クリント・イーストウッド映画『運び屋』実話、ネタバレ、感想、評価。アメリカ国家の終焉を描いている。

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『運び屋』(116分/米/2018)

原題『The Mule』

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クリント・イーストウッドはアメリカの歴史を映画で撮っている。移民、麻薬、不正。親子の絆と愛。

これがイーストウッドの遺作になる可能性もある。最後の主演作になるのか。

クリント・イーストウッド主演・監督の『運び屋』を観終わった。何と表現して良いのだろう。映画はもちろん良かった。でも何だかやりきれない気持ちがあるのだ。何だろう?そのやりきれない気持ちは淋しいというものだ。つまりひょっとしたらこれでクリント・イーストウッドの姿をスクリーンで観るのが最後になるのかもしれない、そしてイーストウッドの遺作になってしまうのではないかと変な胸騒ぎがするのだ(それだけ私は彼が好きなのだ)単なるファンではない、マニアでもない。映画人として尊敬しているのだ。彼が映画に捧げた人生はもう60年になる。70年代から第一線で活躍している。浮き沈みのあるこの世界で常に良作を発表していること自体が信じられない。

ダーティーハリーの汚れ役で表現したかったことは何かわかって欲しい

イーストウッドのことをあまり好きではない人に聞くと、多くは『ダーティーハリー』が嫌いだと答える。あの傍若無人で乱暴な姿がこの日本人には受け入れられないのかもしれない。日本ではアメリカのように拳銃を撃ち合うような事件は滅多に起こらない。しかもハリーには人情が無いように見えるから尚更かもしれない。

開拓時代のアメリカはイーストウッドの西部劇そのもの。勝った者が正義なのだ。

でもだ。イーストウッド作品を何本か観ていくとわかってくることが非常に多い。一言で言ってしまおう。イーストウッドはアメリカの歴史を描いていたのだ。アメリカそのものなのだ。例えば初期の西部劇作品。ドル箱三部作『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン『続・夕陽のガンマン』は監督はしていないが、演じる役に正義はない。自身の監督作品『荒野のストレンジャー』にも正義はない。『アウトロー』は若干正義がある。この正義がない作品は『許されざる者』再び観られる。何が言いたいかと言うと、アメリカは開拓の歴史がある。ヨーロッパから移住してきた人たちは銃と馬を持って広いアメリカ大陸を縦横無尽を駆け巡った。いつも死と隣合わせだ。つまり“勝つか負けるか”の繰り返しである。負けることは死ぬことだから、相手を殺して勝つしかないのだ。そこには正義がなかったことの方が多い。つまりイーストウッド作品の西部劇はアメリカ初期の姿を描いているのだ。正に歴史をなぞっているのだ。そして『ダーティーハリー』シリーズへ行く。これはどうだろう。ベトナム戦争でアメリカは疲弊している。若者の叫びが聞こえる。凶悪犯罪、猟奇的犯罪も増えてきた。犯罪者に人権が与えられ殺人を犯しても無罪になるケースが出て国民にはフラストレーションが溜まっていた。そこにハリーが現れたのだ。これも当時のアメリカ社会を反映している。

『許されざる者』は究極の悪党主眼の映画だ。それだけにメッセージが強い名作だ。

そして更に更に90年代に名作が生まれる。先にも上げたが『許されざる者』だ。こちらも正義はない。全くない。娼婦たちを哀れんで牧童を殺しに行くのではない。金が欲しいだけだ。娼婦は善か?いや殺人を依頼することで善ではない。保安官はどうか?全く悪党だ。暴力で街や人を抑え込む独裁者だ。その他、登場する人物のほとんだが善人とは言えない。これこそが名作たる所以なのだ。この作品が発表されたアメリカを思い出して欲しい。“湾岸戦争”があった。クウェートに侵攻したイラクをアメリカ主導の多国籍軍で徹底的に爆破した。これは正義だろうか?いや違うだろう。『許されざる者』は当時のアメリカに対して「こんなことして許されないだろう」と言うメッセージを送っている。実際、アメリカを憎むイスラム原理主義が台頭して世界は恐怖におののくのだ。イーストウッドはここでもアメリカの行方と湾岸戦争勝利の美酒に酔う国民に対して危機感を訴えているのだ。

『ミスティック・リバー』は“9.11”の報復とアフガン侵攻への是非を提言している。

更に『ミスティック・リバー』。これは間違いなくアフガン侵攻に対する反戦映画だと言える。その前年に“9.11”があった。まずはあの空撮。ボストン上空を低空で飛んでいく場面は貿易センタービルへ突っ込む飛行機をなぞらえて、アフガンを空爆する戦闘機を彷彿させる。このような演出で復讐と反戦を訴えるとは流石だと言える。もちろん物語も猟奇的であるが、事実確認が不明確なまま友人を殺害してしまう辺りがアフガニスタンに潜伏しているビンラディンに重なる。でもやってしまえばそれはもう戻れないから正義に置き換えるしかない。作られた正当性だ。

『ミリオンダラー・ベイビー』はイラクのフセインに対して。でもそこに正義はあったのか。

そして『ミリオンダラー・ベイビー』これほど悲しい物語はない。努力して栄光の座を掴んだのに後ろから不意打ちで未来を絶たれる。全てが終わる。この作品は“イラク戦争”について描いている。大量破壊兵器がイラク政府が持っていると称してイラクを攻撃した。結局イラクは持っていなかった。「勝つためには何でもして良いのか」あるいは「勝てば官軍」なのかと言う声が去来する。しかも汚い手段でやっつけるとは如何なものかである。

『運び屋』は年取ったアメリカの現在の姿をクリント・イーストウッドは演じている。

そして『運び屋』。本作のイーストウッドは正直言って“ヨボヨボ、ガリガリ、シワシワ”である。随分と年をとった。そしてもうすぐ死んでしまいそうな雰囲気だ。最後にイーストウッド演じるアールは刑務所で好きなデイリリーを育てている。この場面で私は深いため息をついてしまったのだ。「これはつまりイーストウッドはアメリカも随分と疲れ切ってしまっている。もう老人の国だ。自らの罪を認めて死を迎えよう」とでも言っているようだ。何とも意味深い。

このように考察するクリント・イーストウッドの偉大さが見えてくるのだ。彼は正に映画を通してアメリカの歴史から、アメリカに生まれた者の宿命とされた生き様を描いているのだ。クリント・イーストウッド作品を観ればアメリカ社会から世界が見えてくるのだ。

これほど素晴らしい映画人はもう今後出てこないだろう。

これが遺作にならないことを祈りたい。

あと1本くらいお願いします。

以下、その②へ続く

映画『運び屋』実話、ネタバレ、感想、評価。クリント・イーストウッドの仕事人間を実演しているようだ
『運び屋』(116分/米/2018) 原題『The Mule』 『運び屋』を演じるイーストウッドは自らの映画人生を運んでいるように見えた。  さて、前回はちょっとセンチメンタルになってしまってあまり良い原稿を書けなかっ...

 

以下、その③

クリント・イーストウッド監督作品『運び屋』実話は観れば観るほど、新しい発見がある。ネタバレ、感想、評価。
過去のクリント・イーストウッド作品を思い出すと、主人公は嫌な正確な奴がほとんどだ。イーストウッドは彼らの人生の舞台を苦悩や葛藤を描いている。でも決して“老い”に対する焦燥感に悩む人間を描いていない。このアールも87歳であるが、挑戦している。まさにクリント・イーストウッドそのものではないか。人生は続くのだ。いや続けるのが人生だ。

 

映画のことなら映画.comより引用

スタッフ

監督クリント・イーストウッド 製作クリント・イーストウッド
ティム・ムーア クリスティーナ・リベラ ジェシカ・マイヤー ダン・フリードキン ブラッドリー・トーマス
製作総指揮 アーロン・L・ギルバート
原案サム・ドルニック
脚本ニック・シェンク
撮影イブ・ベランジェ
美術ケビン・イシオカ
衣装デボラ・ホッパー
編集ジョエル・コックス
音楽アルトゥロ・サンドバル

キャスト
クリント・イーストウッド アール・ストーン
ブラッドリー・クーパーコリン・ベイツ捜査官
ローレンス・フィッシュバーン主任特別捜査官
マイケル・ペーニャトレビノ捜査官
ダイアン・ウィーストメアリー
アンディ・ガルシアラトン
イグナシオ・セリッチオフリオ
アリソン・イーストウッドアイリス
タイッサ・ファーミガジェニー
ユージン・コルデロルイス・ロカ
ローレン・ディーンブラウン捜査官
グラント・ロバーツDEA捜査官
ピート・バリスDEA地方担当官
ロバート・ラサードエミリオ
ソウル・ウエソアンドレス
リー・コック突撃銃の男
ノエル・Gボールド・ロブ
クリフトン・コリンズ・Jr.グスタボ
ダニエル・モンカダエドアル
ポール・リンカーン・アラヨサル
作品データ
原題 The Mule
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 ワーナー・ブラザース映画
上映時間 116分
映倫区分 G