映画『市民ケーン』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品概要・キャスト・予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
映画『市民ケーン』IMDbサイトにて作品情報・キャスト情報をご確認ください。
YouTubeで予告映像もご覧ください。
『市民ケーン』
(1941年製作/119分/アメリカ)
原題『Citizen Kane』
【監督】
オーソン・ウェルズ
【製作】
オーソン・ウェルズ【脚本】ハーマン・J・マンキウィッツ オーソン・ウェルズ【撮影】
グレッグ・トーランド【編集】ロバート・ワイズ【音楽】バーナード・ハーマン
【出演】
オーソン・ウェルズ
ジョセフ・コットン ドロシー・カミンゴア エヴェレット・スローン レイ・コリンズ ジョージ・クールリス アグネス・ムーアヘッド ポール・スチュアート ルース・ウォリック アースキン・サンフォード ウィリアム・アランド ハリー・シャノン フィリップ・ヴァン・ツァント アラン・ラッド アーサー・オコンネル
【HPサイト】
映画『市民ケーン』IMDbサイト
【予告映像】
映画『市民ケーン』トレーラー
映画『市民ケーン』NHK BSプレミアム放送 2021年6月15日(火)午後1時00分~3時00分
6月15日(火)午後1時00分~3時00分
『市民ケーン』を観ずして映画は語れません
映画『市民ケーン』のオススメ度は?
星4つ半です
物悲しいです
生きたいように生きたと思います
「真実の愛」を求めることがエネルギー
オーソン・ウェルズの才能が勿体無い
映画『市民ケーン』の作品情報・概要
『市民ケーン』原題『 Citizen Kane』1941年公開のアメリカ映画。オーソン・ウェルズの監督デビュー作品。製作・脚本・主演も兼任。世界映画史上のベストワンとして高く評価されている。アメリカ実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルとしている。それまでの映画撮影の常識を超えたパン・フォーカス、長回し、ローアングル、クレーン撮影、特殊メイク、フラッシュバックによる脚本などを取り入れ、後年の映画製作に多大な影響を与えた。第14回アカデミー賞では作品賞など9部門にノミネートされたが、脚本賞のみの受賞に留まった。ハーストが権力を使って、受賞を阻止したと言われている。
映画『市民ケーン』のあらすじ・ネタバレ
かつて新聞王と謳われ、世間を騒がせた男チャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ) は死の床に瀕している。彼の暮らす家は大豪邸だが、暗く荒廃している。親しい家族の姿もない。スノーボールを握りしめたケーンが最後の言葉を吐く。「バラの蕾」と。ケーンの死は全米に伝えられる。奇しくも彼が作り上げた新聞によって。各メディアは面白おかしくケーンの死亡記事を掻き立てる。ある新聞社ではケーンの半生の映画製作が行われている。そしてケーンが最後に残した「バラの蕾」の謎を解き明かすように記者に伝達される。記者たちは生前ケーンと親しかった人々の元へ取材に出かけていく。
映画『市民ケーン』の感想・内容
「映画史を変えた映画」「黒澤明に影響を与えた映画」となります。
わたし自身が初めて本映画『市民ケーン』を観たのは高校生くらいでした。テレビで観ました。正直言って「何も面白くない」という印象を持ちました。
多分それは幼かったという理由もありますが、知識教養に乏しかったからだと思います。映画に求めることは「娯楽」であった少年ですから致し方がありません。
華やかなアメリカ映画に憧れを持つありきたりな少年だったのです。
それから成長するにつれ、アメリカの文化、風俗、歴史などを勉強して再び本映画『市民ケーン』を観て、初見と比べると随分と印象が変わりました。
感想としては「この映画はアメリカの栄光と影そのものだ」と思ったのです。
さて、本映画『市民ケーン』はアメリカ人にとっては間違いなくナンバーワン映画となっているそうです。
アメリカン・フィルム・インスティチュート(American Film Institute, AFI)という機関があります。
目的は「アメリカ合衆国において映画芸術の遺産を保護し前進させること」で、この機関が選出する「アメリカ映画ベスト100」でも第1位にランキングされているのが本映画『市民ケーン』です。
日本人のわたしたちにはいまひとつピンと来ないのは、アメリカ社会で生まれて、生きて、死んでいくことが宿命づけられていないからだと思います。
でも、何回も鑑賞すると「この映画は普遍的な物語だ」と納得できます。舞台を日本に置き換えても、そして現代中国に置き換えても、同じような人間模様が展開されることが予想できるからです。
成功を手に入れ、富を築いた人間は、実は大切なことをどんどん失っていきます。周りはわかっています。
気がつかないのは本人だけです。そして最後には「孤独な死」が待っているのです。
本映画『市民ケーン』を観ていると『平家物語』の冒頭を思い出します。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。」です。
新聞王チャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ)は思いのままに生きた人物です。富も地位も名誉を得ました。
でも唯一、得られなかったは“真実の愛”だったのです。心にいつも空っ風が吹いていたと思います。
ケーンの最後の言葉「バラの蕾」 の解釈は多くの意見がなされています。
代表的なのは、幼少の頃、遊んでいたソリに刻印されたマークであり、ケーンはあの時代を回顧していたのだろうとの意見です。
つまり、母メアリー・ケーン(アグネス・ムーアヘッド)と父ジム・ケーン(ハリー・シャノン)との貧しい生活の中で暮らしたかったとも捉えることもできます。
父親は暴力を行うDV野郎でしたが、母親はとても聡明な人だったようです。ですからケーンは母メアリーと暮らしたかったという説明には合点が行きます。
さらに本映画『市民ケーン』の物語とは関係なく、脚本を書いたハーマン・J・マンキウィッツとオーソン・ウェルズの“イタズラ”だったという説もあります。
本映画『市民ケーン』は当時絶大的な権力を持っていたウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしています。
ネットがある今と違って、映画の宣伝は新聞が主流でした。ですから、新聞社を敵に回すことは映画にとっては死活問題となります。
でも、ハーマン・J・マンキウィッツとオーソン・ウェルズの二人は敢えてハーストをからかうような表現として「バラの蕾」という言葉を使ったのです。
バラの蕾はハーストが当時結婚していた女優マリオン・デイビスの陰部を指しています。
ハーストとマリオンの営むを盗み聞きした使用人からもたらされた情報を「これは面白い!」と言って、映画の脚本に書いたというのが真相です。
そして映画の冒頭はケーン(オーソン・ウェルズ) の口元のアップで始まるという、とても大胆な描写を持って伝えてきます。
ケーンの唇を囲むようにヒゲがあります。まさしくそれは「バラの蕾」そのものでしょう。
二人の安易なノリで書かれた「バラの蕾」という言葉は、その後のアメリカ人、そして世界中の人々にとっては大きなミステリーとなって響くことになります。
そして色んな解釈をもってわたしたちを楽しませてくれています。
先に書きましたが、諸行無常の響きもあり、死ぬ間際の人間は回顧思想に包まれることで、自身の人生を肯定して最期を迎えるのだろうか、とも考えさせられます。
映画『市民ケーン』の考察・評価
さて、次に本映画『市民ケーン』が映画製作に多大な影響を与えた事柄について紹介していきます。
2.超クロースアップ撮影
3.クレーンショット撮影
4.パンフォーカス撮影
5.ローアングル撮影
6.特殊メイク
7.特殊撮影
8.モンタージュ編集
まず1.フラッシュバックを用いた脚本についてですが、今では当たり前となっている脚本技法です。狂言回しのような人物が過去を語り、それに合わせて映像が展開する技法です。ミステリー映画や探偵映画では「倒叙」とも呼ばれています。本映画『市民ケーン』でのフラッシュバックはまったく飽きさせません。フラッシュバックが多くなる映画は途中で飽きてしまったり、時間軸が整理しづらくなってしまう危険性をはらんでいます。でも本映画『市民ケーン』は映画に深く没入されるように作られています。後に黒澤明の『羅生門』『生きる』に多大な影響を与えました。
2.超クロースアップ撮影は冒頭のケーンの唇のアップを指しますが、当時の映画製作において、俳優の顔の一部分のアップはほとんど行われていません。理由は美的問題もありますが、目、鼻、口、耳などのパーツがすべて映ることが良しとされていた時代です。しかも超クロースアップを撮影するレンズもありませんでした。そのため、ケーンは撮影監督のグレッグ・トーランドに頼み作ってもらったそうです。
3.クレーンショット撮影はいま観てもまったく違和感がありません。新聞記者が二番目の妻スーザン・アレクサンダー(ドロシー・カミンゴア)を訪ねるショットが有名です。外から大型クレーンでネオンサインの看板の隙間をぬけていきます。そして天井からバーの内部へ入っていきます。この時のネオンサインの間を抜ける撮影は今であれば、CGで簡単に作成できます。でも当時はアナログです。カメラがクレーンによって近づいた時に、ネオンサインが上下に開いて、クレーンを通しているのです。この撮影で撮られた映像が世界のフィルムメーカーに衝撃を与えました。
4.パンフォーカス撮影とは画面全体にピントが合っている状態を指します。人間の目というのは対象物にピントが合うようにできています。近くの物を見ている時は遠くの物にピントは合っていません。映画も同様で、それまでは画面全体にピントが合う映画ありませんでした。不可能を言われていたからです。ピントを合わせるにはとてつもない光が必要です。でもウエルズは行ったのです。代表的な場面はケーンがウォルター・サッチャー(ケーンの後見人)(ジョージ・クールリス)に貰われていく場面です。室内ではケーンの両親がいます。その向こう、つまり窓枠の外側で少年ケーンが遊んでいます。それがくっきりと映っています。ピントがばっちり合っています。これがすごいショットと言われています。
5.ローアングル撮影ですが、映画でのカメラは下から上に向けてのショットはほとんど撮られない時代でした。それは天井には照明やら、フィルターやら、マイクロホンなどが設置されているからです。でも、ウエルズはやっています。特にケーンと親友ジェデッドアイア・リーランド(ジョセフ・コットン)が仲違いする場面です。下から撮っています。効果は抜群です。威張りちらすイメージのケーンと彼に反旗を翻すリーランドに緊張感が得られます。
6.特殊メイクはいまでは当たり前となっています。映画を製作するにおいてとても重要です。本映画『市民ケーン』でオーソン・ウェルズは若干25歳でした。ケーンの年老いた姿も演じる必要がありました。それまでのメイクでは満足できず、顔の型をとってのメイク技術を発明しました。いまでは当たり前の方法ですが、当時は顔に色をつけたりするだけのメイクが主流だったのです。顔の型をとって、そこにシワやたるみや、色を施すことでよりリアルな人物になれるのです。
7.特殊撮影は冒頭の場面でケーンがヒトラーと映る場面が有名です。これを観て、後世の『カメレオンマン』や『フォレンスガンプ』を想像した人はかなりの映画通です。実際、ウディ・アレンもロバート・ゼメキスも本映画『市民ケーン』から影響を受けたと認めています。
8.モンタージュも影響を与えました。物語の時間軸を大幅に短縮してわかりやすく表現しています。ケーン(オーソン・ウェルズ)と最初の妻エミリー・ノートン(ルース・ウォリック)が大豪邸で朝食を食べるシーンが有名です。大きなテーブルで二人は近距離に座っています。ショットが次々を変わります。二人の周りには豪華な調度品が溢れていきます。でも、二人の距離が離れていきます。これが素晴らしいのです。数年間を1分くらいで表しています「お金は得たけれど、愛を失った」という夫婦の終わりを意味しています。
映画『市民ケーン』の結末
このように本映画『市民ケーン』は映画史に多大な影響を与えたということ、そしてアメリカンドリームの残像というか、アメリカの光と陰を見事に表したことから、アメリカ人にとってはとても有意義な映画です。
何度観ても、新しい発見があります。例えば、人生の半分を終わったわたしがいま観た感想は「好きな生き方ができて羨ましい」となります。
ケーンは自分の生きたいように生きたと思えるのです。誰の指図も受けず、やりたいように生きたのです。
好きになった女のために劇場をつくり、オペラ歌手としてデビューさせ、さらに豪華絢爛な調度品や動物を集めた大豪邸も建設して、満足だったのではないでしょうか。
もちろん、ケーンの求めた「真実の愛」は得られなかったのかもしれません。でも、人間は何かを手に入れると、次なる何かを追い求めてしまうものです。
ケーンは最後まで愛を追い求めたことで、生きる活力になったのだと思うのです。
故に彼にとって、満たされない心の状態でいることが、「人生」という存在価値そのものだったのではないでしょうか。
映画を撮ったオーソン・ウェルズのその後は不遇の日々を送ります。
ハーストを怒らせてしまって、映画業界から干させるのです。25歳でこれだけの名作を撮りながら、数本しか撮っていません。
日本ではどちらかというと英語教材のナレーションとして有名になりました。
オーソン・ウェルズ自体の最期も本映画『市民ケーン』同様に寂しいものだったそうです。
映画『市民ケーン』のキャストについて
チャールズ・フォスター・ケーン(新聞王)(オーソン・ウェルズ)
ジェデッドアイア・リーランド(ケーンの親友)(ジョセフ・コットン)
スーザン・アレクサンダー(ケーンの2番目の妻)(ドロシー・カミンゴア)
バーンステイン(ケーンの親友)(エヴェレット・スローン)
ジェームズ・W・ゲティス(ケーンの政敵)(レイ・コリンズ)
ウォルター・サッチャー(ケーンの後見人)(ジョージ・クールリス)
メアリー・ケーン(ケーンの母)(アグネス・ムーアヘッド)
レイモンド(ケーンの執事)(ポール・スチュアート)
エミリー・ノートン(ケーンの最初の妻)(ルース・ウォリック)
ハーバート・カーター(インクワイラー紙の編集長)(アースキン・サンフォード)
ジェリー・トンプソン(ニュース記者)(ウィリアム・アランド)
ジム・ケーン(ケーンの父)(ハリー・シャノン)
ロールストン(ニュース映画のプロデューサー)(フィリップ・ヴァン・ツァント)
新聞記者:アラン・ラッド、アーサー・オコンネル
まとめ 映画『市民ケーン』一言で言うと!
「生きてりゃいいさ」
自分の思い通りに生きて何が悪い、と感じた映画です。ケーンは愛を求めていたのいかどうかは問題ないと思います。自分の生きたい人生を生きぬいたことは間違い無いでしょう。そこに愛があったとかなかったとかは外野のわたしたちの慰問論になってしまいます。
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映画『ある船頭の話』
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映画『フリーソロ』
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映画『市民ケーン』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
オーソン・ウェルズ
脚本
ハーマン・J・マンキウィッツ オーソン・ウェルズ
撮影
グレッグ・トーランド
編集
ロバート・ワイズ
音楽
バーナード・ハーマン
チャールズ・フォスター・ケーン(新聞王)(オーソン・ウェルズ)
ジェデッドアイア・リーランド(ケーンの親友)(ジョセフ・コットン)
スーザン・アレクサンダー(ケーンの2番目の妻)(ドロシー・カミンゴア)
バーンステイン(ケーンの親友)(エヴェレット・スローン)
ジェームズ・W・ゲティス(ケーンの政敵)(レイ・コリンズ)
ウォルター・サッチャー(ケーンの後見人)(ジョージ・クールリス)
メアリー・ケーン(ケーンの母)(アグネス・ムーアヘッド)
レイモンド(ケーンの執事)(ポール・スチュアート)
エミリー・ノートン(ケーンの最初の妻)(ルース・ウォリック)
ハーバート・カーター(インクワイラー紙の編集長)(アースキン・サンフォード)
ジェリー・トンプソン(ニュース記者)(ウィリアム・アランド)
ジム・ケーン(ケーンの父)(ハリー・シャノン)
ロールストン(ニュース映画のプロデューサー)(フィリップ・ヴァン・ツァント)
新聞記者:アラン・ラッド、アーサー・オコンネル
1941年製作/119分/アメリカ
原題:Citizen Kane
配給:ATG