『ゴッズ・オウン・カントリー』は差別、偏見なき世界を願った名作である。ネタバレ

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映画『ゴッズ・オウン・カントリー』公式サイト
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』公式サイトです。2.2(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他全国ロードショー

 

『ゴッズ・オウン・カントリー』(105分/英/2017)

原題 『God’s Own Country』

 

男女の恋愛も良いが、同姓同士の恋愛も同じエモーションで起きる。“LGBT”への差別と偏見をなくし、理解を深めてくれる映画だ

映画は時代の映し絵というが、正にこの映画の現代の風俗、世相を表している。

 これは歓迎と言って良いと思うが、最近の世界の映画のジャンルというか、傾向は同姓との恋愛をテーマにした作品が多い。特に男性同士の恋愛が多くなっている。やはりLGBTへの差別と偏見を無くそうという運動が世界的に広がった影響が多い。もしくは映画を通して広がったのかもしれない。私がここ2、3年で観た映画でもいくつかパッと思い出せる。『君の名前で僕を呼んで』『ムーン・ライト』『たかが世界の終わりに』など。もっと記憶を遡れば『バット・エデュケーション』『ブローク・バックマウンテン』『ブエノスアイレス』などが浮かぶ。本作は『ブローク・バックマウンテン』のハッピーエンド版に近い気がする。

恋の始まりは最悪の第一印象から。後は印象は良くなるばかり

 イギリスのヨークシャーで家業の牧場を継いでいるジョニーは毎日、鬱屈した日々を過ごしていた。過酷な酪農と孤独な日々、父は身体に問題があり働けない。にも関わらず口うるさい。たまに街に出て酒を飲み行きずりの恋をする。相手は男だ。ある日1週間だけアルバイトを雇うことになった。やってきた男はルーマニア人のゲオルゲ。ジョニーが嫌うタイプの人種だ。ジョニーはイギリスでは差別用語として発する“パキ”とか“ジプシー”と呼んでからかう。耐えきれずゲオルグは怒り、ジョニーをぶっ飛ばす。そして二人は友情を結び、更に深い仲に、、、。と言う物語だ。

イギリス社会に根付く閉鎖的な階級社会に対する訴求も含んでいる。フレディーもそうだったように。

 ジョニーの目は人も社会も斜に構えて見ている。ひねくれている。同級生の女の子は街を出て都会の大学で楽しそうなキャンパス生活を送っている。自分は毎日、牛や羊の世話に追われ働き通しだ。しかも父は体を壊し働けないのに文句ばかり言う。母はいない。代わりに祖母がジョニーを育てた。でも救いはある。家業の酪農は決して嫌いではないことだ。何とかうまく経営したいと願っている。そこへ現れたのが、ゲオルグだ。最初はパキスタン人かと思いからかった。イギリスへ行ったことがある人はわかると思うが、イギリスにはインド系の人が多く移り住んでいる。かつてインドを植民地にしていたからだ。彼らのことを総称して“パキ”と言う蔑称で呼んでいる。『ボヘミアン・ラブソディー』を観た人は劇中フレディーがそう呼ぼれているのを覚えているろう。このようにイギリスは差別が激しい。何と言っても白人で上流階級の人が一番偉いと言う構図は未だにある。そして肉体労働者は最下層になり、更に彼らはその矛先を移民にぶつける。これらの差別、いや階級社会が根付いた世界でタブーとされる同性愛と知られると更に差別されるのはわかっている。そういったことを踏まえてこの作品を作ったとしたらとても勇気ある試みだと思う。

優しくされると辛い、それは自分が無力だからだ。だからこそ、頑張らないと!

 さてさて、劇中忘れられない場面がある。ジョニーとゲオルグが牧場の高台から街灯りを見ながら語る場面だ。おそらくジョニーは街が恋しい。こんな生活から抜け出したいと言う願いがあるが、父、祖母の面倒を見なきゃいけない。でも、、、。そこへゲオルグが助け舟を出す。「今のままでは経営がうまくいかない、変えなければ」これは本当に美しい場面だ。ゲオルグの優しさが身にしみる。しかしジョニーは生活を変える勇気がない。ヤケになりゲオルグを裏切ってしまう。大切な愛を失って初めて気がつくことがある。ジョニーは生活から経営から全てを変える決心をする。父に支配されていた仕事のやり方からも脱出することを決心してゲオルグと生きる。

人生を歩む時、恋愛は大きな“光”を灯してくれる。それは男も女の関係ない

 ジョニーは将来に対して夢も希望もない日々に突然現れたゲオルグに光を見出す。自分には学も才もないが、ゲオルグにはある。牧場経営は嫌いではない。そんな時に現れたゲオルグに恋してしまった。一見、打算的と思えるが、人間は自分にはない才能を持っている人に惹かれることを考えればごく自然の流れだ。ただイギリスという階級社会が未だに浸透している国では同性愛などもっての外を考える人も多いだろう。更にアングロサクソン系ではなくルーマニア人(おそらくラテン系)との恋愛はタブーというか、蔑視されるだろう。この映画のシチュエーションがルーマニア人というのも良かったと思う。イギリスに詳しい人に聞いたら、とにかくイギリスは東欧からの出稼ぎが社会問題になっているとという。主にポーランド人やルーマニア人。かつての社会主義国だ。彼らは安い賃金で働くからイギリス人の仕事を奪っているそうだ。そういったこと踏まえての作品意図だからこれは監督の平和というか、友好、共存を目指すメッセージとしては素晴らしい作品である。