映画『春琴抄(1976)』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品概要・キャスト・予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
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『春琴抄(1976)』
(1976年製作/97分/日本)
【監督】
西河克己
【脚本】衣笠貞之助 西河克己【原作】谷崎潤一郎【製作】堀威夫 笹井英男【制作補】金沢博 近井一成【撮影】萩原憲治【美術】佐谷晃能【音楽】佐藤勝【録音】福島信雅【照明】川島晴雄【編集】鈴木晄【助監督】村井良雄【スチル】中尾孝【宣伝担当】富山省吾
【出演】
山口百恵 三浦友和
中村竹弥 風見章子 井原千鶴子 若杉透 桑山正一 津川雅彦 品川隆二 中村伸郎 小松方正 名古屋章 絵沢萠子 北川たか子 榊原郁恵
【HPサイト】
映画『春琴抄(1976)』IMDbサイト
【予告映像】
映画『春琴抄(1976)』トレーラー
映画『春琴抄(1976)』NHK BSプレミアム放送 未定
映画『春琴抄(1976)』のオススメ度は?
星4つです
文学性の高い映画です
山口百恵さんの「ツンデレ」が良い
三浦友和さんの「丁稚体質」も良い
谷崎文学は不滅なり
映画『春琴抄(1976)』の作品情報・概要
『春琴抄』1976年製作の日本映画。原作は谷崎潤一郎の同名小説。西河克己監督作品。山口百恵主演文芸作品シリーズ第6作目。三浦友和との共演5作品目。幼少の大病により視力を失った女性が琴・三味線の「芸事」で生業を立てながら生きる物語。自身の身の世話は「丁稚奉公制度」で田舎から来た青年に任せて、「禁じられた恋愛」へと発展するという当時では衝撃的な内容となっている。
映画『春琴抄(1976)』のあらすじ・ネタバレ
時代は倒幕後、発展が目覚ましい明治の大阪。薬種問屋鵙屋(もずや)は多くの丁稚奉公を抱え、商売は繁盛している。しかし鵙屋の主人・鵙屋安左衛門(中村竹弥) と妻・しげ(風見章子)には悩みのタネがあった。長女のお琴(山口百恵) だ。お琴が9歳の時、大病のため失明してしまったのだ。お琴に芸事である琴、三味線を習わせているが、やはり心配でならない。お琴の面倒をみるのは田舎から丁稚として奉公に来ている佐助(三浦友和) である。起きてから寝るまで「佐助」とお琴は連呼して身の回りの世話を申付ける。二人に変な“噂”が持ち上げるのも無理はない。お琴は佐助を正当な弟子にすることで、疑念の一掃を図る。しかしお琴がまさかの懐妊と出産。しかし二人は「関係ない」と断言する。お琴の美しさの噂を聞いた女たらしの美濃屋利太郎(津川雅彦) が弟子入りする。そして力づくでお琴をモノにしようとするが、、、。
映画『春琴抄(1976)』の感想・内容
「とても文学的な映画」です。原作が文豪・谷崎潤一郎ですから、結末の愛の形は“究極的”かつ“変質的”な展開になります。これも谷崎文学の真骨頂であり、「さすが文豪」と思わざるを得ません。本映画『春琴抄(1976)』に於いては、様々な憶測というか想像を永遠に楽しむことができます。繰り返します。「永遠に楽しめる映画」です。一番の謎はお琴(山口百恵) の子どもは誰なのか?です。わたし的には絶対に「佐助(三浦友和) 」なのです。彼しかいません。でも劇中、佐助は「めっそうもない、わたしではない」と断言しています。もちろん、お琴も「下働きの男の子どもなんて作らない」と言い張ります。これは二人が固く結ばれていた証拠であり、「秘密を守ろう」と約束した結果だと思います。
本映画『春琴抄(1976)』のお琴演じる山口百恵はかなりの「ツンデレ女」と言えます。とても我儘で、威張りまくっています。「佐助、佐助!」といつでも、どこでも連呼して呼びつけます。そして命令します。四六時中です。目覚めから食事、着付け、お化粧、そしてお風呂の世話を佐助が担っています。さらにお琴は佐助の三味線の師匠なんです。二人は離れることがありません(でも、唯一、寝室は別にしています)その稽古が本当に厳しいのです。佐助が上手く弾けないと「ちがう、ちがう」と言って、出来ないと三味線のバチで叩きます。佐助、血を流します。結構、ひどいのです。スパルタです。ただ、こういったお琴の性格と佐助の性格の設定はある意味納得ができるのです。お琴が我儘になった原因はやはり目が見えないことに繋がります。佐助が従順なのは丁稚としての使命を全うしているからです。
お琴は9歳の時の大病が原因で失明しました。視力を失ったことで「芸事(琴・三味線)で生きていこう」と決意したのです。しかし時代は明治です。女性が芸事で生業と立てるのは難しかったと思います。相当な稽古をして、誰よりも高い技術と表現力を養わうことが必要です。そして一番大事なのは“誰にも負けない”という気質です。もっと言うなら「舐められたらアカン」です。自分の存在力を誇示すること、他者を蹴落としてまで目指す世界が芸事なのです。お琴は視力を失ってそれに気がついたのです。ですから傲慢な生き方を貫き通したのです。
そして佐助は元来の“丁稚奉公体質”ですから、主人に命令されることに喜びを持っているのです。もう「嬉しくて嬉しくて仕方がない」のです。ここに二人の利害が一致するのです。谷崎文学の“究極の美”の基本設定がなされているのです。ですから、お琴と佐助が愛を交わして、子どもを作ったとしても「良いか、佐助、このことは絶対に口外してはならぬ。もしお前が喋れば、破門だ」とお琴が命令すれば、佐助は「わかりました。絶対に言いません」となるのです。ご主人と丁稚の二人だけの秘密を共有できた佐助にとっては光栄極まりないことなのです。
映画『春琴抄(1976)』の考察・評価
本映画『春琴抄(1976)』はまだ封建制度の色が濃かった時代の上流階級のお嬢様と下流階級の丁稚という禁じられた恋愛なのです。ただ、この禁じられた恋愛が世間に知れると「バッシングされる」から秘密を隠したとは思えないのです。二人は敢えてポジティブに子どもを手放したと思うのです。まず、お琴が子どもを育てるには負担がかかります。面倒をみるのは佐助になります。すると佐助がお琴に奉仕する時間が減ります。お琴にとっては「佐助全て」でありますから、いくら我が子と言えど我慢ならないでしょう。ですから、二人で話し合って(実際はお琴の独断)、「芸のため」に子どもは要らない、養子に出そうと決意したのです。
本映画『春琴抄(1976)』は西河克己監督作品です。山口百恵と三浦友和を日本映画の大スターに押し上げた功労者を言えます。映画『絶唱(1975)』1975)』は本当に素晴らしかったのですが、映画『エデンの海(1976)』で「あれ?」と疑ってしまうような作品ですが、本作はとても良い映画になっています。リメイクを撮らせたら一番と言われていた監督です。本映画『春琴抄(1976)』は島津保次郎監督の『お琴と佐助(1935年)』のリメイクです。ただリメイク作品はとても難しいと思います。原作に忠実であることも大事ですが、前作の模倣にならないように、オリジナルな演出を施さなければいけないからです。そういったプレッシャーを見事にはねのけられたのは、やはり「山口百恵と三浦友和」コンビの力が大きかったのではないでしょうか。
本映画『春琴抄(1976)』の百恵さんの演技には「強い女性」が表されていました。現代の「女性活躍社会」に必要な人物像です。谷崎潤一郎は1933年に『春琴抄』を発表していますから、女性についての理解があったと思うようにしています(ただ谷崎の女性遍歴には苦笑するか閉口するかになります)一方の三浦友和さんは、本当に「力のある演技派」と世間に知らしめた映画だったのはないでしょうか。見事な「丁稚」ぶりです。特に自身で目を突き刺す場面は何度観てもハラハラします。
映画『春琴抄(1976)』の結末
本映画『春琴抄(1976)』のテーマについて考えてみます。倒幕後、封建制度が薄くなっていく明治時代であっても、未だ色濃く残る「丁稚奉公制度とはなんぞや?」とか「禁じられた恋愛の中の幸せ探し」となります。今の日本でも業種によっては丁稚奉公はあります。しかし昔のように隷属的な内容にしますと、労働委基準法によって処罰を受けます。物語は明治を舞台にしていますから、田舎の農家は多産であり、子どもを町へ出して丁稚にしていたのは明らかです。丁稚奉公制度は真面目に働けば「食いっぱぐれはない」と言う良いこともありますが、四六時中拘束されて、低賃金だということです。立場の弱い丁稚は奥歯を噛み締めて、仕事をせねばなりません。そういった状況の中、佐助はお琴から愛を寵愛したことは逆に言えば「幸運」だったと言えます。「お師匠(お琴)に乗っていれば安泰」なのです。本映画『春琴抄(1976)』について考察すると非常に深い人間物語があるとわかるのです。ただ、お琴と佐助の愛の軌跡は間違いなく「純愛」なのです。それは二人が「暗闇の世界」を共有したことで、より一層深くて「究極的な純愛」へと昇華しました。
*美濃屋利太郎演じた津川雅彦さんの女たらしぶりは良かった。
映画『春琴抄(1976)』のキャストについて
お琴(山口百恵)
佐助(三浦友和)
鵙屋安左衛門(中村竹弥)
しげ(風見章子)
お良(井原千鶴子)
富三郎(若杉透)
温井与平(桑山正一)
美濃屋利太郎(津川雅彦)
千吉(品川隆二)
春松検校(中村伸郎)
市蔵(小松方正)
善助(名古屋章)
芸妓(絵沢萠子)
お種(北川たか子)
お吉(榊原郁恵)
まとめ 映画『春琴抄(1976)』一言で言うと!
「映画は文学であるべきか」
これは世界中のフィルムメーカーが突き当たるテーマだと思います。原作に忠実に映画を撮る人もいます。しかしスタンリー・キューブリックのように全く異なる物語にする人もいます。近年では後者が多いと思います。創造プラス創造で新しい芸術が生まれるのであれば歓迎です。
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映画『リヴァプール、最後の恋』
映画『春琴抄(1976)』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
西河克己
脚本
衣笠貞之助 西河克己
原作
谷崎潤一郎
製作
堀威夫 笹井英男
制作補
金沢博 近井一成
撮影
萩原憲治
美術
佐谷晃能
音楽
佐藤勝
録音
福島信雅
照明
川島晴雄
編集
鈴木晄
助監督
村井良雄
スチル
中尾孝
宣伝担当
富山省吾
お琴(山口百恵)
佐助(三浦友和)
鵙屋安左衛門(中村竹弥)
しげ(風見章子)
お良(井原千鶴子)
富三郎(若杉透)
温井与平(桑山正一)
美濃屋利太郎(津川雅彦)
千吉(品川隆二)
春松検校(中村伸郎)
市蔵(小松方正)
善助(名古屋章)
芸妓(絵沢萠子)
お種(北川たか子)
お吉(榊原郁恵)
1976年製作/97分/日本
配給:東宝