原題 『The Man Who Invented Christmas』
作家とは素晴らしい仕事であると再認識させてくれる。ディケンズが後世の作家たちに影響は計り知れない。もちろん『クリスマス・キャロル』は永遠なり。
有名作家になるともう過去の貧しい生活には戻れない。誇りがある。見栄、虚勢を張ってでも生きなければいけない。墜ちたくない。どうすれば良い、それは“書く”ことだ。。
ひょっとしたらこの映画が今年一番面白かった作品になるかもしれない。大満足の映画だ。冒頭から終焉まで私の心を引き付けて離さなかった。チャールズ・ディケンズは言わずと知れたイギリスが生んだ世界的な文豪である。恥ずかしながら私は彼の作品を読んだ記憶がないのにも関わらず記事を書いている失礼をお許し願いたい。本当に面白かったから書かせて欲しいのだ。ちなみこの映画はシネコンで観たのだが、時間が21時過ぎという事もあるのかお客さんは私を含め6名と寂しい限りだ。子どもには難しい映画かもしれないが、かつて子どもの頃、自分の未来を夢見た大人には観てもらいたい映画だ。
この作品はディケンズが名作『クリスマス・キャロル』を書く過程での作家としての葛藤、苦悩、失望、傷心、嬉々そして達成から自分自身の封印したい生い立ちをうまく絡ませながら描いている。更に現実と幻想の世界も交差させながら飽きることのない構成となっている。映画の始まりはディケンズの人柄を徹底的に描写している。有名作家であり、見栄っ張りで気前良く、温和で活動的で、人当たりが良く、極めて好印象な人物をアピールする。でもその反面、親しい人の前ではお金に苦心し、弱音を吐く。それが人間臭くていい。かつて書いた作品の印税を惜しみもなく散財してしまい毎日の生活が苦しい。妻にも借金をしていることを隠している負い目が追い打ちをかける。オマケに極度のスランプに陥っていて新作が書けない。全く書けない。更に妻は妊娠し、5番目が生まれる(ディケンズは合計10人の子どもを設けた)
運悪くろくでなしの父親が押しかけてくる。すぐにでもお金を稼がないと一家は破産だ。しかし書けない。一筆も進まない。しかし天は彼を見捨てない。メイドで雇ったアイルランドから来た少女の存在が新作へと突き動かすのだ。この偶然が良い。映画を観ていて「そうこなくっちゃ」と膝を叩いてしまった。当時のイギリス社会ではクリスマスを題材にした作品など売れないと言われていた。しかしディケンズは自費で書き上げていくことを決心する。何としても書きあげなければいけないのだ。その理由は借金問題もあるが、やはり作家としての意地がある。巷ではディケンズは終わったと言いふらす輩もいる。彼らに何としても泡を吹かせてやりたい気持ちもある。そのためにはクリスマス前に出版する必要があった。期限は2ヶ月。
ディケンズの創作スタイルが秀逸だ。これほどまでに作品に自分自身を投影するとは、、、。やはり選ばれた才能なのだろう。
作家には作家独自の制作スタイルがある。取材して淡々と書きあげていく者、口語形式でアシスタントに書かせる者、構想を練り上げて一気に書き上げる者など。この映画ではディケンズのスタイルがとても面白く描かれている。ディケンズが作品を書くときはまず登場人物のキャラクターを徹底的に練り上げている。そして究極の人物になるまで格闘する。すると人物が目の前に現れる。天から降りてくるのだ。現れたら後は彼らに演技指導を行うが如く作品を書き上げていくのだ。時には怒鳴り、時には抱きしめながら登場人物と密になっていく。人物設定がしっかりしていれば後は演じてくれるからそれを書けば良いというのがとても新鮮でもあるし、神聖でもある。傍からそれを見ていた妻はディケンズが狂っていると感じるほどの入れ様だ。でもそれがディケンズの制作スタイルなのだ。
書く書く書く、創る創る創る理由を止められない。何かを達成した喜びを知ると再び人はそれを味わいたくなる。ディケンズを通して作家魂を見た。
私自身、物を書く仕事をしている。だからディケンズの気持ちが如実がわかる。苦しいけれど、一旦書き始めるともう止められない。後は人物と物語を楽しむだけなのだ。そして脱稿した時の喜びはこの上ない者だろう。だから作品が今年一番と言いたくもなる。創作すると言うこと、生み出すということはとてつもなくエネルギーを要し、苦悩も苦痛も伴う。そしてそして、出版して高評価を得た暁には天にも登る喜び、いや快感をもたらすのだ。だから創作することは止められないのだ。作品を書くに当たってディケンズは成長していく。登場人物と共に成長していく。劇中呟く。「人は誰もが尊い、誰かを助けられる」これは恐らく自分自身に言っている言葉だと思う。人を信じること、人を許すこと、諦めず生き抜くことの大切さをこの映画から感じた。素晴らしい作品であった。
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