『風をつかまえた少年』(113分/イギリス・マラウイ合作/2018)
原題『The Boy Who Harnessed the Wind』
映画『風をつかまえた少年』のオススメ度は?
星4つ
表面上はとても単純な物語です。
子どもにもわかりやすいです。
でも本質はとても重たいテーマを孕んでいます。
差別、貧困、家父長制度、児童労働、南北格差、地球温暖化。
是非とも子どもと観に行ってください。
映画『風をつかまえた少年』の作品概要
アフリカの小国マラウイ出身の少年が書いた書籍を原作に製作された映画。監督は『それでも夜は明ける』の主演を務めたキウェテル・イジョフォー。学校へ自由に行けない国があること、貧困、差別、家父長制度から地球温暖化などの要素もしっかり入れた佳作である。
映画『風をつかまえた少年』のあらすじ・ネタバレ
アフリカのマラウイの小さな村が舞台。住民の多くは農作物で生計を立てている。しかし毎年、大雨と干ばつに見舞われて安定した収穫がない。タバコ農家は葉っぱを乾かすために近隣の樹木を伐採し燃やす。樹木がなくなると洪水が起きる。現金収入が欲しい人、村を守りたい人が対立する。そんな状況の中、学校へ通うことで知識をつけた少年が風を使って電気を起こし、井戸から水を汲み上げ、畑に散水するというアイデアを思いつく。様々な困難を乗り越えて少年は目標を達成する。
映画『風をつかまえた少年』の感想・評価・内容・結末
学校にいけない子どもがいる。日本の義務教育に感謝したい
とても良い作品だと思います。日本でホノボノと暮らしていると世界の子どもたちが苦難の中で生活していることなど何もわからないかもしれません。
私たちの国では小中学校は義務教育でよほどのことがない限り学校へ通えます。子どものとって半ば半強制的であるから「学校など行かずに遊んでいたい」と思った経験もある人もいるでしょう。
でももし学校へ行っていなかったら何をするのか考えてみるも何も浮かんできません。友だちと遊ぶにも数日でネタが尽きて飽きてしまう気がします。
また働くことなんてまっぴらごめんです。だから学校へ行くのは子どもにとって一番良いことだと言えるのではないでしょうか。
マラウイでは子どもが学校へ行くのにお金がかかります
この映画の舞台のマラウイでは子どもが学校へ行くにもお金がかかります。それも結構な高額です。
ある程度、収入がある家の子どもしか行けないようです。ちなみに現在は2019年です。
この時代に子どもが自由に学校に行けない現実を受け止める必要もあります(先に観た『存在のない子どもたち』もそうであったように)この映画の中でとてもショッキングなセリフがありました。
「子どもを学校に行かせるなんてバカだ。学校へ行けば知恵がつく、知恵がついたら家を出て行く」確かにそうです。当たっています。出て行かれたら稼ぎがなくなり大変です。
新しい知識を入れたらもっと知りたい欲求が出ます。つまりは大きな夢を描くようになるからです。大海に出たくなります。でもそれが若者にとっては至極自然な感情です。
それを否定するような考えですが、彼ら(大人たち)は別に悪気はないと思います。
学校教育がもたらすメリットを教える必要がある
何故ならば彼らの風習、習慣、文化には学校などはなかったのですから。学校などの教育は欧米諸国が持ち込んだシステムに過ぎないのです。
ですから急速な文明化のため、マラウイの人たちの価値観が欧米の価値観に付いて行けないだけなのです。何故、学校が必要なのかをしっかりと教える必要があります。
それは子どもが家を出ていく可能性も、また子どもが学ぶことで大きなメリットを家にもたらしてくれることも教えることが大切です。
目先にあるお金に飛びつくのはどこの国も同じか、、、
映画はとてもわかりやすい構成となっています。子どもに是非観てもらいたいです。
アフリカの貧しい国のマラウイにある小さな村は農業に頼って生計を立てています。しかし大雨や陥没に見舞われて収穫が不安定です。
しかもタバコ農家が葉っぱを乾かすために村の樹木を切り倒し燃やしています。村で教養のある者は樹木を倒すと洪水から守れないと説きますが、それを笑い飛ばし樹木を売ってお金が欲しい者と対立構造も生まれます。
興味を持ったことを貫いた場所には笑顔がある
主人公の少年が学校へ通ううちに少しづつ知識を学びます。まずは電気に興味を持ちます。電気を起こす装置の自作に取り掛かります。
動力を使って井戸から水を汲み上げ村の畑に散水すれば安定した収穫があげられると考えます。
そして樹木をきることもなくなり、皆の生活も豊かになるのだろうとを願うのです。少年はその目的にまっしぐらに進むが古い頭を持つ父親に反対されます。こんな話です。
少年が夢へ向かう成功物語とこのマラウイが抱える問題も内包している
最後は少年の目的は達成されハッピーエンドとなります。みんなが笑顔になります。
この映画はただ「少年が大志を抱く」話ではありません。
まず第一に教育の必要性を訴えている。第二に児童労働という悪行の撤廃。第三になぜマラウイはいつまでも貧困なのか。第四に地球環境の様々な問題等についてだ。
ただ少年だけを追いかけているとこれだけ多くのメッセージが込められていることに気がつかないかもしれません。
実はとても複雑な物語なのです。この映画を監督したのは『それでも夜が明ける』の主演を務めたキウェテル・イジョフォーです。
初監督とは思えないほどきっちりかっちりと仕上げています。重いテーマを前面に出さず、深部に置いたことで更に胸に響く映画となっています。何度も観ればさらにマラウイの国、人のことがわかるでしょう。
もちろん主演のマックスウェル・シンバ の素朴な演技とアフリカの開放的な景色があったからこそ、しんみりした雰囲気にならなかったのは言うまでもありません。
もしこれを階級社会の束縛に苦しむヨーロッパの農民を舞台に描いたら真っ暗な作品になっていたでしょう。
小さな部族独特の風習とか慣習も入れて欲しかった
先に観た映画『北の果ての小さな村』は学校に通ってはいますが、学校教育より祖父母や両親、更に他の大人からの学びの方が大事だというメッセージがありました。
その通りです。祖父母、両親からの教えが一番大事です。でも今はそれだけでは不十分な時代になったことを認識しなければいけません。
イヌイットの教育は先進国がもたらした文明に対して揶揄した形も表していました。
でも本作ではこのマラウイの部族たちが持っている教育に対する知識が希薄という印象が強かったです。
私はちょっとその辺りに違和感を覚えました。本当は祖父母、両親、部族の長たちからちゃんとした教育がされていると思います。そこをもう少しうまく描いて欲しかったです。
でもとても良い映画でした。
映画『風をつかまえた少年』まとめ 一言で言うと!
教育は確かに必要だが、その土地、その地域に合わせた教育がある。
子どもの仕事は遊ぶことだと思う。野山を駆け回って遊ぶのが一番だ。その遊びの中で学びもある、それが理想だ。でも実際はそうはいかない。これだけ文明が目まぐるしく発展すれば否が応でも受け入れなければいけない。受け入れるということは何かが押し出されることだ。そうやってその個人、その集団、その組織が築き上げてきた文化、芸術、伝統が失われていくことを忘れてはいけない。
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映画『ワイルドライフ』
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映画『ホイットニー ~オールウエイズ・ラブ・ユー〜』
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我が子を押入れに押し込めて男との情事を楽しみます。
映画『J・エドガー』
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【子ども可愛がり映画】
映画『リアム16歳、はじめての学校』
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『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
こちらは母親依存です。
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【ある意味、毒親である気がする映画】
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映画『風をつかまえた少年』の作品情報
スタッフ・キャスト
監督
キウェテル・イジョフォー
製作
アンドレア・カルダーウッド ゲイル・イーガン
製作総指揮
フィル・ハント コンプトン・ロス ピーター・ハンプデン ノーマン・メリー ジェフ・スコール ジョナサン・キング ストライブ・マシイーワ ペイン・ブラウン ジョー・オッペンハイマー ローズ・ガーネット ナターシャ・ワートン
原作
ウィリアム・カムクワンバ ブライアン・ミーラー
脚本
キウェテル・イジョフォー
撮影
ディック・ポープ
美術
トゥレ・ペヤク
衣装
ビア・サルガド
編集
バレリオ・ボネッリ
音楽
アントニオ・ピント
ウィリアム・カムクワンバマックスウェル・シンバ
トライウェル・カムクワンバキウェテル・イジョフォー
アグネス・カムクワンバアイサ・マイガ
アニー・カムクワンバリリー・バンダ
マイク・カチグンダレモハン・ツィパ
ギルバート・ウィンベフィルベール・ファラケザ
ジョセフ・マーセル
エディス・スィケロノーマ・ドゥメズウェニ
2018年製作/113分/G/イギリス・マラウイ合作
原題:The Boy Who Harnessed the Wind
配給:ロングライド