『アメリカン・スナイパー』
(132分/米/2014)
原題『American Sniper』
公開当初、アメリカで大論争を巻き起こした作品。反戦映画は好戦映画か。
スナイパーは正義のヒーローで無い、卑怯者だと言われた
この映画は完全に反戦映画である。この映画が公開された当初、アメリカでは戦争肯定と否定派が論争を交わした。映画の主人公がスナイパーであることから卑怯な兵士だと散々言われた。それに対して、肯定派は主人公のカイルはイスラムから世界を守る英雄と祭り上げられた。確かに戦争は醜い。戦争に良いも悪いもない。この主人公のカイルは実在の人物である。イラク戦争で伝説になったスナイパーだ。4回の出兵で160人を射殺している。これがどういうことか私には全くわからないが、アメリカ軍の兵士を助けたという功績になるらしい。
父から褒められたことが大きな意味を持つ
まずブラッドリー・クーパー演じるカイルの性格を表す場面から見ていこう。小さいと父に連れられ狩にいく。そこで父に狩の腕を褒められ「一流になれる」と言われる。更に父は世の中には羊と狼と羊を守る犬の三種類が存在すると教えられる。カイルは牧羊犬になることを選ぶ。成長したカイルは牧場管理の仕事をしていたが、アフリカで起きたアメリカ大使館連続爆破事件を機に軍隊に入る。厳しい訓練を耐え抜きイラク戦争へ派遣される。その間、何度か帰国し結婚もする。戦地から帰るたびにカイルの心は蝕まれていく。そして最後は、、、という話だ。
最初に狙撃した相手は女、子供、、、。それは間違いなのか。
まずカイルの最初の狙撃相手が女子供であったことは後半まで引きずる。スコープを覗きながらカイルは「やめろ、やめろ」と呟いている。しかし彼らは自爆テロを企んでいるとわかり引き金を引くのだ。一瞬映画では後悔の表情を見せるが、自伝の本ではカイルは人を殺したことを全く後悔していないと書いている。その発言も冒頭に書いた戦争反対派の感情に火を注ぐことになる。カイルの心が壊れていく様子が恐ろしい。小さな物音や些細なことで怒り出す。絶えず拳銃を身につけていないと落ち着かない。心配する妻はもう二度と戦場へ言って欲しくないと懇願するが、カイルは4回目のイラクへ行く。それはスナイパーである仕事を全うするためだ。カイルにはライバルがいた。ムスタファと呼ばれる敵のスナイパーだ。イラクの砂煙を舞台に二人の息を呑む心理戦の末ムスタファを始末して帰国する。
どんな戦争も建設的なものなど一切ない。戦争は醜いのだ。襲いかかるPTSDという恐怖。
息子も生まれ静かな人生を望むがそうはいかない。因果応報とでもいうべきか、カイルに訪れた運命は残酷ではあるが、当たり前だったのかもしれない。
この映画を観ていて兎にも角にも、戦争とは何も建設的なものが無いのだと痛感する。戦争で勝っても傷つくのは地震だということだ。いつ殺されるかわからない状況に置かれると人間は心に大きな傷を負う。PTSDだ。実際にイラク戦争から帰還した兵士のほとんどはこのPTSDで苦しんでいるそうだ。いつも誰かに殺されるのではないかという恐怖と自身が戦地で犯した罪の重さに苦しむ。
つまりこの『アメリカン・スナイパー』は戦争で受けたPTSDの恐ろしさを描くことで反戦映画として完成させているのだ。
映画の最後にカイルが亡くなってアメリカ国民が沿道に立って見送る場面がある。まるで英雄だ。クリント・イーストウッドが敢えてこの場面を入れた意味がわかる。
*カイル演じたブラッドリー・クーパーはこの映画でクリント・イーストウッドと組んだ。そして『運び屋』へと繋がる。
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スタッフ
監督 クリント・イーストウッド
製作 リント・イーストウッド ロバート・ローレンツ アンドリュー・ラザー ブラッドリー・クーパー ピーター・モーガン
製作総指揮ティム・ムーア
ジェイソン・ホール
シェロウム・キム
ブルース・バーマン
原作 クリス・カイル スコット・マクイーウェン ジム・デフェリス
脚本ジェイソン・ホール
撮影トム・スターン
美術ジェームズ・J・ムラカミ
シャリーズ・カーデナス
衣装 デボラ・ホッパー
編集 ジョエル・コックス
ゲイリー・D・ローチ
視覚効果マイケル・オーエン
海軍技術顧問ケビン・ラーチキャスト
ブラッドリー・クーパークリス・カイル
シエナ・ミラータヤ・カイル
ルーク・グライムスマーク・リー
ジェイク・マクドーマンビグルス
ケビン・ラーチドーバー
コリー・ハードリクト“D”(ダンドリッジ)
ナビド・ネガーバンアル=オボーディ師
キーア・オドネルジェフ・カイル作品データ
原題 American Sniper
製作年 2014年
製作国 アメリカ
配給 ワーナー・ブラザース映画
上映時間 132分
映倫区分 R15+