映画『エデンの海(1976)』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品概要・キャスト・予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
映画『エデンの海(1976)』IMDbサイトにて作品情報・キャスト情報をご確認ください。
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『エデンの海(1976)』
(1976年製作/85分/日本)
【監督】
西河克己
【脚本】
馬場当
【原作】
若杉慧
【製作】
堀威夫 笹井英男
【撮影】
萩原憲治
【美術】
佐谷晃能
【音楽】
伊部晴美
【出演】
山口百恵
南條豊 紀比呂子 伊藤雄之助 井上昭文 和田浩治岸田森 山岡正義
摂祐子 坂巻祥子 山本由香利 安武まゆみ 浅野温子 岩田恵子 谷川みゆき
樹木希林 北林谷栄 雪丘恵介 三崎千恵子
【HPサイト】
映画『エデンの海(1976)』IMDbサイト
【予告映像】
映画『エデンの海(1976)』トレーラー
映画『エデンの海(1976)』のオススメ度は?
星3つ半です
「すごい」映画です
演出がすごい
百恵ちゃんが「オシッコ出てる」と言います
樹木希林さん「パンツ、売ってください」
LGBTQをバカにしている表現あり
映画『エデンの海(1976)』の作品情報・概要
西河克己監督作品。山口百恵主演。1950年中村登監督が同作を撮っており、その際、西河が助監督を務めている。そして26年後、自ら監督してリメイクする。脚本も前作と同じく馬場当。百恵の相手役は南條豊(山口の主演映画では三浦友和以外の俳優が相手役になった唯一の作品)浅野温子デビュー作品。
LGBTQにテーマをおいた映画
映画『エデンの海(1976)』のあらすじ・ネタバレ
瀬戸内海の女子高に新任の教師・南条先生(南條豊) が着任する。なんとヘリコプターに乗って登場しみなを驚愕させる。爽やかで都会的な南条に女子生徒たちは色めき立つ。しかし清水巴(山口百恵) だけは冷めた目線を送っていた。清水は学校の問題児。良い噂がない。すでに性体験があり、レズビアンのお葎っあん(樹木希林) とも関係があると言われている。クラス対抗の運動会で清水が転倒し意識を失う事故が起こる。医務室で目が覚めた清水は付きそう南条の前でオシッコをもらしてしまう。南条は慌てて町へ出かけてパンティーを買って清水に手渡す。しかしこの「パンティー事件」が学校はおろか町を揺り動かす事件に発展する。教師を生徒の禁断の愛の疑惑が、、、。職員会議で槍玉に上がった南条はパンティーを買ったことは認めるが、清水の「オシッコ事件」には口を閉ざす。窮地に追い込まれる南条。その時、職員室のドアを開けて現れた清水は「わたしがオシッコをもらしたんです。だから先生にパンティーを買ってきてもらった」と号泣する。
映画『エデンの海(1976)』の感想・内容
「絶対に観て欲しい映画」です。本映画『エデンの海(1976)』をいま改めてリメイクするとしたらかなり脚本を変えなければ撮れないでしょう。ある意味「アウトな映画」と言えるのです。でも、芸術表現として自由な時代であったと証明として映画史に残すべき映画であることは間違いありません。特にLGBTQ問題に対しては差別的な表現のオンパレードです。樹木希林さんの演技がすごいです。役柄としてはレズビアンのお葎っあん(樹木希林) という英語講師です。清水巴(山口百恵) のパンティーを求めて南条先生(南條豊) の下宿へ押しかけて「巴ちゃんのツンパ(パンツ)ください」と押し倒すのです。挙げ句の果てには「巴ちゃんのツンパ、売ってください」とやります。もう笑って良いのか、ダメなのかわからなくなります。
その他にも見所はたくさんあります。冒頭がすごいです。新任教師の南条先生(南條豊) は初日早々、遅刻です。波崎高校の校庭で新学期の挨拶をしている校長先生も困っています。すると突然、ヘリコプターの爆音が鳴り響きます。そして狭い校庭に着陸して南条先生が颯爽と現れるのです。良いですか、高校の校庭にですよ。しかも生徒たちからわずか数十メートルの距離に着陸です。これ、完全に航空法に違反しています。ヤバいですね。もうこれだけで度肝を抜かれますが、この南条先生(南條豊) 先生は大卒一年目なんですよ。それがこんなに派手な登場をしてはその後の教員生活に絶対に支障が出るでしょう。南条先生はヘリコプターから降りて、校長を押しのけてマイクを握り「山に入ってました。友人に頼んでヘリコプターで来ました」とか「嫌いなものはヤモリと君たちみたいな女子生徒です」と言い放つお調子者です。
いやいや、本当に観ていてこっちも困ってしまうのです。本映画『エデンの海(1976)』は名匠である西河克己監督作品です。西河監督は過去にも同名の映画を撮っており、今回はセルフリメイクです。なのにこのあり様は何なのか?と頭が真っ白になる演出の数々が繰り広げられるのです。わたしの単なる予想ですが、主演の山口百恵はオッケーとして、相手役が三浦友和ではなく、新人の南條豊になってヘソを曲げたとした思えないのです。西河監督は映画伊豆の踊子(1974)』、映画『潮騒 しおさい(1975)』 、さらには映画『絶唱(1975)』1975)』で百恵&友和で大当たりさせています。誰が監督しても「もうこの二人で行くしかない!」と思うはず。しかし、この時の三浦友和さんは文芸作品に消極的であったと言われています。本人的には萩原健一、松田優作のような不良的、アウトロー的な役を欲していたそうです。その余波もあってかキャスティングが困難になったのかもしれません。でも、でもです。新人の南條豊さんには全く責任はありませんし、めちゃくちゃ頑張っています。
さてさて、まだまだ続きます。新人の南条先生をもてなす懇親会の席で他の教師たちが「清水巴(山口百恵) は変態。同性愛者なんです」と言います。これもすごいですね。「お葎っあん(樹木希林) さんのところで英会話を習っていて、レズの印として小指の包帯を巻いているのです」と続けます。いやいや、いくら時代とはいえ、かなりデリカシーのない発言です。まだまだ続きます。男子高校生が学校新聞の取材として南条先生にインタビューしますが、「初体験はいつですか?」と聞いたり、その際撮影した写真を売りさばいたり、さらにはトイレを盗聴したりします。そして圧巻なのは南条先生を夜討ちしてけがを負わせるという悪党ぶりなんです。もう笑って良いのかわかりません。
清水巴(山口百恵)はクラスで孤立しており、結構なイジメを受けています。筆頭はなんと浅野温子演ずる岩井昌子です。巴の帰り道で待ち伏せして襲います。そして「勝負しな」と言って田んぼへ連れいきます。勝負の方法が笑えるのです。なんとヒキガエルの股裂きを命じるのです。百恵ちゃんもヒキガエルの脚を両手で持っています。それを引き裂いた方が勝ちというすごいゲームです。今では動物愛護協会からクレームが来るでしょう。
そして一番苦笑したのが清水巴(山口百恵) が運動会で転んで脳震盪を起こして、「オシッコが出てる」発言をした場面です。テントの医務室に運ばれて意識が混濁しています。南条先生は巴の胸に十字架を切ります。そして目覚めた巴が「あ、オシッコが出てる」と恥ずかしそうにいうのです。いわゆる“お漏らし”です。いやいや、当時はもう大アイドルですよ。その百恵ちゃんに「オシッコが出てる」と言わせる映画って国宝物でしょう。しかもこの“オシッコ事件”がのちのち大きな問題に発展するのです。南条先生の進退にも影響を与えるのです。これは深刻です。
話を戻しますが、南条先生はオシッコを漏らした清水巴(山口百恵)のパンティーを買いに町の衣料店へ出かけます。そこの店員が運悪く担当クラスのお姉さんでした。恥ずかしそうにパンティーを買って巴に私ますが、如何せん田舎ですからすぐさま噂が広まります。「南条先生が女子生徒(巴)のパンティーを買った」です。もう大事件です。南条先生と巴の禁じられた関係にみんなが色めき立つのです。そして南条先生は追い詰められるのです。そして職員会議で「パンティー事件」が審議されていますが、南条先生は巴の“オシッコ事件”については喋りません。それは巴との約束であり、事件のことを話すと巴を傷つけるからです。もう南条先生はクビ覚悟です。
するとですね。巴が職員室のドアを開けて入ってきます。軽蔑の眼差しで先生たちを見回して、開口一番「わたしがオシッコを漏らしたので、南条先生が買ってきたのです」と言い放ち大泣きするのです。いやあ、この場面は本当は感動の涙を誘う演出だと思うのですが、さすがに泣けませんでした。いやいや、山口百恵さんの口から「オシッコ(漏らした)」発言が聞けるとは、いまだに信じられません。
映画『エデンの海(1976)』の結末・評価
さらにさらにまだまだ続きます。冒頭にご紹介したように“性差別”の描写がてんこ盛りです。樹木希林さんのレズビアンの演技はちょっと滑稽ですが、やっぱり味があります。“レズの印”として小指の包帯も差別的ですが、「君はレズなのか」とか「同性愛は変態」などの表現がいくつかあります。こういう表現は現代ではできないと思います。そして終盤になってくると詰め込むような演出が点在してきます。南条先生は学校をサボって馬に乗って遊び呆ける巴を海岸で見つけます。そして白い水着をプレゼントするのです。大喜びの巴は木の木陰で水着をきます。「先生に見られるんだったら平気」と言います。そしてですね。ここからがすごいのです。巴と南条先生は馬に乗って町へと疾走するのです。巴ちゃんは白い水着のままです。町中が大騒ぎです。しかも落馬事故を起こします。二人とも怪我をします。南条先生は軽症ですが、巴はかなりの出血もあって、輸血することになります。もちろん、南条先生が血液を提供するという短絡的な流れです。
いやいや、すごいのですよ。本当にすごい脚本なんですよ。ある意味「自由に創作できた時代」の象徴的な映画です。映画は南条先生が退職という形で結実します。担当クラスの別れの場面は文学的です。「愛とは選ぶものではない」と南条先生が言うとある性が「愛とは奪うものです」と言って返します。それに対して「愛とは与えるものだ」と南条先生が言います。観ていて「選ぶの、与えるの、どっち?」と考えてしまいます。いやいやそこからなぜか、クラスの女子全員がそれまで巴を敵視していたのに「先生と清水さんの関係を応援します」となるのです。そして女子生徒たちが「南条先生!」と泣きながら突進していきます。最初の女の子の突進はかなり強烈です。ラグビーで言えばタックルです。肩口が南条先生の溝うちに入っています。
さてさて、ここまで本映画『エデンの海(1976)』の感想を書いてきまししたが、決してディスっているわけではないことを重ねて申し上げておきます。映画のラストは南条先生が船で帰京する場面です。かつて南条先生に夜討ちをかけた男子生徒3人が無礼を詫びます。遠くで船を見送る清水巴の目には涙がいっぱいです。ここで名言、いや迷言が出ます。「嫌い、嫌いよ、思い出なんか」と言って海岸に砂浜を走っていきます。これでエンドです。
いやはや「すごい作品」でした。わたし自身嫌いではありません。何度も観直しています。もう一度繰り返しますが、本映画『エデンの海(1976)』は名匠・西河克己監督作品なんですよ。前作の『絶唱』を撮った人です。さらに百恵&友和コンビでは『霧の旗』という松本清張のミステリーも撮っています。それが「どうしたんだい、西河監督?」なんですよ。もっと言うなら石原裕次郎を撮った映画若い人(1962)』も抜群の演出を行った監督です。それが、、、、。映像撮影的にもなんだかこだわりが感じられないのです。忙しかったんでしょうね。
ただ、何度も書いていますが百恵さんの「オシッコ出てる」発言が聞ける映画ってそんなにありません。しかも百恵さんが生着替えをする映画もそんなにありません。そう言った意味では日本映画史の重要な作品として残すべき映画であることは間違いありません。
*樹木希林さんの演技も忘れてはいけません。
映画『エデンの海(1976)』のキャストについて
清水巴(山口百恵)
南条先生(南條豊)
増川先生(紀比呂子)
校長(伊藤雄之助)
松下先生(岸田森)
老教師(山岡正義)
岩井昌子(浅野温子)
お葎っあん(樹木希林)
まとめ 映画『エデンの海(1976)』一言で言うと!
「天気では判決は左右されない。でも時代の雰囲気で判決は左右される」
これはアメリカで連邦最高裁判事を務めたルース・ベイダー・ギンズバーグを描いた映画『RBG 最強の85才』』で紹介された言葉です。もちろん本映画『エデンの海(1976)』は事件事故ではありませんから、該当しません。でも社会変化が著しかった参考映画として鑑賞するにはもってこいの映画だと思います。今では絶対的にNGな表現がたくさんあります。でも逆を返せば「自由な表現」が許されていた時代と言いかたもあります。
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合わせて観たい映画
【山口百恵文芸シリーズ】
映画『伊豆の踊子(1974)』
山口百恵と三浦友和のゴールデンカップルの始まり!
映画『潮騒 しおさい(1975)』
山口百恵も良いが漁師の三浦友和の男気が最高です
映画『絶唱(1975)』
もう「絶望的」としか言いようがない映画です
映画『風立ちぬ(1976)』
昭和初期の上流階級の二人の悲恋
映画『ふりむけば愛』
山口百恵と三浦友和が結婚を決意したサンフランシスコロケ
映画『炎の舞』
あまりにも「絶望的な結末」の絶句します
映画『ホワイト・ラブ』
山口百恵&三浦友和海外ロケ第二弾はスペイン
山口百恵出演映画全リスト三浦友和との愛の軌跡が見える『伊豆の踊子』から『古都』
【高校生が頑張る映画】
映画『君の膵臓をたべたい(2017)』
とても切ない青春映画です
映画『コクリコ坂から』
夢も希望のあった1960年代の高校生が羨ましい
映画『思い、思われ、ふり、ふられ』
なんとも言えない高校生の恋愛事情
映画『君が世界のはじまり』
等身大の高校生を描いている作品ではないか!
映画『カセットテープ・ダイアリーズ』
パキスタン移民であり英国国籍の作家の青春物語
映画『WAVES ウェイブス』
「誰か助けてあげてよ!」と叫んでしまった映画
映画『翔んだカップル』
本作で薬師丸ひろ子は女優の道を進む決心をした映画
映画『ルース・エドガー』
両親には感謝しているけど、、、、
『君の名は。』
ある日、突然高校生が入れ替わった
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
未来へ戻るためにマーフィーは駆け抜けます
映画『チアダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』
青春のすべてをダンスにかける!
映画『ラストレター』
高校生で母を自殺でなくすなんて、、、
映画『かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦』
おバカさん映画ですが、、、、
映画『秒速5センチメートル』
かなり重たい気持ちになりますが、、、
映画『ブレス あの波の向こうへ』
サーフィンと青春と友情の果ての“恋愛”
映画『キューポラのある街』
吉永小百合さんが可愛すぎる
映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』
高校生がスパイダーマンになった日
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
タイの高校生のお受験事情
【LGBTに関連した映画】
映画『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』
宗教よりやっぱり「あなたが大事」なんです
映画『ボーダー 二つの世界』
新しい「性」の世界を描いています
映画『グッバイ、リチャード!』
初めて男性と愛し合うジョニー・デップ
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
卒業前夜に「彼女に愛を告げた」でも振られた
映画『ペイン・アンド・グローリー』
ずっと昔愛した人と再会して「再び生きる」気持ちになれた
映画『スケアクロウ』
純愛なる男同士の愛の物語
映画『永遠に僕のもの』
彼の心が欲しい美しすぎる犯罪者の恋物語
映画『ロケットマン』
性について悩むエルトン・ジョンの魂の叫びが聞こえます。
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』
本当に美しい若い二人の恋物語です
映画『さよなら くちびる』
主人公のハルは自身の性に悩みながら音楽活動をしている、彼女が思いを寄せる女性はすでに、、、、。
映画『コレット』
フランスの女流作家の波乱万丈の人生を描いている。半世紀前に勇気を出して同性愛を告白した女性。
映画『ある少年の告白』
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映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
アメリカ女子テニスのスーパースターが性差別撤廃に向けて戦う。自身も同性愛者とカミングアウトする。
映画『J・エドガー』
長年FBIを務めたエドガーの半生
映画『エデンの海(1976)』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
西河克己
脚本
馬場当
原作
若杉慧
製作
堀威夫 笹井英男
撮影
萩原憲治
美術
佐谷晃能
音楽
伊部晴美
録音
福島信雅
照明
川島晴雄
編集
鈴木晄
助監督
中川好久
スチール
中山章
製作プロダクション
ホリ企画
清水巴(山口百恵)
南条先生(南條豊)
増川先生(紀比呂子)
校長(伊藤雄之助)
黒木先生(井上昭文)
沼田先生(和田浩治)
松下先生(岸田森)
老教師(山岡正義)
吉岡先生(摂祐子)
野上先生(坂巻祥子)
校医(小泉郁之助)
宮田和枝(山本由香利)
橋本エミ(安武まゆみ)
岩井昌子(浅野温子)
小森愛子(岩田恵子)
加藤チヤ子(谷川みゆき)
五郎(黒部幸英)
藤村(斎藤忠宏)
堀内(樋口康)
お葎っあん(樹木希林)
菊(北林谷栄)
節子の父(雪丘恵介)
節子の母(三崎千恵子)
医師(神山勝)
看護婦(原田雅子)
下宿の内儀(十勝花子)
婦人会役員(堺美紀子)
婦人会役員(横田楊子)
1976年製作/85分/日本
配給:東宝