『ドント・ウォーリー』(113分/米/2018年)
原題 『Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot』
監督 ガス・バン・サント
身体障害者が苦難に立ち向かう話ではない。アルコール依存症と向き合い成長する物語
アルコールによって自身も家族も友人も仕事も失くなる。人生を狂わす劇薬である
この映画の予告を観た時、身体障害者のお涙頂戴映画だと勝手に思っていた。身体障害者が苦難に立ち向かって成功する物語だと思っていたのだ。でも実際は違った。アルコール依存症の物語だ。とってもシビアなものだ。アメリカの社会構造、社会基盤、社会問題を真摯に扱っている。とても重たい映画をユーモアたっぷりに描いている。さすがガス・バン・サント監督。アメリカはドラックの問題も多いが、それ以上にアルコール依存症で苦しむ人たちの抱える問題は深刻と言える。アルコールが原因での事件、事故は後を絶たず、破産、家族の崩壊、更には人格が破綻することが多々あるそうだ。
ジョン・キャラバンという著名な漫画家を主人公に迎えた理由とは
この映画は身体障害者になったジョン・キャラバンという著名な漫画家を主人公に迎えどうして、下半身麻痺になったかを振り返りながらアルコールの是非について享受する映画である。アルコールは恐ろしい。観ているとドラッグより恐ろしく感じる。それは法律で許されているから歯止めがかからないという側面もある。なぜ人はアルコールを摂るのだろうか?何かに理由をつけて飲む。例えば仕事をやり終えたご褒美とか、恋人の誕生日とか、あるいは精神的なストレス発散とか、更にはプレッシャーから逃れるためとか、誰かの葬い等々。人はあらゆる口実を作ってアルコールを摂る。それはつまり自己憐憫であるのだ。大した理由もないのに自分はよくやった、自分は悪くない、自分はできるなどと憐れみに浸り、更にアルコールが勇気と力をくれるなどと嘯いて飲むのだ。
アルコールがもたらす善行はないかもしれない。負の連続性だけだ
でもアルコールは一時的に脳を麻痺させるだけで良い連続性はないのだ。いや、むしろ悪い連続性を生む。習慣であり依存症という負の連続性だ。飲まないと落ち着かない、飲まないと恐ろしくなる、飲まないと目が覚めないとか。でも確実に脳を破壊していくのだ。映画では身体障害者になったジョンがAA(アルコホーリクス・アノニマス)に通うことで自らの過去と対峙して人生を成功させる方法を見つける。それまでの酔っ払い生活では到底成り得なかった優しい自分の存在に気がつくのだ。そして人に対して抱いていた憎悪という感情とお別れするために謝罪の旅にも出る。この場面は涙ものだ。人を許す、これがとても大事なのだ。
人を許すことで自分の人生が始まる。憎悪からは何も生まれない
この映画では人を許すことで人生が始まると言っているようだ。キリスト教だ。私は仏教徒だからキリスト教の細部まではわからないが、どんな宗教でも許すと言う行為が大事であると説いているはずだ。憎しみを持っていると人は前進できないのだ。許せない人を許し幸せを願うことで、自身も幸せになり、社会も世界も幸せになるのだ。ガス・バン・サントはとても大きなメッセージをこの映画に込めていると思う。現在の世界情勢にだ。アメリカは未だ戦時国家だ。世界中から憎まれているかもしれない。今こそ世界に対して謝るべきなのではと言っているように聞こえる。今のこの世界の混乱と騒乱を作った責任の一端は確かにアメリカにある。それを真摯に認めて謝罪し許しを得れば世界は平和になるような気がするのだ。
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監督 ガス・バン・サント
製作 シャルル=マリー・アントニオーズ モーラ・ベルケダール スティーブ・ゴリン ニコラ・レルミット
製作総指揮 ブレット・J・クランフォード
脚本 ガス・バン・サント
撮影 クリストファー・ブロベルト
衣装 ダニー・グリッカー
編集 ガス・バン・サント デビッド・マークス
音楽 ダニー・エルフマン
キャスト
ホアキン・フェニックスジョン・キャラハン
ジョナ・ヒルドニー
ルーニー・マーラアヌー
ジャック・ブラックデクスター
マーク・ウェバー
ウド・キア
キャリー・ブラウンスタイン
ベス・ディットー
キム・ゴードン
作品データ
原題 Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 東京テアトル
上映時間 113分
映倫区分 PG12