『世界の涯ての鼓動』
(112分/ドイツ・フランス・スペイン・アメリカ合作/2017)
原題『Submergence』
映画『世界の涯ての鼓動』のオススメ度は?
星5つです。
間違いなく素晴らしい愛の物語です。
胸が軋みます。
張り裂けそうな気持ちになります。
絶望的な恋愛の行方にドキドキしっぱなしです。
是非とも恋人と観に行ってください。
映画『世界の涯ての鼓動』の作品概要
『アメリカの友人』『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ 』と常に異彩を放ち、世界の映画作家に衝撃を与えてきたヴィム・ヴェンダース監督の最新作。原題は『水没』。出会う運命にあった二人は離れ離れになるが、互いに魂では共鳴し合っている。絶望的な状況の中でも愛は強いのだとメッセージを感じる。
映画『世界の涯ての鼓動』のあらすじ・ネタバレ
イギリスMI6の諜報員ジェームス(ジェームズ・マカボイ )と生命の起源について研究する生物数学者ダニー(アリシア・ヴィキャンデル )とが休暇中に出会います。その場所はかつて第二次世界大戦の激戦地ノルマンディ。二人は互いの素性を探りながら恋に落ちます。そして5日間、熱烈に愛し合います。しかし二人にはそれぞれ重要な仕事があり、別れます。もちろん再会を誓って。それぞれの仕事は命がけ。二人は危機的状況の中、二人で過ごした日々を思い出し、さらに再会を夢見ることで生き延びます。
映画『世界の涯ての鼓動』の感想・評価・内容・結末
ヴィム・ヴェンダースからの贈り物は珠玉の恋愛物語
ヴィム・ヴェンダースの凄さを改めて見せつけられた映画です。これほど素晴らしい恋物語はありません。胸が軋み張り裂けそうな物語です。純愛以外の何物でもありません。
恋とは本当に儚いものです。熱く太く短かいほど強く燃え盛ります。その二人の愛のエネルギーは悲恋を表していますが、ハッピーエンドを望んでしまうのです。
この映画は大人になった男女が出会い、時間と距離と空間を越えて愛を、いや愛だけを支えに生きたいと呼び合う珠玉の恋愛物語です。深海の果て、南ソマリアの涯てでも二人の魂は呼び合って共鳴しています。子どもにはわからないかもしれません。
死が迫る絶望的なシチュエーションが醸し出すロードムービー
ヴィム・ヴェンダースの映画はロードムービーというイメージがありますが、実際はSF『夢の涯までも』(91)や音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』やホテルを舞台劇にした『ミリオンダラー・ホテル』など多彩で、ひとつに括ることができません。
他の映画作家が嫉妬してしまうほど表現の懐が深いのです。そして今作『世界の涯ての鼓動』を観て感じたのはロードムービー的要素もドキュメンタリー要素もふんだんにみられることです。
前者は二人とも“漂流”している様、そして後者は世界の“今”の叫びを表しています。二人は深海と南ソマリアで遠い距離にいますが、その間に入る空間と時間が絶望的なほど再会を阻んでいます。
距離的にはひとっ飛びですが、海の果てとテロリストに拉致された空間には途轍もない距離と時間が立ちはだかります。二人の置かれた場所では過ぎ去る時間の感覚も違うでしょう。だから互いに思い出すことで心の愛した人を身近に置くのです。
ヴィム・ヴェンダースの次作は宇宙モノと勝手に期待させる作品
ひょっとしたらヴェンダースの次期作は宇宙モノになるのではと勝手に期待してしまいました。
何故ならば、本作では生命の起源を深海調査へ行く女性生物数学者とテロリストに立ち向かうMI6の諜報員の生き様を通して“生きる”ことの意味を提起しており、この生命の起源をたどるなら宇宙になるからです。
あらゆる生命は宇宙から来たからです。次作は宇宙モノ映画を謹呈してくれると勝手に思っています。
命がけの仕事の前の束の間の愛の日々
さてさて、映画の二人は出会うべくして出会いました。場所がノルマンディーというのも意味深いです。第二次世界大戦終盤の激戦地です。多くの映画の題材となっています。
あの忌まわしい、醜く残酷な戦争があったことなど嘘のように海は青く、空は晴れ渡っています。これから起こる悲劇と悲恋など嘘のようです。
生命の起源について研究する女性生物数学者ダニー(アリシア・ビカンダー )とイギリスMI6の諜報員ジェームス(ジェームズ・マカボイ )が休暇中に出会います。
必然的な出会いです。彼らはこの後、人生をかけた大仕事が待っています。この出会い方が実にスマートでした。こんなに自然なら誰しも恋に落ちてしまうのではと感じる素敵でした。
二人の出会い方と知性的な会話の演出が素晴らしい
二人の交わす言葉が実に知的で、それでいて相手の素養を探り合うところが良かったです。
この演出はお互いが特殊な任務を持っているため、相手の知性教養がどれだけ高いか、そして信用できるかを図っているのだと感じました。
つまり安易なリゾートラブなどは最初からお断りというメッセージのやりとりだと思います。そりゃ、そうでしょう。
この二人は人類にとってこの後、とても貴重な任務があるわけですから、危険人物との接触は気をつけなければいけません。ですからこういった演出に「さすがヴィム・ヴェンダース監督」と手を打ちました。
たった5日の日々が二人に希望を与えるほどの強い愛を生んだ
二人はたった5日間で互いが人生のパートナーと認識して別れる(別れる場面の最後のキスがたまりません。もう会えないことを予感させています)
ダニーは海底調査へ、ジェームスは南ソマリアのテロリスト撲滅のために。互いに命がけの仕事です。
そしてこの5日間で育んだ愛を生きがいにするのです。ダニーは初めての本当の恋のため仕事に熱が入りません。
ジェームスへ電話、メールを送りますが、一切返信がなくてイライラしてしまいます。しかも目前に超深海調査の期日が迫ってきます。そして潜ります。
しかし海底で探査船が操縦不能となり、命の危険にさらされてしまうのです。一方、ジェームスは南ソマリアへ水道技師と偽り、入国すしますが拘束され拷問、監禁されてしまいます。
不衛生な真っ暗な穴倉に閉じ込められ絶望の日々を過ごします。いつ殺されるかわかりません。そんな絶望的な状況の中で二人が希望を見出したのは、あの素晴らしい5日間の日々でした。
そして二人はもう一度再会したいと強く願うことで生き延びていくのです。愛は強いのです。
ジェームズ・マカボイとアリシア・ヴィキャンデルの演技
もちろんハンサムでタフガイ、しかもヒーロー物もやってのけるジェームズ・マカボイはヴィム・ヴェンダースとのミーティングでかなり出演を売り込んだそうです。
ヴェンダースはひたすら黙って聞いて何も言わなかったそうで、「あ、ダメかも」と思ってた翌日、オファーをもらい天に昇る気分だったそうです。本作では実に複雑な役を演じている。
MI6の諜報員、水道技師、そして恋する男。共通しているのはほとんど感情を前面に出していないことです。落ち着いているです。それが諜報員の資質なのだろうと感じました。
アリシア・ヴィキャンデルは言わずと知れたオスカー女優です。とにかく美しい。しかも知的です。あの微笑みから切り替わる真剣な顔が良いのです。一点を見つめるというか、灯されたロウソクの光の中に入っていくような雰囲気を持っています。
彼女もヴィム・ヴェンダース監督の大ファンであり、オファーをもらった時「夢が叶った」と喜んだそうです。さて、この二人実は知り合いでもあ、たそうです。
アリシア・ヴィキャンデルの夫のマイケル・ファスベンダーとジェームズ・マカボイと友人同士。だから何となくラブシーンはやりにくかったそうです。
ヴィム・ヴェンダース監督はなぜ南ソマリアを舞台にした理由
映画には現在の世界情勢もしっかりと描かれています。2001年以降、台頭するイスラム原理主義に対する危機感です。
しかしイスラム原理主義がこれほど巨大になったのはいうまでもなく欧米諸国の責任で大きいのは周知の事実です。
では何故、本映画『世界の涯ての鼓動』の舞台は南ソマリアにしたのでしょうか。それはかつて南ソマリアはイギリスの植民地であったこと、そして国連が派兵した軍はなす術もなく敗走したこと、さらにこの南ソマリアが面するインド洋、アデル海は今後の世界情勢の貴重な要衝であることがあげられるでしょう。
本来ならこういう諜報員映画はアメリカのCIAお決まりですが、諸般の事情からイギリスのMI6がお出ましとなったのだと思います。
本映画『世界の涯ての鼓動』は家に持ち帰って答えを作る物語
しかも南ソマリアは無政府状態です。イスラム原理主義が制圧しており、テロリスト養成の地となっています。一刻も早く撲滅しなければいけません。
しかしながら先にも書来ましたが、このような現状を作ったのは欧米諸国の人たちです。その責務についてはヴィム・ヴェンダース監督は明言していません。
それは我々が持ち帰って精査すれば良いと思います。ヴィム・ヴェンダース監督は世界の果てと涯てでも愛し合う美しき愛を描いています。
エンディングには賛否両論あります。私は二人は再会して幸せになったと思います。
*映画の原題『Submergence』は水没となります。互いの心に水没するほどの恋愛をしてみたいものです。
映画『世界の涯ての鼓動』まとめ 一言で言うと!
人生に必要なのはたった一人の愛だけで良い。
本当に愛とは生きる希望をくれます。真の愛とは何かは人によって異なります。本作『世界の涯ての鼓動』の主人公はとても知的教養の高い二人です。彼らが愛の条件に求めたのは“インテリジェンス”と“寛容”だったような気がします。若き日の“恋は盲目”的な要素もありますが、魂から共鳴し合う様が大人の恋だと感じました。
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映画『芳華-Youth-』
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映画『魂のゆくえ』
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映画『ソローキンの見た桜』
100年前の日本でこんな恋物語がありました
映画『ビール・ストリートの恋人たち』
不当な差別によって離れ離れになってしまったが強く愛し合う
映画『ヒア アフター』
時間、空間、距離を越える、心が呼び合っている。
映画『世界の涯ての鼓動』の作品情報
スタッフ・キャスト
監督
ヴィム・ヴェンダース
製作
キャメロン・ラム
製作総指揮
スティーブン・ボーウェン ジェフ・カリジェリ ピラール・ベニト サラ・ジョンソン デビッド・ビール アンドリュー・バンクス マイケル・ジャイルズ バディ・パトリック ロバート・オグデン・バーナム ケビン・スコット・フレイクス リサ・ウォロフスキー ジェームズ・ギブ フィリップ・モロス
原作
J・M・レッドガード
脚本
エリン・ディグナム
撮影
ブノワ・デビエ
美術
ティエリー・フラマン
衣装
ビナ・ダイヘレル
編集
トニ・フロッシュハマー
音楽
フェルナンド・ベラスケス
ジェームズ・モアジェームズ・マカボイ
ダニー・フリンダーズアリシア・ヴィキャンデル
ドクター・シャディッドアレクサンダー・シディグ
サイーフレダ・カティブ
アミール・ユスフ・アル=アフガニアキームシェイディ・モハメド
ケリン・ジョーンズ
2017年製作/112分/G/ドイツ・フランス・スペイン・アメリカ合作
原題:Submergence
配給:キノフィルムズ