『バトル・オブ・ザ・セクシーズ 』(122分/米/2017)
原題 『Battle of the Sexes』
女性の地位向上と男女差別是正を目指したテニス選手の物語でもあるが、LGBTへの理解を世界に示した勇気ある女性の物語である。
アメリカにおけるエンタメビジネスは動き出せば、もう止まらない。
エマ・ストーンを観たかった。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『ラ・ラ・ランド』で世界中の映画ファンを虜にしたから、本作ではどんな演技を魅せてくれるかと言う思いにたどり着く。まずこの映画を見て思ったのはアメリカと言う国は本当に面白い国だ。そして自由な国であると感じた。どんなタブーでもエンターテイメントにしてしまう(アメリカのテレビ企画のリアリティ番組などは凄い)それがビジネスとして成り立ってしまうから恐ろしい。本映画でも男と女の戦いをメディアが煽って煽って劇場型ムーブメントに仕立て上げていく。一度、動き出したらもう後には引けない脅迫的なエモーショナルを感じる。小さいながらも我々の日常生活でも何かの企画が進行している最中、ちょっと臆病になって一旦立ち止まりたくなることがあるが、ここで立ち止まっては皆に迷惑が掛かると思い、やめられないと言う経験をした人も多いのではないか。この映画はその数百倍のプレッシャーがかかるほどの大きな出来事だった。だからビリーにかかる負担は相当だっただろう(私などは子供の運動会のリレーに出なきゃいけないと言われただけで憂鬱になる)
一度陥ってしまうと、抜け出せないギャンブル依存症は家族崩壊を招き、社会からも疎外されてしまう
この映画は単なる女性と男性の平等の権利を獲得したい!と言っているのでは無いと思う。二つのことが頭に浮かんだ。一つは今LG BT問題。もう一つはギャンブル依存症問題である。この両者は今でこそ真剣に向き合う問題と認識されているが、40年前ではそれほど問題にはされていなかったのであろう。特に同姓愛において理解云々を語る以前に偏見と差別の目で見られていた。あの時代に同性愛を告白したビリーは立派だと思う。ギャンブル依存症においてはアメリカは集団で勉強会を開くセミナー当時からあったから結構深刻ではあったのだろう。日本はようやくギャンブル依存症という言葉が知られるようになってきたから、遅いと言ったら遅いかもしれないが、逆に言うと日本はギャンブルが規制されていたから良かったとも言える。ギャンブル依存は質が悪いと改めて感じた。
国を挙げて盛り上げていくアメリカのメディア、それに乗じる国民に一種恐ろしく感じる。試合の中で二人の人生が揺れ動く描写が素晴らしい。
主人公の2人のそういった背景を如実に表現しながら男と女がテニスで戦う最高の舞台へ向けての過程の盛り上げ方が本当に素晴らしい。さすがエンターテイメントの国だと頷いてしまう。その伏線面白い。エマ・ストーン演じるビリーが若い女性の美容師に恋に落ちていく瞬間がある。男である私が見ていてもハラハラしてしまうエマ・ストーンの演技が素晴らしかった。男に恋する気持ちと女に恋する気持ちはまるで同じだ。何の違和感もなかった。ただビリーはすでに人妻である。これは不倫である。しかし相手は男ではない、女だ。一体どうなるんだろうと気になって仕方ない。私は男だからビリーの夫の気持ちを考えてしまう。一方のボビーのお上りさん的な演技も最高におかしい。かつての名選手ではあるが、ギャンブルで身を潰し妻との関係も危うい。金がない。だからこの世紀の戦いを仕組んで、全財産を自分に賭けた。メディア側にしてみれば、ボビーのような人間は“使える”のだ。ボビーもメディアもお互いを利用しながら最高潮へと向かっていく。
試合は予定調和のごとくビリーが勝つ。男に勝つ。そして女性テニスの権威を格上げすることに成功する。この1戦は世紀の戦いであったのも事実だ。これ以降、女性スポーツにおける賞金は男性と同等になっていく。それはそれで素晴らしい。逆に女性の方が稼げるスポーツもあるくらいだ。試合に勝った後、2人は控え室でそれぞれ1人の時間を迎えている場面がある。この場面の演出は秀逸だ。どちらの表情にも何か失ったような顔をしている。ボビーは試合に負けて自分が賭けていたお金も失いこれからの人生を失ってしまった。しかし彼のことを見つめる女性がいる。妻だ。妻は彼を見捨てなかった。負けて彼は妻とよりを戻した。試合に負けたが家族を取り戻したのだ。
ビリーの勝利で時代は大きく変わった。女性の地位の向上へと繋がる事になった。そしてLGBTへの理解を深めるきっかけになった。ボビーは試合に負けたが、愛を取り戻した。
一方ビリーはずっと泣いている。勝利の美酒に泣いているのだろうか?いや違う。夫との別れのことを考えているのだろう。新しい恋人の女性と一緒になることを考えての涙だろう。もう自分に嘘はつきたくない、正直に人生を歩きたいと誓った涙でもある。テニスの試合を通して女性の地位向上を獲得し、自らのセクシャリティーに正直に生きる選択をするというアメリカ女性の強さと気高だが伺える。素晴らしい結末だ。ゲイの男性美容師が言う。「いつかありのままに人を愛せるようになるそういった時代が来る」それが現代を表しているだろう。昨今LG BTに対しての映画が非常に多い。40年経ってようやく平等になってきた。男も女も身体的に欠点がある人も平等に堂々と誰でも愛せるようになってきた。まだまだ差別と偏見を持っている人もいるが、それはそれでそういう人を認めなければいけない。そしてゆっくりと理解してもらう覚悟が必要だ。この映画のタイトル『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』の意味がわかった。
*エマ・ストーンの他の作品『女王陛下のお気に入り』
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