は14歳、鷹野は25歳、そして翠は37歳という設定に混乱しますが、、、
本映画『滑走路』はこの3人、隼介(寄川歌太)鷹野(浅香航大)翠(水川あさみ)の過去へ行き来しながら紡がれていきます。
だた先にあげた時間軸に多少混乱するかもしれません。隼介は14歳、鷹野は25歳、そして翠は37歳という設定です。
そして3人は中学時代の同級生です。
ちょっと混乱しますね。
過去、現在だけの時間軸と思いきや、未来が出てくるからです。
わたしも中盤まで、鷹野と翠は隼介の自死を知って、再会するのではないだろうか?と想像していました。
でもさすが脚本家・桑村さんはそんなことはしませんでした。
翠は2029年以後の世界を生きています。
ただ捉え方によっては翠を現在に置き換えて観るのも良いと思います。ここが本映画『滑走路』の素晴らしいところなのです。
「イジメないで」中学生で妊娠したことがそんなに悪いのでしょうか?
映画『滑走路』の結末・評価
学級委員長・隼介(寄川歌太)をひたすら応援したくなる
本映画『滑走路』ではやはり学級委員長・隼介(寄川歌太)を応援したくなるのです。
イジメられてもひたすら耐えます。それは母子家庭であり、母親・陽子(坂井真紀)に心配をかけたくないからです。
先生にも言えません。先生にとってイジメほど厄介なことはありません。どうせなかったことにされるのがオチです。
でも彼を支える女の子がいます。天野(木下渓) です。
彼女が後の切り絵作家の翠なのです。
二人は中学生らしいおつきあいをします。これがとても初々しいのです。
二人で寝転んで空を見上げて飛行機の音を聴きます。
これは隼介が夢を描いていることがわかります。
彼は将来、パイロットになる夢を持っています。
指と指が触れ合う場面なんて素晴らしい演出です。胸がキュンとなってしまいました。
この場面を観て大庭功睦監督がとても「ロマンチスト」ってわかりました。
「イジメ」の究極的な形は「差別」になるのでしょうか?
「俺は間違ったことなんかしていない。お前を助けたことを後悔していない」
しかし隼介と翠の仲を引き裂く悪魔がやってきます。“イジメっ子”です。
彼らは隼介に「天野の描いた絵を切れ」と言ってカッターナイフを渡すのです。恐怖あまり隼介は実行します。
しかしそれは自身の心を切り刻む行為でした。
以後、自宅に引きこもりますが、翠がやってきて夕日の中デートして再び学校へ戻ろうと決意します。
そして、同じく引きこもっている裕翔(池田優斗) を訪ねます。
「俺は間違ったことなんかしていない。お前を助けたことを後悔していない」と言います。
しかし裕翔は「俺は何も悪くない。お前が悪い。俺は耐えられたんだ」と言われます。隼介はとてもショックを受けます。
この場面は本当に辛かったです。
誘拐されて過酷労働と「イジメ」でどうやって希望を持てと言うの?
隼介が自死した責任は全ては自分にあるのではないかと悩む鷹野
25歳になった鷹野(裕翔)はその時のことを思い出しています。
「あの時、隼介に助けてもらったのにあんなひどいこと言ってしまった」「隼介が自殺した原因は俺にあるのか、、、」です。
隼介と鷹野(裕翔)は中学を卒業して以来、会っていません。
鷹野は必死に勉強して高級官僚になっています。
しかし隼介は夢だったパイロットはおろか、正規社員にもなれず自殺するのです。
鷹野は隼介の生前の恋人に会います。「隼介は過去のトラウマに苦しんでいました。中学時代のイジメです」鷹野は苦しみます。
かつて自分をイジメから助けてくれた隼介がイジメの対象になり、夢のパイロットも諦め、非正規社員として切り捨てられて、自死した責任は全ては自分にあるのではないかと、、、、。
この町に入れば「イジメ」は受けないのか?
翠の時間軸設定は未来であり37歳
そして翠は予期せぬ妊娠に戸惑っています。「産むか堕ろすか」に悩んでいます。
この時、パソコンで産婦人科の予約をしますが、画面には「2029年」とあります。
実はここに至るまで伏線がしっかりとあります。翠の古い友人からメールが届く場面です。
最初は「久しぶり」とか「切り絵作家頑張って」というたわいのない内容でしたが、友だちが「そういえば翠さ、須羽と仲よかったよね?」と来ます。
続いて「死んだらしいよ、12年前に」と書いてあります。
この「12年前」というのがずっと後半まで引っかかっていましたが、産婦人科の予約画面で解決しました。
翠の時間軸設定は未来であり37歳だということです。
彼がストーカーになったのは社会からの好奇と言う「イジメ」からでしょう
翠を演じる水川あさみさんの演技がすごい
ただですね、ここからの翠を演じる水川あさみさんの演技がすごいのですよ。心の葛藤の表し方が尋常ではないのです。
まず夫・拓己に対する不信感の出し方、そして中絶予約を選択する絶望感、さらに病院へ向かう際に会った子どもとの触れ合い、そして中絶手術は向かい、踵を返す場面など、本当にハラハラしてしまうのです。
中絶予約をした時は「やめろー」と絶叫してしまいましたし、病院で踵を返した時は「よっしゃー」とまたまた絶叫してしまいました。
本当に素晴らしい女優さんです。水川さんは『ミッドナイトスワン』でクソな“毒親”を演じていましたが、映画『滑走路』での一連の流れは映画史の残るでしょう。
スクールカースストの頂点の彼女たちは「イジメ」はしません!
原作者の萩原慎一郎さんのことを思うと辛い
さてさて本映画『滑走路』の結末は三者三様なんですが、正直言って「ツライ」「報われない」「残酷」という感想が否めません。
その対象は間違いなく学級委員長・隼介(寄川歌太)に向けられます。つまり原作者の萩原慎一郎さんのことを指します。
「悪いわね、忘れてって言ってあげられなくて」の意味は?
その前に鷹野と翠の結末について考えてみます。
まず隼介に助けれて高級官僚になった裕翔こと25歳の鷹野が隼介の母・陽子(坂井真紀)を訪ねて、お線香を供えます。
そして中学時代の数学の教科書を手渡します。実は鷹野がイジメられっ子から命令されて隼介のカバンから盗んだものでした。
この事件から隼介がイジメれて行くきっかけを作ったのです。「隼介が自殺したのは僕の責任です。ごめんなさい」と謝ります。
陽子は教科書を突き返します。「悪いわね、忘れてって言ってあげられなくて」と言います。
一瞬ギクッとします。
続けて「忘れずにあなたは生きるの。隼介に代わって、あなたは結婚して、子どもを授かって、その子を宝物みたいに育てて、命がけで守りなさい」
この言葉を聞いて鷹野は安堵します。そして救われます。
鷹野の救われる先は明示されていませんが、厚生労働省のエリート官僚して正規労働、非正規労働問題について尽力することが期待できます。
「イジメ」られないように息を潜めて生きる?
翠の場合は「ハッピーエンド」と言っていいでしょう
そして翠。翠は夫・拓己と離婚して正解です。あんなに優柔不断ではっきりしない男とはとっとと別れるべきです。
自分では何も決められない男、いつも霧の中を手探りで歩くような不安とはオサラバです。
結果的に翠は切り絵作家として大成しています。
堕胎した夜、拓己に言い放った言葉飛来します「子どもを堕した」に対して拓己は「そうか、緑がそうしたのならいいんじゃないか」に対して「あなたの子どもだから堕した」です。
この言葉を聞いて「その通り」と言ってしまう自分もいましたが、病院で踵を返したのに「戻って堕胎したのかよ」ってガクッとした気持ちを心に烙印されていました。
でも、でもですね。翠の場合はちゃんとしたハッピーエンドが待っていました。展覧会会場の隅っこから「ママ」と言って小さな子どもが現れて抱きしめるのです。
「良かったあ」って声が漏れてしまいました。
国家的な「イジメ」があった時代があります
原作者・萩原慎一郎さんが将来的に選択する死の印象が強く「胸が引き裂かれる」ラスト
そして学級委員長・隼介(隼介寄川歌太) ですが、結果的には非正規社員で自殺するのですが、映画的には隼介に希望の光を降ろしています。
隼介はイジメられていましたが、唯一の心の拠り所である天野(木下渓)が転校することに焦ります。
天野(木下渓) が車で去っていくのを自転車で追いかけます。転倒しても探します。そして想いを伝えます。二人は抱き合います。
そこには未来に向かって生きていくという、14歳の隼介と天野(のちの翠)の希望の姿が垣間見られるのです。
そして二人は橋の上で背中合わせに離れていくのです。この場面は確かに美して良いのですが、実際は原作者の萩原慎一郎さんが将来的に選択する死の印象が強く、胸が引き裂かれる思いでした。
「きみのために用意された滑走路きみは翼を用意すればいい」
とても胸を打つ映画でした。「イジメはいけません!」
三つの時代が展開されています。3人は1992年生まれです。
- 2006年 学級委員長(寄川歌太)
- 2017年 鷹野(浅香航大)
- 2029年 翠(水川あさみ)
*翠は出産して子どもが3歳くらいの場面もあるので、2032年くらいも設定されています。
映画『滑走路』撮影監督・川野由加里さんと照明・中村晋平さんも素晴らしい
映画『滑走路』の映像表現はとても「素晴らしい」と感じました。単に美しいと言うのではなく「主観的」と「客観的」がうまく使いこなされていると感じたのです。
まず「主観的」に心をに染み入ってくるのはやはり学級委員長(寄川歌太) と天野(木下渓) の場面です。暖かみのある色合いと二人の心の距離を絶妙に表していました。
特に夕暮れ二人が鉄塔を背景に歩く場面は絶品です。ドリー撮影だと思いますが、手前の田んぼの刈られた稲が素早く動き、その向こうの二人の速度は少しずつ、そして背景の鉄塔は悠然と構えて動きが少ないのです。
ここは映像の美しさもありますが、やはり二人にとって「永遠の時間」を見事に表している映像でした。
鷹野を捉えるショットの数々も良かったです。最初の鷹野に対してはとても冷たい印象を与えてきます。寒色系の照明を焚いているのでしょう。役柄がエリート官僚ですし、彼の心の状態も危ない雰囲気を見事に出しています。ほぼ固定ショットで展開されるますが、観ているわたしたちの集中力が高くなります。そして後半に向かうにしたがって鷹野の心模様を案じて、映像の雰囲気も変わっていきます。「優しさ」を得た鷹野になっていくのです。こういう映像表現ができる撮影監督はなかなかいません。
さらに翠を演じる水川さんに至っては室内と室外の表情だけで心の機微を表しているのが良いと思います。特に2回起きた地震の時の翠の表情の「恐ろしさ」は秀逸です。決してアップではありませんが、翠の心が「バシン」と伝わってきました。そして翠が展覧会で子どもを抱き上げる満面の笑顔には「生きがい」を感じました。
そしてラストの学級委員長(寄川歌太) と天野(木下渓)が別れる橋の場面を上空から捉えた映像は辛いものがありました。ドローンで二人から離れていくのですが、やはり「さよなら」のイメージ、つまり「死」の印象を強くさせる映像でした。空もどんよりしていましたし、、、。
圧巻の撮影と照明でした。
映画『滑走路』のキャストについて
翠(水川あさみ)
鷹野(浅香航大)
学級委員長(寄川歌太)
天野(木下渓)
裕翔(池田優斗)
雨宮(吉村界人)
明智(染谷将太)
拓己(水橋研二)
陽子(坂井真紀)
まとめ 映画『滑走路』一言で言うと!
「イジメは絶対にいけません!」
イジメは本当に人を傷つけます。その傷は一生消えません。よく「忘れなさい」っていう人がいますが、その言葉ほど無責任な言葉はありません。心にも地層があるのです。経験したイジメという事実は心の地層に残っています。50歳になってもその事実は消えません。ただ“薄める”ことはできます。それはイジメを受けた後の人生をどれだけ楽しいこと、面白いこと、幸せなこと、素敵な経験を100倍、1000倍を心の地層に積み重ねるのです。そうすればイジメの地層までの距離ができるのです。でも決して忘れることはできません。「忘れなさい」と安易にいう人はそれがわかってないのです。NHKのラジオ番組で中川翔子さんも同じようなことを言ってました。ある大人が「わたしもイジメられていたけど、ちゃんと育った」と。それに対して中川さんは「ふざけるな、わたしはいまイジメられているんだよ」と。
『運だぜ!アート』本日の総合アクセスランキング
合わせて観たい映画
【イジメの描写がある映画】
映画『さくら』
「レズビアン」とからかわれても強い小松菜奈
映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
「イジメ」に負けず人生を全うした鹿野靖明さん
映画『愛と青春の旅だち』
教育という名の訓練か「イジメ」なのかわかりません
映画『望み』
「真実を!」盾にするマスコミの「イジメ」こそ根絶せねば
映画『ホテルローヤル』
ラブホテル経営の娘という理由でイジメられます
映画『プラダを着た悪魔』
これを「パワハラ」と呼ばずになんという?
映画『事故物件 恐い間取り』
映像業界には「イジメ」はないのか?
映画『MOTHER マザー』
親が子どもを「イジメる」ことを虐待と言います
映画『誰も知らない』
世間から無視されることは「イジメ」かもしれない
映画『万引き家族』
「イジメられる」から学校へ行かないのではない
映画『レ・ミゼラブル』
移民に対する「イジメ」は怨念を産みます
映画『リチャード・ジュエル』
メディアが寄ってたかって弱者を「イジメる」構図は世界共通
映画『楽園』
ムラ社会という閉鎖的な「イジメ」はどこにでもあります
映画『ジョーカー』
アーサーがジョーカーになったのは社会的な「イジメ」から
映画『ドッグマン』
この「イジメ」の構図はひどすぎる
中学生が出てくる映画
映画『糸』
13歳で出会った二人が18年後結ばれるってあり得るのか?
映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
中学生の少年少女が夏の夜を右往左往します
映画『ほしのこえ』
中学生の恋が、、、
映画『思い、思われ、ふり、ふられ』
中学では友だちだったのに高校になったら「姉弟」ってなに?
映画『秒速5センチメートル』
小中高から社会人になるまで一途な恋
【格差社会を描いた映画】
【格差社会を描いた映画】
映画『MOTHER マザー』
毒親が生まれたのは格差社会が原因?
映画『ミッドナイトスワン』
LGBTQに対する差別・格差は早急に解決して欲しい
映画『ばるぼら』
ばるぼらは社会の“排泄物”のように扱われた
映画『滑走路』
イジメから非正規社員問題まで絡めた名作
映画『絶唱(1975)』
封建制度の時代の格差ってどうしようなかった、、、
映画『万引き家族』
是枝監督の描く映画は「痛い」
映画『誰も知らない』
是枝監督が世界の映画作家に与えた影響は多大なり!
映画『存在のない子供たち』
戸籍も存在もない社会って“格差”どころじゃあない
映画『行き止まりの世界に生まれて』
格差と虐待は比例するのか
映画『人数の町』
格差もまったく存在しない町へ行こう!
映画『天気の子』
このふたりも日本社会からはみ出していると言える
映画『エリカ38』
エリカが詐欺師になったのは貧しい生い立ちから
映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
黒人というだけで“チャンス”が与えられない社会がある
映画『パブリック 図書館の奇跡』
「笑うな!」ホームレスにだって人権があります!
映画『凪待ち』
社会の底辺で生きてきた男、、、
映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』
無教養が格差を広げている
映画『鵞鳥湖の夜』
発展すればするほど格差が広がります
映画『はちどり』
韓国社会の現実は恐ろしい
映画『レ・ミゼラブル』
この少年たちの“怨恨”は根深い
映画『パラサイト 半地下の家族』
アカデミー作品賞獲得という快挙!
映画『ジョーカー』
格差が招いた犯罪
映画『カイジ 人生逆転ゲーム』
日本の底辺男の希望映画です
映画『希望の灯り』
かつての東西冷戦の格差って?
映画『タロウのバカ』
タロウが悲しすぎる
映画『存在のない子供たち』
生まれたという存在がないとは、、、
映画『荒野にて』
無学な父親を亡くしてしまい、、、
映画『ドッグマン』
不条理すぎる映画です
映画『マイ・フェア・レディ』
イギリスの階級社会で這い上がるのは難しい、、、
映画『ウエスト・サイド物語』
人種が絡んだ格差社会って辛い
映画『愛と青春の旅だち』
パイロット目指す若者と工場で働く女の子の恋愛
映画『黒い司法 0%からの奇跡』
いつも黒人が“容疑者”にされてしまう理由はなに?
映画『ファナティック ハリウッドの狂愛者』
差別・嫌悪される理由は本人にも問題ありでは、、、
映画『わたしは金正男を殺してない』
貧しい国から来た女性を使っての犯罪です
映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』
少年たちはアメリカ社会の未来を憂いての犯行だったのか
映画『朝が来る』
格差社会もあるけれど教育が大事だと思う、、、
映画『スキャンダル』
男どもに「一泡吹かせてやる!」ダンサーたちの挑戦!
映画『七人の侍』
黒澤明が描く“格差社会”はダイナミックだ
映画『ミリオンダラー・ベイビー』
ど貧乏育ちだけど「成功したい」気持ちに嘘はない
映画『道』
人生は厳しい“道”ばかりだけど「間違い」はしたくない
映画『楽園』
田舎の“ムラ社会”の中の“格差社会”って陰険だ
映画『第三夫人と髪飾り』
格差というより“習慣”とか“伝統”と言った理由で、、、
映画『グラン・トリノ』
人種差別者が“格差社会”に初めて気がついたら!
【夢に向かって頑張っている映画】
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
大学生活は思いっきり遊んで勉強もするぞ!
映画『行き止まりの世界に生まれて』
苦しかった日々を乗り越えて「挑戦」するのだ!
映画『ファヒム パリが見た奇跡』
移民の僕でもチャンスがある国フランス
映画『カセットテープ・ダイアリーズ』
大学へ行って「絶対に作家になるんだ!」夢と勇気がもらえる映画
映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
男女差別があった時代の女流作家の生き方が描かている
映画『ルース・エドガー』
両親には感謝しているけど「良い子」でいるのもキツイ
映画『ハリエット』
人を助けるのがわたしの使命
映画『チアダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』
目指すは全米制覇!
映画『マディソン郡の橋』
夢見た人とひと時の恋
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』
この国の行方をタクシーに乗せて
映画『キングダム』
目指すは天下の大将軍
映画『リメンバー・ミー』
父の夢は僕の夢
映画『風をつかまえた少年』
貧しくても夢があれば生きていける
映画『パリに見出されたピアニスト』
夢の叶え方がわからない少年に手を差し伸べる人
映画『レディ・マエストロ』
女性指揮者のパイオニアが困難を乗り越えて夢を実現する物語
映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』
ソ連から亡命してまで自身の夢を掴んだ
映画『さよなら くちびる』
音楽をやりたい!その夢を果たすために何が必要か?
映画『王様になれ』
カメラマンになりたいんだ!と叫びが聞こえる映画
映画『ブレス あの波の向こうへ』
どんな時も頭の中はサーフィンの事ばかり
映画『ガラスの城の約束』
毒親の妨害を振り切って夢はまっしぐら
映画『リアム16歳、はじめての学校』
名門大学目指して母と息子で目指す受験
映画『ビリーブ 未来への大逆転』
女という事で笑われようがやりたいことがあるから気にしない
映画『旅のおわり世界のはじまり』
異国の地で歌手になることを決意した女の子
映画『トールキン 旅のはじまり』
仲間と未来の夢を語り合う青年たち
映画『チワワちゃん』
青春の儚いエネルギーが大爆発しています
映画『芳華-Youth-』
戦争に青春を取られてしまう悲劇
映画『翔んだカップル』
薬師丸ひろ子が時代を築いた理由がわかります
映画『WAVES ウェイブス』
アメリカの高校生の青春は残酷な運命に、、、
映画『滑走路』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
大庭功睦
原作
萩原慎一郎
脚本
桑村さや香
撮影
川野由加里
照明
中村晋平
録音
西正義
装飾
小林宙央
編集
松山圭介
主題歌
Sano ibuki
音楽
永島友美子
VFX
田中貴志
助監督
桜井智弘
制作担当
赤間俊秀
翠(水川あさみ)
鷹野(浅香航大)
学級委員長(寄川歌太)
天野(木下渓)
裕翔(池田優斗)
雨宮(吉村界人)
明智(染谷将太)
拓己(水橋研二)
陽子(坂井真紀)
2020年製作/120分/PG12/日本
配給:KADOKAWA