映画『帰れない二人』ネタバレ・あらすじ・感想・評価。三峡ダムから北京五輪、そしてIT監視社会の中国で織りなす男女の悲哀。

2019年製作
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映画『帰れない二人』公式サイトにて作品情報・上映館・お時間もご確認ください
YouTubeで予告映像もご覧ください。

映画『帰れない二人』公式サイト
第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。9/6(金)Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

『帰れない二人』(135/中国・フランス合作/2018
原題『江湖儿女 Ash Is Purest White

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映画『帰れない二人』のオススメ度は?

4.5

4つ半です。

愛し合っているのに一緒になれない。

いやならない二人。

中国のいまをうまく描いています。

男女の愛の物語と中国の発展物語を絡ませています。

友だち、恋人、親と観に行ってください。

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映画『帰れない二人』の作品概要

63回ヴェネツィア国際映画祭で『長江哀歌』が、金獅子賞を受賞した中国の名匠ジャ・ジャンクーが、ひと組の男女がたどる2001年から18年間の物語を、変わりゆく中国を背景に描いた人間ドラマである。

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映画『帰れない二人』のあらすじ・ネタバレ

発展めまぐるしい2001年の中国。三峡ダム建造の余波で地上げ屋などで荒稼ぎする渡世人のビンと恋人のチャオ。徒党を作って勢力拡大を目指していたが、ある日、他の組織に襲われる。ビンを助けようとチャオは拳銃を発射する。二人は逮捕され離れ離れになる。5年の刑期を終えたチャオはビンを探すが、ビンには新しい恋人がいた。そして、、、。

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映画『帰れない二人』の感想・評価・内容・結末

中国という国家の存在に打ちのめされた感じがする

「打ちのめされた」感が今も残っています。心にずっしりと鉄心を打ち込まれた気がするのです。

報われない愛、それを貫いた二人という単純なものではなく、中国という国家自体の姿を見せつけられたのです。その姿とは巨大で恐ろしいモノです。

時代は移ろいます。同時に人の心も変わっていきます。劇中にこの言葉がありました。でもこの主人公の二人は17年にも渡って気持ちを同じくしていました。

離れても時が経っても女は男を愛し続けるのです。男は渡世人、いわゆるヤクザです。義理人情を大事にしていますが、この女のことだけは裏切り続けます。なんとも切ない。

3つの時代を切り取る意味を考えてみる。

この映画の構成が見事です。3つの時代をうまく切り取っています。第一は2001年の中国。この年はWTOへの加盟と2008年の北京オリンピック開催が決定され、中国が活気ついていくきっかとなりました。

それに拍車をかけたのはインターネットの普及は言うまでもありません。

そして2006年は三峡ダムの完成。中国の全てが変わっていく様が映し出されています。発展と破壊、混乱と誕生とでもいうのでしょうか。

さらに2017年の現代中国までを男女二人の恋愛物語の中で激動する中国を見事に描いています。

ジャ・ジャンクーの勇気に感銘した

この映画を観ながら「検閲は大丈夫なのだろうか」と考えてしまったのわたしだけでしょか。

随所に発展することで喪失されていく大切なものがあり、富める者と貧しき者の両者の描写や、監視社会への提言も盛り込まれているからです。

たった17年で中国が激変しました。ご存知の通り政治体制は共産党の一党独裁です。でも市場経済は資本主義という矛盾を呈しています。

本来の共産主義の目標は誰もが平等で豊かな社会のはずですが、全く達成せれていません。とても不思議な国家ですが、これで成り立っているのですから新共産主義と言えるのでしょう。

ですから検閲を乗り越えて本作を作り上げたジャ・ジャンクー監督の勇気に感銘しました。

三峡ダムは全中国人の誇りであって世界へ権威の象徴となった

さて、構成の話に戻しますが、この3つの時代の映像もキャメラを変えて撮影しているのも映画に大きなエッセンスを与えています。

最初はDVカメラ、次はDigi-betaHD、そして三峡ダムではフィルム、さらに最後のパートではRED WEAPONカメラを用いて独特の雰囲気として仕上げています。

役者の演技はとても哀愁的かつ刹那的に心に入ってきます。またこの映画の中で流れる音楽も忘れてはいけません。アメリカのヒット曲から中国のヒット曲までうまく使われています。

そして何と言っても三峡ダムの存在です。従来までの火力発電を捨て水力発電に切り替えるところに中国経済の大躍進が垣間見られるのです。

世界最大のダムです。100万とも200万人とも言われる人々が移住しましたが、このダムの貯水量も発電量も世界一というのが、大国の権威であって世界に対して大きな誇りとなっているのも事実です。

創造は破壊することから始まるをリアルタイムで見ることができます。

ジャ・ジャンクー監督は共産党支配と資本主義との矛盾に危機感を持っている

このように男女の恋愛を主軸に中国の21世紀における世界的ポジションの獲得と更なる共産国家の盤石な様子とその不安も表している場面が、ラストカットの監視カメラで終わるところだと思います。

ご存知の通り中国は全土に渡って監視カメラが設置されています。顔認証システムの技術が高く、例えば犯罪者が街中のカメラに映ったら即さま拘束することが可能なくらいだそうです。

それは本当に窮屈な時代の到来を表しています。赤い資本主義と言いますが、結局は作られた自由の中で暮らしているにすぎません。

監督はこの2つの体制というかシステムに強い危惧感を持っているのではないでしょうか。

こう行った2つが混在することはいつか不満が爆発するのは歴史が証明しています。

現在の香港を見ればわかります。中国共産党が資本主義の香港を飲み込もうとしています。それに対して従来の香港市民は徹底的に反対デモを繰り返しているのです。

それが近い将来、香港と同じような反政府デモが中国本土でも起きないとは言えません。

主演のチャオ・タオさんの拳銃を撃つ場面が最高です

話を映画に戻します、主演のチャオ・タオさんはジャ・ジャンクーの私生活の奥さんで、二人は過去において数本一緒に映画を撮っています。

それゆえに息があっているのでしょう。見事な演技です。一番の見所はやっぱりチャオがビンを助けるために拳銃を一発撃つところでしょう

撃ち終わった後、静かに消えゆく銃声を聞きながらチャオの顔は青ざめていくというか、何かを失ったような表情が最高です

この瞬間にビンと終わることになろうとは、、、。

こんなに悪い顔を持つ役者は見たことがない

ビン演じるリャオ・ファンは本当にヤクザ役が似合っています。ずっとタバコを吸っています。

義理人情に厚く、筋を通しますが時代は彼を追い越していきます。今までのようにヤクザが肩で風を切って歩くだけで商売ができません。

知恵を出し頭を使わないと生きていけない時代が来たのです。かつての子分たちも彼のことなど忘れてしまっています。

ホテルでチャオと再会し時、「もう渡世人はやめた」と言ってチャオに火を跨がせる場面はなんとも物悲しい気持ちにさせました。

二兎を追う者は一兎をも得ず、とでもいうのでしょうか

チャオは最後の愛するビンを手に入れて幸せな人生を歩めるのだ、と確信したと思います。でもその夢は叶いませんでした。

邦題の帰れない二人はよくできていると思います。二人とも互いに依存はしているが、二人が1つになるとダメになってしまうと知っているのでしょう。

何か大切なモノを手に入れると失うモノがあります。二人は離れていた方が愛を糧に生きることができますが、その愛を手に入れて二人で過ごすと自分というモノを失ってしまうからでしょう。

まるで資本主義を手に入れて共産主義を失うような気がする、とでも監督は言っているのでしょうか。

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映画『帰れない二人』まとめ 一言で言うと!

離れていた方が愛を確認できる二人もいる

愛には様々な形があります。ずっと一緒に過ごすことで愛を確認できる人たちもいますし、別居しながらもうまく愛を形つくる人たちもいます。またいつもハッピーを求める人もいますし、悲劇的な愛に燃える人もいます。人間は色んな経験をすることで価値観の相違が出て、人と比べたくなります。この二人も人とは違う愛の形を心のどこかで持っており、それが別離という愛になったのではないでしょうか。

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映画『帰れない二人』の作品情報

映画.comより一部引用
スタッフ・キャスト
監督
ジャ・ジャンクー
プロデューサー
市山尚三
製作総指揮
レン・チョンルン ジャ・ジャンクー ドン・ピン ナタナエル・カルミッツ エリーシャ・カルミッツ ワン・チョンジュン リュウ・シーユー チュウ・ウェイチエ ヤン・ジンソン
脚本
ジャ・ジャンクー
撮影
エリック・ゴーティエ
美術
リュウ・ウェイシン
編集
マチュー・ラクロー リン・シュウドン
音楽
リン・チャン
チャオチャオ(チャオ・タオ)
ガオ・ビン(リャオ・ファン)
カラマイから来た男(シュー・ジェン)
リン・ジャーイエン(キャスパー・リャン)
医者(フォン・シャオガン)
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原題:江湖儿女 Ash Is Purest White
配給:ビターズ・エンド

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