映画『スパイの妻 劇場版』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品情報・概要・キャスト、予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
映画『スパイの妻 劇場版』公式サイトにて作品情報・キャスト・上映館・お時間もご確認ください。
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『スパイの妻 劇場版』
(115分/G/日本/2020)
英題『Wife of a Spy』
【監督】
黒沢清
【脚本】
濱口竜介 野原位 黒沢清
【エグゼクティブプロデューサー】
篠原圭 土橋圭介 澤田隆司
岡本英之 高田聡 久保田修
【プロデューサー】
山本晃久
【撮影】
佐々木達之介
【照明】
木村中哉
【出演】
蒼井優
高橋一生
坂東龍汰
恒松祐里
みのすけ
玄理
東出昌大
笹野高史
【HPサイト】
映画『スパイの妻 劇場版』公式サイト
【予告映像】
映画『スパイの妻 劇場版』トレーラー
映画『スパイの妻 劇場版』のオススメ度は?
星4つです
世界の黒沢です
祝!第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞受賞
サスペンス?ホラー?ミステリー?反戦?
夫婦愛?
もう頭が「ポワンポワン」です
映画『スパイの妻 劇場版』の作品情報・概要
『スパイの妻』黒沢清監督作品。製作はNHK。BS8Kでテレビで放映され、2020年に映画として劇場公開された。第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。蒼井優と高橋一生が1940年前後の戦争へ向かう時代設定の中で夫婦を演じる。反戦映画というより夫婦による恋愛サスペンス映画。
映画『スパイの妻 劇場版』のあらすじ・ネタバレ
1940年頃の神戸が舞台。貿易会社を営む福原優作(高橋一生) は中国大陸へ進出し、商機を伺っていた。社員であり甥っ子の竹下文雄(坂東龍汰) を伴って満州を訪れて驚愕する。そこでは日本軍(関東軍)の残虐な行いを目撃する。正義の念に駆られて優作は日本に帰ってくる。妻・福原聡子(蒼井優) は優作の挙動に不信感を抱き、秘密を探る。そして夫が持ち帰ったフィルムを見て衝撃を受け、密告する。二人は亡命を誓い別々の船に乗ってサンフランシスコで落ち合う約束をする、、、
映画『スパイの妻 劇場版』の感想・内容
『スペイの妻』観ました。「良い映画」だと思います。熟練した黒澤監督の技を堪能させていただいたと言うのか正直な感想です。ただ最初に書いておきますが、頭が「ポワンポワン」しています。まとめきれていないと言うか、混乱していると言うか、訳がわからない状態にさせられた映画です。黒沢監督の世界観が「ミステリー」で「サスペンス」で「ホラー」です。恐ろしすぎます。
ですから映画『スパイの妻 劇場版』の評論はめちゃくちゃかもしれないことを予め明記しておきます。それだけ衝撃を感じた映画でした。ずっと「ポワンポワン」です。きっと追記を書くとこになるでしょう。
蒼井優さんと高橋一生さんが素晴らしかったです。上映中も上映後も2人のことが頭から離れません。良い映画と言うのはテレビと違ってほとんどカメラ目線というものがありません。安っぽいタレントや実力のない俳優はカメラ目線で直接的に視聴者の感情を揺さぶりますが、本当に素晴らしい俳優と言うのは視線をカメラに送らなくても圧倒的な存在感を伝えてきます。それを実践しているのが蒼井優さんです。彼女の真横から顔のショットや斜めからとらえた顔はカメラを支配しています。目線は向けていませんが、直接的に私に話しかけているような強いものがあるのです。後ろ向きに喋っていても心に響いてきます。本当にすごい女優さんだと思います。
もちろん高橋一生さんも素晴らしいのです。飄々とした雰囲気を120分繰り返しています。どこかつかみどころのない、信用して良いのか否かという雰囲気をずっと醸し出しています。それがわたしを惹きつけて止みません。最後に福原優作(高橋一生) は消えますが、絶対にそこにいるような雰囲気が立ち込めているのです。飄々とした雰囲気がスクリーンに残っているのです。それをうまく助長しているのは発狂したと思わせている福原聡子(蒼井優) なんです。聡子のうつろな目線やキリッとした視線に優作が生きていることが見てとれるのです。本映画『スパイの妻』の感想としてはと蒼井優さんと高橋一生さんの演技に尽きると言えます。
もちろん黒澤監督の演出力も素晴らしいのです。本映画『スパイの妻 劇場版』は「反戦映画」と思わせますが、全く違います。妻の夫への「狂信的な愛」を描いた物語です。多くの人は映画の中で展開される日本軍の悪行に嫌悪感と罪悪感を抱きますが、これは黒沢監督が巧妙に仕組んだ罠だと考えられます。黒沢監督は過去においてサスペンス、ホラー、ヒューマン、恋愛映画とジャンルをまたいで作品を発表しています。わたしの記憶では「反戦」をテーマにした作品はありません。ですから本映画『スパイの妻 劇場版』を観ている時に違和感を覚えたのです。
それは黒沢監督も遂に「集大成に入るのか」です。例えが適切かわかりませんが、世界の黒澤明監督の終盤の作品はまるで「人生の終末期」を想像させるものでした。多くの芸術家はそうやって最期を迎えるものです。それを考えると「まさか黒沢清監督も?」と寂しい気持ちになったのです。黒沢監督はスタンリー・キューブリック監督と同じく「新しことに挑戦」してきた監督です。同じような映画は作っていません。絶えず誰もやっていない映画表現を目指してきたのです。
前作の『旅のおわり世界のはじまり』では元AKBの前田敦子を主演に迎えてウズベキスタンの大地で熱唱させました。正直言って、前田敦子の歌はそれほど上手くはありません。音程も不安定で声量もありません。でも、でもです。それがとても良かったのです。わたしは前田敦子のことをそれほど興味がなかったのですが、一気に好きになりました。“共感”したのです。前田敦子が熱唱する姿に「わたしも頑張る」と決意したのです。これは黒沢清監督のなせる技だと思うのです。今では前田敦子が出ている映画は必ず観ます。彼女の魅力を引き出したのは間違いなく黒沢監督です。
ですから本映画『スパイの妻 劇場版』で「反戦」をテーマに描くということに疑問を持ちました。反戦をテーマにした映画は腐る程ありますから、黒沢監督が作る必要がありません。そんな一抹の寂しさと諦めを抱えながらの鑑賞ですが、途中からこれは「反戦映画ではない」と気が付いたのです。ようやく黒沢監督の仕組んだ罠だとわかったので胸を撫で下ろしたのです。良かったです。かつての黒沢映画独特の奇妙で、不可解で、不快な雰囲気が出てきました。それをスクリーンで披露してくれたのは妻・福原聡子を演じた蒼井優の不敵な笑みです。「わたしはスパイの妻になります」と言った時です。もう恐ろしい笑みでした。勝ち誇った顔です。
映画『スパイの妻 劇場版』の結末・評価
本映画『スパイの妻 劇場版』は貿易商を営む福原優作(高橋一生) の正義感から日本軍の悪行を暴露するという主軸に目を奪われがちです。映画を鑑賞しながら「なんて関東軍は残虐なのだ」とか「あの時代、戦争を止めようとした人がいるのだ」と思うでしょう。観客の心をそちらに向けていますが、スクリーンで展開される夫婦は“鬼ごっこ”のように遊びを繰り広げいるのです。鬼は妻・福原聡子(蒼井優) です。執拗に夫・福原優作(高橋一生) を追いかけ自分だけの物にしようとします。劇中の言葉にわたしたちは心を奪われます。優作が「不正義の上で成り立つ幸せで君は満足か?」の問いに「わたしは正義より幸せをとります」と聡子は自信満々で答えます。この会話で優作派か聡子派かに別れると思うのです。でも、結果的にこれは無意味な会話だと後々気がつかされます。そもそも二人の“恋愛ゲーム”の中で使われたプロットなのです。二人は悲劇の末に成就するシェイクスピアの恋愛劇を楽しんでいるようです。
聡子が神戸港から船に乗りサンフランシスコを目指すことになります。優作は香港経由でサンフランシスコを目指します。この別れの場面はまさしく映画『ロミオとジュリエット』そのものです。二人は戦争という悲劇の中で繰り広げられる愛の行方にスリルを感じているのです。「障害があればあるほど燃え上がる」のです。聡子が恍惚とした表情が本当に不気味です。優作も優作で正義感を盾にしながら飄々と消え去るの様も圧巻です。
ただですね、人によっては捉え方が様々であることも黒沢マジックならではだと思います。わが国の恥ずべき戦争への自虐的謝罪映画だと感じる人もいるでしょう。ネトウヨの人たちは余計な「墓起こしはするな!」と思う人もいるでしょう。先人たちが過去に犯したことを掘り起こすことで“良い人アピール”や“知性教養が高い”ことを自慢する団塊の世代の人たちのように、自国の暗黒史で商売にしている人たちは大喜びの映画です。
でも黒沢監督はその両者ではないと思います。でもパンフレットには以下のように書かれています。
「国家が些細なプライドや欲望を出発点にして知らぬ間に常軌を逸し、国民も次々とその狂気に感染していって、とうとう全員が大殺戮を肯定する狂乱状態へと突き進んでしまうこと、それが最も身近な戦争なのではないでしょうか。1940年前後の日本がまさにそうした状況にありました。その中でなんとしても正気を保っていこうとする人間の姿を、僕はこの映画の夫婦を通して描こうとしました」
「表面的には自由と平和が保障されたかに見える現代日本でも、我々は明日にも狂気の沙汰えと転落していく危機と隣り合わせであるように思います。この映画からその危機のリアリティーを少しでも感じ取っていただければ幸いです」
黒沢監督は「反戦」については一言も言っていません。危機的状況に直面した時、「何が真実なのか」を見定めて正気を保つことの必要性を訴えています。それを夫婦の恋愛ゲームとしてハッピーエンド版の『ロミオとジュリエット』として描いているのではないでしょうか。戦争へと突き進む狂気の沙汰の時間の中で夫婦が恋愛ゲームをすること自体が狂っていると思われますが、「狂ったふりをしなければ生きられない」という狂気も表していると思います。まさしく「お見事!」な映画でした。
*追伸。もう一度観てからリライトするかも。
*悔しいです。完璧に黒沢監督に騙されました。まだまだ「挑戦」を続ける素晴らしい監督です。
映画『スパイの妻 劇場版』のキャストについて
福原聡子(蒼井優)
福原優作(高橋一生)
竹下文雄(坂東龍汰)
駒子(恒松祐里)
金村(みのすけ)
草壁弘子(玄理)
津森泰治(東出昌大)
野崎医師(笹野高史)
まとめ 映画『スパイの妻 劇場版』一言で言うと!
「お見事!」ですが、よくわからなくなってきました。黒沢監督の世界観が「ミステリー」「サスペンス」そして「ホラー」です。
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映画『ナイチンゲール』
人種・女性差別を楽しむゲスな人間がいました

映画『ダーティーハリー』
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映画『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
レイプと殺人を楽しむクソ野郎です

映画『テッド・バンディ』
テッド・バンディ無くしてサイコパスは語れません

映画『私の知らないわたしの素顔』
ビノシュの妖艶さが恐ろしさを増長させます

【オススメ反戦映画】
映画『絶唱(1975)』
山口百恵と三浦友和が描く「反戦映画の傑作!」

映画『ホタル』
高倉健さん自身が「反戦」の代表的な俳優

映画『父と暮せば』
宮沢りえさんと原田芳雄さん親子が描く被爆都市・広島

映画『アメリカン・スナイパー』
クリント・イーストウッドはまっすぐ「戦争反対!」と言及!

映画『炎の舞』
戦争が二人を切り裂いたことは間違いなし!

映画『オフィシャル・シークレット』
一人の女性の勇気が戦争を阻止する!

映画『愛と死の記録』
原子爆弾は本当に恐ろしいものです

映画『あゝひめゆりの塔』
彼女たちには大きな夢と希望があっただろうに、、、

映画『この世界の片隅に』
反戦映画の最高傑作です

映画『硫黄島からの手紙』
二宮くん「演技うますぎ」です

映画『名もなき生涯』
「絶対に戦争へは行かない!」強い人間の物語

映画『この道』
北原白秋は偉大だったことがわかる映画

映画『1917 命をかけた伝令』

映画『彼らは生きていた』
第一次世界大戦の少年たちは悲惨すぎる、、、

映画『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』
鬼軍曹・クリント・イーストウッド参上

映画『父親たちの星条旗』
この戦争での勝者は誰なのだ!

映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』
フィンランドとソ連の戦争は泥沼だった

映画『家へ帰ろう』
戦争によって引き裂かれた人たちの再会物語

映画『プライベート・ウォー』
たとえ片目を失っても「わたしは戦地へ行く」女性ジャーナリスト

映画『田園の守り人たち』
愛する男たちは戦争にとられてしまった

映画『スパイの妻 劇場版』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
黒沢清
脚本
濱口竜介 野原位 黒沢清
エグゼクティブプロデューサー
篠原圭 土橋圭介 澤田隆司 岡本英之 高田聡 久保田修
プロデューサー
山本晃久
アソシエイトプロデューサー
京田光広 山口永
ラインプロデューサー
山本礼二
技術
加藤貴成
撮影
佐々木達之介
照明
木村中哉
録音
吉野桂太
美術
安宅紀史
スタイリスト
纐纈春樹
ヘアメイク
百瀬広美
編集
李英美
音楽
長岡亮介
VFXプロデューサー
浅野秀二
助監督
藤江儀全
制作担当
道上巧矢
福原聡子(蒼井優)
福原優作(高橋一生)
竹下文雄(坂東龍汰)
駒子(恒松祐里)
金村(みのすけ)
草壁弘子(玄理)
津森泰治(東出昌大)
野崎医師(笹野高史)
2020年製作/115分/G/日本
配給:ビターズ・エンド