
『ROMA/ローマ』(135分/メキシコ・アメリカ/2018)
原題『Roma』
監督 アルフォンソ・キュアロン
トップカットからエンドカットまですべてが計算された芸術映画である。その中で展開する人間の心情もまた芸術である。
キュアロンの映像美は1970年代のメキシコROMAに起因するのだろう
とにかくこの映画は全編、全分が芸術だ。構図も美術も脚本も演技も全てが美しい。美しいから芸術性が高いのかと聞かれたら、迷わずこの映画は「そうだ」と言い切る。トップカットがすごい。かすかに鳥のさえずりと共にタイル地の床が映し出される。そのタイルに水が流される。音で掃除しているのがわかる。タイルを流れる水が太陽に照らされて湖の水面のように光る。そこに映し出されて、また水が流されて消える映像の数々にこれから登場する人たちの心情が見えてくる。そして飛行機がその水面を横切って行く。とてもキザだ。でもキュアロンならでは映像美だ。うっとりしてしまう。
固定ショットと移動ショットに込められている意味が深い
そしてだ、先ほどまできっちりと固定で撮られていたショットが手持ち映像に変わる。その動きが曖昧な雰囲気で、しかも長回しをしているから、観ているこちらはどこか不安な気持ちになってくるのだ。これもキュアロンの狙いだと思う。実際、物語は終始ナイフのエッジでも歩いているような危機感を含みながら進んでいくのだ。
混乱の1970年代のメキシコ、その時代に生きた市井の人々は、、、。
物語は1970年代のメキシコ。インディオのクレオは医者であるアントニオ一家の家政婦として働いている。朝から晩まで休みなく働く。幸い妻のソフィアとその子供4人、祖母は皆優しいのが救いだ。大抵、この時代は白人過程で働くインディオの人たちの待遇は良くない。しかし、この夫婦の関係はすでに破綻している。夫は出張と言って女のところへ言ってしまう。クレオも恋人が出来て妊娠するが、恋人に捨てられてしまう。ソフィアとクレオはその点で気持ちが交差するのだろう。
自分が置かれている現状をどう打破するのかが大事
当時のメキシコは政府に対して若者が抗議活動を行っていた。クレオとソフィアの心情を平坦に表しながらも、時代が変わる激しさの中で生きて行く様子を丁寧に描いている。無責任な言い方かもしれないが、自分の外で起きていることより、自身に起きていることの方が遥かに大切なことだと痛感する。そりゃそうだろう。若者が必死に国を良くしたい気持ちはわかるが、今自分が置かれている現状をどうやって乗り切るかの方にエネルギーを費やすの正常だと言える。
メキシコはメキシコのままである。変わらない、いや変わる必要なない
メキシコは何度か行ったことがある。ずっとメキシコはメキシコなのだ。何も変わらないのだ。変わって欲しくない。初めてメキシコへ行った時、出会った人たちは「明日はもっと豊かになる」と言っていた。五年後行ってみたら、相変わらず貧乏で何も変わってなかった。でも彼らはとても陽気でハッピーだった。さらに数年後行ってみても何も変わっていなかった。それがメキシコだと納得したのだ。
フェリー二とヴィスコンティーを彷彿させるキュアロンの映像世界にため息がでる
さて、この『ROMA/ローマ』を観ていてフェリー二の『道』とヴィスコンティー『若者のすべて』を思い出した。なぜだろう。前者はザンパーノがジェルソミーナを捨てる場面、後者は貧しくとも懸命に生きる若者の姿にだ。黒白映画だからだと思うが、どことなくもの悲しさが伝わってきて目頭が熱くなってしまったのだ。
映画はクレオの妊娠、死産、喪失とソフィアの離婚、苦悩、復職を最後の最後でうまくまとめている。映画の各所に飛行機が飛んでいく。それがまた良い演出だ。冒頭に水面の飛行機の意味がわかる。それは明日への希望かもしれないし、ひょっとしたらここから脱出したいというメッセージかもしれない。
以下、スペイン語繋がりの映画
『誰もがそれを知っている』(133分/西・仏・伊/2018)

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スタッフ
監督 アルフォンソ・キュアロン
製作 ガブリエラ・ロドリゲス アルフォンソ・キュアロン ニコラス・セリス
製作総指揮 ジェフ・スコールキャスト
ヤリッツァ・アパリシオ クレオ
マリーナ・デ・タビラ ソフィア
マルコ・グラフ
ダニエラ・デメサ
カルロス・ペラルタ作品データ
原題 Roma
製作年 2018年
製作国 メキシコ・アメリカ合作
上映時間 135分
映倫区分 R15+