映画『37セカンズ』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品概要・キャスト、予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。
映画『37セカンズ』公式サイトにて作品情報・キャスト・上映館・お時間もご確認ください。
YouTubeで予告映像もご覧ください。
『37セカンズ』(115分/PG12/日本・アメリカ合作/2019)
【監督】
HIKARI
【製作】
山口晋 HIKARI
【出演】
佳山明
神野三鈴
大東駿介
渡辺真起子
萩原みのり
ガス・バン・サント監督が描く、障害に負けない漫画家映画。 こちらも涙が溢れる映画です。
映画『37セカンズ』のオススメ度は?
星5つです
絶賛です
障害者の映画ではありません
仕事もしたい
恋もしたい
自立したい
映画『37セカンズ』が伝えたいこと・学べる知識・教養
・働きたい、オシャレもしたい、恋もしたい、旅もしたい
・自立して自由に生きたい
・子離れしよう
・生きてるって「ステキだ」
映画『37セカンズ』の作品情報・概要
『37 Seconds』、『37セカンズ』(サーティセブンセカンズ)は、2020年2月7日に公開された日米合作映画。監督は大阪出身で在アメリカのHIKARI。主演は佳山明。神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、萩原みのりらが出演。出生時に37秒間呼吸が止まったことで脳性麻痺となった女性。母親の過剰な干渉に悩みながらも一人の人間として成長していく過程を描く。第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門の観客賞及び国際アートシアター連盟賞受賞作。
映画『37セカンズ』のあらすじ・ネタバレ
貴田ユマ(佳山明) が生まれた際、37秒間呼吸が止まってしまった。その影響で脳性麻痺となる。母親と父親は離婚し母がユマを引き取っている。24歳になったユマは友だちの漫画家のゴーストライターをやっている。漫画は売れているが、ユマは表に出られない。母親は「ユマ命」で生きている。過保護を通り越して過干渉だ。ユマも自由に生きたい。仕事もしたい、恋もしたい。でも母は離さない。ユマは家出を決行。父から送られたハガキを頼りに訪ねるがすでに他界。そして思いのよらない事実を知り、タイへ行く。ここで手に入れた宝物を持って母の元へ帰る。
映画『37セカンズ』の感想・評価・内容・結末
HIKARI監督の才能が驚愕させられた映画
すごい映画を観ました。すばらしい映画だと思います。まず映画の感想を書く前に監督のHIKARIさんの才能に驚愕しました。
脚本も演出も完璧ではないでしょうか。プロフィールを読むと大阪出身で若くして渡米後、女優などを得て、南カリフォルニア大学院(USC)映画芸術学部にて映画を学んだそうです。
きっちりかっちりとした映画です。本場でしっかりと学んでいるのがわかります。
脚本が良いからテンポの良いカットが続き、引きこまれていきます。
俗にいう“インサート”などの逃げのカットや匂わせ雰囲気のショットはありません。ワンカット毎の全てに意味があります。観ていて気持ちが良いのです。
障害者への同情を煽る描写は一切ない
障害者をテーマに描く物語は大抵がわざとらしく“同情”を煽ったり、差別されていることを声高に訴えたりするものが多いのですが、この映画はそんな要素はまったくありません。
それどころが排除しています。さすが“多様性”を大切にするアメリカで活躍している監督です。
健常者も障害者の壁がない世界で生きている人の映画です。素晴らしいです。
このHIKARI監督の次回作が楽しみです。できれば本映画のような作品性の高い映画を撮って欲しいです。しかしハリウッドにいるとエンタメ系の大作に流される可能性が高いです。
障害者も健常者も同じであること
さて、本映画『37セカンズ』ですが、主演は脳性麻痺によって下半身麻痺になった女性です。出産時、37秒間、呼吸が出来なかったために下半身麻痺になりました。
こういう障害者を扱った映画を批評するのはとても難しいです。何故ならば「映画について批評ができない」からです。
表現や物語を否定するとすぐさま人権団体や人権者と名乗る人たちから「障害者を差別している」とクレームが来るからです。
こちらは純粋に映画について批評したいのですが、彼らの同情心と正義マンのエネルギーでこちらは完全な悪者にされてしまいます。
でも、でもです。この映画『37セカンズ』はそんなことは一切不要の映画です。とても素晴らしいのです。確かに出演している貴田ユマ(佳山明) さんは障害者です。
でも映画の中で彼女が障害者であると押し付けてくる描写は一切ありません。というかもう普通の女性なのです。
仕事もしたい、恋もしたい、旅もしたいというごく普通の女性なのです。それがとても良かったです。
かつて、障害者をテーマにした映画、あるいは障害者が出演している映画やテレビ番組はイタズラに同情心を煽り、涙を誘い、「わたしたちは可哀想な存在だ」と主張してくるものがほとんどでした。
この映画にはそれが全くありません。時折、車椅子が段差に引っかかったり、エレベーターの乗れなかったりする描写がありますが、それが逆にユニバーサルデザインの必要性を訴求してくるという日本社会へのメッセージでした。
差別・偏見にあってももう一度人生を見つめる写真家の物語です
貴田ユマ(佳山明)を通じて自分自身がわかる映画
この映画『37セカンズ』は単に貴田ユマ(佳山明) が虐げられている人生を描いているのはありません。彼女を取り巻く人間の人生を浮き上がらせます。
まず母親の貴田恭子(神野三鈴) はユマの面倒をみていることで自分の存在価値を見出しています。ユマが人生の全てです。
母子家庭でずっと一緒でしたから離れたくないのはわかります。でもユマはもう立派な大人なのです。ユマの人生はこれからもっと輝くのです。
でも恭子はユマはわたし失くして生きていけないと決めつけています。
つまりユマと離れることで自分の人生が無くなってしまう虚無に恐怖しているにすぎません。
こちらは子どもを溺愛する母親の映画です。
ユマの人間としての潔さと美しさが際立つ
親友SAYAKAは漫画家(萩原みのり)ユマによって人生を生きています。自分に漫画の才能が無いことがわかっています。
ですから絵の才能があるユマに嫉妬しています。そして彼女を利用し自身が表舞台でキラキラと輝くことで自尊心を満たしています。
SNSで発信すればするほどファンが付きますから、ユマの描いた漫画が売れるのです。ユマは生活費が欲しいのではないでしょう。本当の友だちが欲しかったです。だから辞めずにSAYAKAに尽くしたのです。
SAYAKAは時々、ユマを脅します。でも実際のユマはそんな脅しは通用しません。そしてユマはあっさりとゴーストを辞めます。それがとても良かったです。
ここでもっと良かったのはユマがSAYAKAのゴーストをやっていたことに恨みや復讐心を抱かないところです。無論お金を求めたりしません。
ここにもHIKARI監督の脚本が冴えていると実感させられました。
普通のアメリカ映画だったら暴露するでしょう。
でもHIKARI監督はそうしなかった背景には彼女がアメリカに渡った際、多少なりともはジャパニーズへの差別、偏見があり、さらに仕事を横取りされた経験もあったのでは無いかと推測しました。
仕返しとか復讐とは何も残りません。「人を呪わば穴二つ」とは上手く言い当てています。ユマはきっと自分の絵に自身があるのでしょう。ですから何もしないのです。HIKARI監督も自分に自身があったからこの演出にしたのでしょう。
こちらは強い女性の生き様に感動する映画です。
HIKARI監督の脚本に驚愕のラスト
映画は途中から予想外の方向に進みます。「え、そんな展開になるの?」と驚きました。日本を離れてタイへ行くのです。タイでの場面も秀逸です。
現地の人々の優しい眼差しと触れ合い。そして自身の出生の秘密がありました。
その秘密を手に帰国し母親に渡します。
ここはもう感涙です。止めどもなく涙が溢れきました。こんなサプライズがあったとは、、、。もうHIKARI監督に万感の拍手を送りました。
クレジットロールが黒の背景にピンクの書体、しかも音楽がめっちゃポップで明るいのが逆に良かったです。
この映画『37セカンズ』から伝わってくるのは「人間に上も下もないじゃん」です。障害があるとかないとかで序列が付けられていた時代は終焉したのです。
頑張った人や才能がある人が輝ける時代も到来していることも感じました。LGBT問題もそうです。もはや性差別は許されません。
今まで日陰の存在だった人に光が当たる時代が来たのです。かと言って障害者であることを武器にしたりしません。兎にも角にも“普通”なのです。
誰もが平等なのです。健常者と障害者という括りも将来的には無くなるかもしれません。オリンピック・パラリンピックの名称も統一されるかもしれません。
ただ街中で車椅子の人、視覚障害の人が困っていたらごくさりげなくサポートできる人間でいたいと思わせてくれた映画でした。
*脚本も演出も良かったのですが、映像の雰囲気に統一性が欠けていた感がありました。特に色調です。トップカットと東京の街並み、ラブホテル内、そしてタイ。それらのカラーバランスをもう少し統一するとさらに良かったと思います。撮影監督が二人とのこと。その違いが出たのでは。撮影時の露出や照明へのこだわりの違いかも、、、。編集時にカラーコレクションでなんとかならなかったのだろうかと思いました。トップカットのメイクする場面のボケ感はとても意味があったと思いますが、あのボケ感は中盤も後半もありませんでした。勿体ないです。もう一つ、東京の街並みを上空から映す場面がありましたが、ミニチュア感が強いと思いました。
*NHKラジオ『すっぴん』にHIKARI監督が出ていて、大阪弁丸出しのとても元気の良いおばちゃんというイメージでした。でも映画作りに関してはとてもセンシティブな人だと思いました。
*この映画『37セカンズ』も公開規模が小さいことがとても残念です。NHKも絡んでいるのでもっと番組でアピールすれば良いのに。
映画『37セカンズ』のキャストについて
貴田ユマ(佳山明)
本映画の主人公。下半身が不自由な役です。友人のゴーストライターをやっています。自立したい気持ちが強いです。でも母親が離しません。引け目を感じながらゴーストライターをしています。なんとか漫画家として独立したいです。恋もしたいです。佳山明さんは映画初出演とは思えない堂々たる演技でした。ヌードシーンもあり難しい役柄だっと思いますが、体当たりで演技しています。下半身麻痺の役ですが、健常者と変わらないというか、障害者という風には見えませんでした。それは佳山明さんの演技の賜物だったと思います。
貴田恭子(神野三鈴)
子離れできない過保護な母親です。子どもはずっと自分のところに永遠にいると願っています。ユマは一人だと何もできないと決めつけることで自身の存在理由の確認をしています。神野三鈴さんは今が一番俳優として“旬”な時ではないでしょうか。母親役がとっても板についていました。感情の振れ方がちょっと不安気な年齢を迎える女性をうまく表していました。子離れできない自分に気がついていなかったのですが、徐々に受け入れていく寂しさ漂う目が絶品でした。二足の赤ちゃんの靴を撫でる場面に涙しました。
子どもに過干渉な親、毒親を描いた映画です。
俊哉(大東駿介)
介護施設のドライバー役です。余計なことは言わず黙々と仕事をします。与えられた職務を遂行するだけですが、その中には途轍もない優しさを帯びています。本当の優しさは言葉ではなくそっと寄り添うことなのかもしれません。大東駿介さんは素晴らしいですね。ハンサムですし。ベラベラ喋らないのが本当に良かったです。
舞(渡辺真起子)
障害者に対しての性サービスを行っています。健常者と障害者のボーダーを全く持っていません。陽気でお酒好きで誰からも好感を得る女性です。ユマを助けます。渡辺真起子さんの颯爽たる演技は素晴らしかったです。まず障害者を障害者扱いしません。でもユマのことを応援します。ユマがこの舞に会わなかったらどうなっていたのかわかりません。ですからユマにとって舞は運命の人といっても良いでしょう。
SAYAKA(萩原みのり)
漫画家としてユーチューバーとして活躍しているアイドル的存在。文庫本も売れている。ユマをうまく利用している。萩原みのりさんの役はとても難しいと思いました。ユマに嫌われたらおしまいです。そしてユマをのさばらせてもおしまいです。あまりにも打算的すぎる役でした。萩原さんはうまく演じていたと思います。最後はユマに捨てられますが、これで良かったのだと思います。
まとめ 映画『37セカンズ』一言で言うと!
「人生、やっぱり好きなように生きたいじゃん!」
この映画を観て感じたのはやっぱり自分の人生は一度だけです。だったら好きなように生きたいじゃん、です。確かに障害を背負っているかもしれません。でもその障害を理由に挑戦できない人生は哀れなものです。もっというなら障害の有無など関係なく「自分が描く人生を生きたい」です。特に若い人たちがそうであって欲しいです。
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映画『赤い雪 Red Snow』
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映画『J・エドガー』
息子が可愛くて仕方ありません。徹底的な教育を施します。
映画『ある少年の告白』
宗教的な観念で息子の自由を束縛します。
【子ども可愛がり映画】
映画『リアム16歳、はじめての学校』
気持ち悪いくらいに息子に干渉します。息子と恋人気分です。
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
こちらは母親依存です。
映画『パパは奮闘中』
蒸発した妻の代わりに子育てします。
【ある意味、毒親である気がする映画】
映画『ビューティフル・ボーイ』
薬物依存になった息子を助けるために奮闘しますが、それが重荷になります。
映画『ベン・イズ・バック』
薬物施設を無断で出てきた息子を可愛がります。
映画『37セカンズ』の作品情報
映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト小泉朋
監督
HIKARI
脚本
HIKARI
企画
山口晋 HIKARI
プロデューサー
山口晋 HIKARI
エグゼクティブプロデューサー
住友大祐 山形龍司 中瀬古優一
シニアプロデューサー
土屋勝裕
共同プロデューサー
松平保久 淺見朋子
協力プロデューサー
柳本千晶 岩堀恭⼀ 岩堀昭
ラインプロデューサー
小泉朋
撮影
江崎朋生 スティーブン・ブラハット
照明
三善章誉
録音
石貝洋
美術
宇山隆之
ヘアメイク
百瀬広美
スタイリスト
望月恵
編集
トーマス・A・クルーガー
音楽
アスカ・マツミヤ
挿入歌
CHAI
助監督
二宮孝平
VFXスパーバイザー
小坂一順
キャスティング
おおずさわこ
スクリプター
樽角みほり
制作担当
岡本健志
貴田ユマ(佳山明)
貴田恭子(神野三鈴)
俊哉(大東駿介)
舞(渡辺真起子)
SAYAKA(萩原みのり)
熊篠慶彦
芋生悠
渋川清彦
宇野祥平
奥野瑛太
石橋静河
尾美としのり
藤本板谷由夏
2019年製作/115分/PG12/日本・アメリカ合作 配給:エレファントハウス