永瀬正敏✖️菜葉菜W主演+井浦新の映画『赤い雪 Red Snow』(実話)は“ズシリ”と積もった。人間の記憶は曖昧で都合よく作られる。感想とネタバレ。

2019年製作
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『赤い雪 Red Snow』

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“ズシリ”と来る日本映画は久しぶりである。重たい雪に埋もれて起き上がれない。この映画を監督した甲斐さやかの生き様を知りたいと思った。

 

彼らの赤い雪は溶けないだろう

 この映画を観終わって半日経つがまだ重たい気持ちに包まれている(悪い気分ではない。とても良い意味で言っている。素晴らしい映画、いやこの映画監督に出会えて嬉しい)

 “ズシリ”と来ている。いつ以来であろうか。『接吻』以来か。かつて日本映画界にはこう言った映画が多かった。例えば『砂の器』『不毛地帯』『人間の証明』『青春の殺人者』などは、心にどっさりと何かを刻印してくれた。先に挙げた“ズシリ”だ。起き上がるのがきついのだ。本作はそれを思い出させてくれた(ちなみには日本映画には“ドロリ”と来る作品もある。それはいつか紹介したい)

幼児虐待を行う人間は最低である。未来を壊し、負の連鎖しか残さない、悪行である。

 幼児虐待はきつい。近親相姦もきつい。家庭内DVもきつい。この映画にはこれらがある。特に幼児虐待は今世間でニュース(2月7日現在)になっている子殺しと重なって更に重みを増してくる。幼少の頃、親から虐待を受けた子供は成長しても精神的に不安定な人が多いと言う。例えば怒鳴られまくって育った人は鬱になりやすいと言う、心に恐怖が刻印されていて取りきれないと言う。

 地層に例えると一番下の土台にあるから、取り除くのが厄介だそうだ。虐待を受けて育った人間は同じことをする可能性もあると言う、その矛先は交際相手だったり、子供だったり、あるいは自らの体に傷を入れたりすると言う。風俗で働く女性を取材したことのある人が言っていたが、リストカットをしている子、乱暴される趣向を好む子の幼児体験にはやはり上述した虐待を受けている子が多いと聞いて驚いたことがある。それだけ幼少体験というのは後の人生に大きな影響を与えてしまう。もちろん悪影響だ。

誰もが喋らない理由は何か、、。それは他者を犠牲にして愛を向けたかったからか。

 さて、本映画は30年前に自身の弟の失踪現場にいながら記憶を無くし、毎夜失踪した雪降る夜の夢にうなされ続ける男と失踪の鍵を知る女を主体に描いている。永瀬正敏演じる白川一希は雪の降る夜、外に出た弟を追いかけて見失ってしまう。両親は弟を必死に探す。地元警察も消防も探すが結局見つからない。捜査線上に付近のアパートに住んでいた女が浮かぶが、立証がつかめず結局30年経つ。

 菜葉菜演じる女の子、早百合は全てを目撃していたと予測されるが一切応えない。彼女は親から身体的虐待を受けていた。大人になった二人を井浦新演じる記者、木立が訪れたことから物語は一転していく。二人が会った瞬間に何かが崩落する。一希は記憶を繋げたい、早百合は喋りたくない。果たして記憶が繋がるのか、いや逆に記憶を消す方向に向かう。一希は早百合を殺そうとするのだ。何故か、、、。記憶が戻るのが怖いのだ。

記憶は時には残酷な結論を出す。でも本当の真実は一つであることは間違いない。

 この映画では「人の記憶はこんなにも曖昧で、残酷なものなのか」とか「記憶は都合の良いように作り変えられる」また「人は、強烈な体験の呵責、苦痛により、その間の記憶をすべて喪失することがある」 と言う問いかけに戸惑う。実際、どれも当たっている。私も過去の記憶で自分で覚えていることでもその時、一緒にいた友人との記憶では全く異なることが多々あるからはっきりと断言できない。でも真実は一つであることは間違いない。

ネグレクトと言う虐待が一番きつい。無視することだ。存在を否定されたら人間おかしくなる

 私がこの映画を観ながら感じたのは永瀬正敏演じる一希の表情が何故これほどまでに暗いのかと言うことだ。いくら弟が眼前で消えたとは言え、人目を避けるように生きる暗さに異様な雰囲気を覚えた。一希が過去の記憶を思い出す場面が何度もフラッシュバックして分かってきた。一希自身も両親から虐待されていたのだ。菜葉菜演じる早百合の身体的虐待ではなく、ネグレクトに近い。一希の両親は一希より弟への愛情が強く、一希に愛情を注がないどころか、失踪の責任を一希に着せる。これが一希の記憶を複雑にさせた原因だろう。

 一希は両親からの愛情が欲しくて本当は知っているのに知らないふりを通すことで記憶を消したのだ。それほど両親の愛情を自身に向けたかった。でもそれは結局徒労に終わる。大人になって一番苦しんでいるは早百合ではない、一希だ。深い、深ーい、闇の湖の底へ沈んでいく。早百合の闇は痛い、でも早百合は一希に言葉を発して少しは楽になっただろう。でも一希は言えないだろう。まさかあの失踪事件の真相が自分に合ったことなど、、、。真実を告白しなければ一希の人生に光は当たらないだろう。ずっと赤い雪が続く。赤い雪は弟が失踪した時に着ていたセーターの色と血痕をだ。あまりも重い。ズシリと来る映画だ。この赤い雪は溶けないだろう。

自身の心を虐待すると自由を失って、地獄の苦しみが待っているだけだ。

 人間は誰からも好かれたい、誰もの嫌われたくないと思う生き物である。良い子、良い人でいたいのだ。良い人でいるために嘘をついてしまうこともある。その嘘は自分に注目してもらい、同情してもらう嘘だ。それをやってしまうと心に呪縛をかけてしまい、自由を失う。自由を失った心は悲惨だ。何故なら自分で自分の心を虐待しているから逃れられないのだ。この映画を観て虐待の恐ろしさを改めて思い知った。

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【毒親が登場する映画】

映画『存在のない子供たち』

これがレバノンの現状なのだろうか。出生証明書もない子供たち

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存在のない子供とは出生証明書が国などの機関に提出されていない子供たち。世界を見渡すと実に多いという。存在が認められていないため病院にも行けず、学校にも行けない。しかも幼い頃から児童労働させられ、金品も搾取されている。女の子は売られていく。負のオンパレードしかない。一番大切なのは大人の教育。レバノンの女性ナディーン・ラバキー監督が描いた。

映画『ガラスの城の約束』

両親揃って社会から逸脱していて働きません。父親はアル中でDV野郎です。

映画『ガラスの城の約束』ネタバレ・あらすじ 毒親 ネグレクト 虐待 過保護 過干渉 こんな両親いらないと思った作品
社会と隔絶するように生きる家族。父親はアル中で無職、母親はアーティスト気取りで家事も育児もしない。子どもは4人。彼らの世界はこの毒親になる。飲んだくれで暴言を吐く父親に洗脳されているかのようで、父親を尊敬、崇拝している。しかし成長するにつれて一家がおかしいと気づく。そして家を脱出する。毒親、ネグレクト、ハラスメント。

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