映画『この世界に残されて』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品情報・概要・キャスト・予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
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『この世界に残されて』
(2019年製作/88分/G/ハンガリー)
原題『Akik maradtak』
【監督】
バルナバーシュ・トート
【製作】
モニカ・メーチ エルヌー・メシュテルハーズィ
【原作】
ジュジャ・F・バールコニ
【脚本】
バルナバーシュ・トート クラーラ・ムヒ
【撮影】
ガーボル・マロシ
【音楽】
ラースロ・ピリシ
【出演】
カーロイ・ハイデュク
アビゲール・セーケ
マリ・ナジ カタリン・シムコー バルナバーシュ・ホルカイ
【HPサイト】
映画『この世界に残されて』公式サイト
【予告映像】
映画『この世界に残されて』トレーラー
映画『この世界に残されて』のオススメ度は?
星4つです
とても良い映画です
「生き抜いてくれ」と願わずには要られません
純愛というこういうものです
希望を失った少女が最後の笑います
映画『この世界に残されて』の作品情報・概要
『この世界に残されて』原題『Akik maradtak』2019年ハンガリー製作の映画。第92回アカデミー賞の国際長編映画賞ショートリストに選出。バルナバーシュ・トート監督作品。カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ主演。第二次世界大戦後の1948年を舞台に、年齢差のある男女の同居生活を通して、お互いの存在意味から再起へ向けて立ち上がっていく様子を描いている。少女も医師も家族とナチスドイツによって虐殺されている。傷ついている二人は年齢差を超えて静かに気持ちを共有していく。しかしハンガリーはソビエトの支配下に置かれ、監視の目が厳しくなっている。
映画『この世界に残されて』のあらすじ・ネタバレ
第二次世界大戦後の1948年のハンガリーのブダベスト。両親と妹をナチスドイツに殺された16歳の少女クララ(アビゲール・セーケ)は叔母のオルギ(マリ・ナジ)に引き取られ暮らしていましたが、周囲に心を固く閉ざしていました。「両親と妹は生きている」と頑なに信じていましたが、周囲は理解してくれません。生理不順で病院へ行った際、アルド(カーロイ・ハイデュク)という42歳の医師と出会います。その後、生理が来たためクララはアルドのアパートに報告に行きます。アパート訪問で戸惑ったアルドですが、クララに優しくします。そしてクララがずっと両親と妹のことを思っていることに深く感銘します。「生きていることは不幸。私は取り残された」と言って死生観を語るクララをアルドは抱きしめます。その後、二人の距離は益々近くなり、同居することになります。しかしソビエトの影響を受けて政府は共産党色を強めて、国民の監視を強化していきます。
映画『この世界に残されて』の感想・内容
「頑張って生きて!」と願いたくなり映画です。冒頭の病院とエンドのバスの場面が印象的です。まず看護師が振り返りながらストレッチャーで人を運んでいます。その背景の音が“心音”なのです。映像的にはとても冷たい印象を受けます。それはハンガリーという国がかつてソ連の支配を受けていた名残を表していると思われます。そしてエンドのクララ(アビゲール・セーケ) に陽の光が当たった時の笑顔がとても素晴らしかったです。始まりと終わりの対比をうまく描いている名作だと思いました。
本映画『この世界に残されて』はハンガリー映画です。ハンガリーはナチスドイツに56万人ものユダヤ人が殺されたと言われています。ハンガリーの近代史は結構複雑です。王政から、ハンガリー・ソビエト共和国、再び王政でナチス・ドイツと協調、第二次世界大戦後はソビエト支配下の共産主義体制へと目まぐるしく移行します。本映画『この世界に残されて』の1948年から1953年を舞台にした少女・クララ(アビゲール・セーケ) と医師アルダール・ケルネル/アルド(カーロイ・ハイデュク) の年齢差カップルの予感を彷彿させる人間成長物語です。結末を1953年に設定したのは意味があると思います。何故ならばソ連の独裁者スターリンの死去がもたらすハンガリーの情勢と、さらに1956年のハンガリー動乱へ向かう気配が少し感じられるからです。
さて本映画『この世界に残されて』は戦争映画、つまり反戦映画のジャンルに入りますが、バルナバーシュ・トート監督は「ホロコースト以前やそのさなかの出来事を描いた映画はたくさんありますが、そこから生き延び、この世界に残された人びとの運命を描いた映画はあまりありません」と語っています。“残された人々”とはクララあり、アルドであり、彼らと同じようにナチスドイツに家族を殺害された全ての人々の気持ちを代弁した作品ということです。
戦争とは人間が作り出した最も“破壊的で非知性”な行いです。破壊の中から希望という光明を見つけるのは難しいです。非知性から脱却するには途方もない時間が必要となります。現に未だに過去の戦争を賛否する右翼的な人たちが世界中にいます。洗脳されて人たちに面と向かって意見をしても徒労に終わることが多いのです。戦争とはそれだけ人々を“分断”させてしまう恐ろしい行為です。
本映画『この世界に残されて』の主人公・クララ(アビゲール・セーケ) は戦争によって家族を殺され傷ついています。人とのコミュニケーションを嫌って、反発的です。そして「いつ死んでも良い」くらい刹那的な目をしています。彼女を引き取った叔母のオルギ(マリ・ナジ) も手を余しています。ある日、クララは生理不順のため病院へ行きます。そこで医師・アルド(カーロイ・ハイデュク) と出会います。言葉少ないアルドにクララは好感を持ちます。そしてオルギの許しを得て二人は一緒に暮らすようになります。もちろん、42歳のアルドにとって、16歳のクララは娘のような存在です。
でもクララはアルドに対して強烈な父性を求め始めます。そりゃあ、そうでしょう。殺害された父に甘えた経験も記憶もありません。クララはアルドのベッドで父の“匂い”を感じて眠るのです。映画を観ていて「男女の関係に発展するのか」とハラハラした人も多いと思います。わたしも同様でした。でもアルドはとても紳士でした。映画の演出的にはこの年齢差の男女がベッドで一緒に眠る行為が物語を引っ張ることになります。二人は確かにプラトニックですが、公共の場である公園で疑われるような行為をしてしまいます。単なる膝枕ですが、ハンガリーの情勢はすでにソビエトの支配下です。町中にはスパイならぬ監視人が多く潜んでいるのです。アルドの友人でさえ、ハンガリーの共産党に入党して「反乱分子を探す」ことを始めています。
映画『この世界に残されて』の結末・評価
本映画『この世界に残されて』は戦後のハンガリーの殺伐とした情勢下の中で織りなす究極の“恋愛物語”を美しく紡いで行きます。わたし的には年齢差の男女の恋愛が結実してほしいと願っていましたが、そうはなりませんでした。クララに恋人ペペ(バルナバーシュ・ホルカイ)ができます。この時のアルド演じるカーロイ・ハイデュクの残念な表情は素晴らしかったです。アルドは確実にクララに対して恋愛感情を持っていたと思います。しかし自我を抑えたと思います。本望かどうかわかりませんが、アルドはエルジ(カタリン・シムコー) と付き合うことでクララとの同居生活をやめます。この選択は二つの救済を表しています。ひとつは「共産党の監視から逃れる」こと。もうひとつは「禁断の愛への発展から逃れる」ことです。クララは泣きますが、アルドの選択が正しかったと言えるでしょう。
さて本映画『この世界に残されて』は1953年のスターリンの死去を伝えるラジオニュースで、静かな歓喜を迎えます。監視を恐れて大声は発しません。そしてクララの笑顔で終わります。その笑顔はとても穏やかでした。まさに『この世界に残されて』幸せだと言わんばかりの笑顔でした。
*ただ来たる1956年のハンガリー動乱によってさらなるソビエトの支配が強くなることを想像すると、クララの笑顔に胸が軋みました。
映画『この世界に残されて』のキャストについて
アルダール・ケルネル(アルド)(カーロイ・ハイデュク)
クララ(アビゲール・セーケ)
オルギ(マリ・ナジ)
エルジ(カタリン・シムコー)
ペペ(バルナバーシュ・ホルカイ)
まとめ 映画『この世界に残されて』一言で言うと!
「どうかこの後に訪れる“ハンガリー動乱”を生き抜いて欲しい」
本映画『この世界に残されて』のエンディングはクララの優しい笑顔で終わっています。それゆえにこの後に訪れる“ハンガリー動乱”が暗い影を落としてきます。どうか「生き抜いて欲しい」と願わずには要られません。
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映画『田園の守り人たち』
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映画『この世界に残されて』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
バルナバーシュ・トート
製作
モニカ・メーチ エルヌー・メシュテルハーズィ
原作
ジュジャ・F・バールコニ
脚本
バルナバーシュ・トート クラーラ・ムヒ
撮影
ガーボル・マロシ
音楽
ラースロ・ピリシ
アルダール・ケルネル(アルド)(カーロイ・ハイデュク)
クララ(アビゲール・セーケ)
オルギ(マリ・ナジ)
エルジ(カタリン・シムコー)
ペペ(バルナバーシュ・ホルカイ)
2019年製作/88分/G/ハンガリー
原題:Akik maradtak
配給:シンカ