北の果ての小さな村で(94分/フランス/2018)
原題『Une annee polaire』
映画『北の果ての小さな村で』のオススメ度は?
星4つ半
とってもオススメです。
子どもと観に行くのが一番です。
もちろん恋人ともオッケー。
日本に住んでいる外国人と一緒に行っても良いでしょう。
映画『北の果ての小さな村で』の作品概要
代々続く農家の息子が自分探しの旅に出る。旅と言っても放浪ではなくグリーンランドの小さな村の教師に着くこと。教師という仕事を通して村人、子どもたち、そして大自然と対峙しながら成長していく物語。
映画『北の果ての小さな村で』のあらすじ・ネタバレ
7代続く農家の息子アンダーソン。両親は跡目を継がせたいが、本人は農家をやりたくない。しばらく社会経験したいとの理由で教師の仕事に就く。赴任先はグリーンランドの辺境の村。人口80人しかいない。その地で悪戦苦闘しながらデンマーク語を教えるが、うまくいかずストレスを抱えるようになる。村人からも冷遇され、子どもたちにもからかわれ、孤独に悩まされる。そんな時、欠席した生徒の祖父と会話の中から、村で生きる方法を見つける。
映画『北の果ての小さな村で』の感想・評価・内容・結末
自分探しの旅に選んだ教師の仕事
とても良い映画だと感じました。“ほっこり”しました。終わり方がとても良かったです。
この映画の主人公のアンダースの成長がしっかりと描かれていました。当初はイケ好かない白人太っちょだなあと感じました。
しかも自身は7代続く農家の跡取りで何不自由ありません。ビジネス的にも成功しているので、そのまま8代目を引き継げばそれなりの生活も保障されて生きていけるしょう。
しかし何か満たされないことがあり、農家とは違う快感を求めたと言っても良いでしょう。それがデンマーク語の教師です。
暇つぶしの教師みたいに考えていたと思います。農家を継ぐ前に別世界を見てから決めよ!って感じです。いわゆる“自分探しの旅”です。
親から離れたくてたどり着いた場所は孤独感いっぱい
赴任地は首都、2000キロ離れた場所、そしてグリーンランドの人口80人のチニツキラーク村の三つの中から選択できる。
アンダースは迷わずグリーンランドを選びます。たぶん、親から離れたかったのだと思います。これが一番の理由でしょう。
いざチニツキラーク村に着くと驚くことばかりです。電気、ガス、水道も不自由。近隣住民は無愛想。おまけに学校にやってくる生徒はいうことを聞かず、授業は崩壊状態。
そこをどう乗り越えていくかが如実に描かれています。誰も知り合いのいない場所で生きていくにはやはり友だちを作ることが重要だと気がつかせてくれます。その友だちとはすなわち子供たちです。
上から目線、価値観の押し付けの宗主国と謙虚なイヌイットの対比
この映画を観ていて私自身も価値観をいつの間にか人に押し付けていないかを考えてしまいました。普段当たり前だと思って行っている行為も地域や場所、あるいは国によっては異質と映る場合があります。
それが民族や人種、宗教を超えた場合はもっと繊細になってくるのです。当初のアンダースを見ていると、宗主国であるデンマークがいつも居丈高でグリーンランドで平和的に暮らすイヌイットたちを見下し、差別的に扱ってきた歴史が垣間見得てきます。
赴任する前の国の文科省(たぶん)の女性が「グリーンランド語を覚えてはダメ」と言っていたのが正にその最たる例で、植民地支配の呪縛を呈しているように見えました。
郷に入らば郷に従え!は人の心の距離を近づける
言葉というのは人種、民族にとっては最も重要な文化的な存在です。言葉を失うと文化の消滅へと繋がるのです。
土地も奪われ、言語も植民地化されたらもう復活はあり得ません。村に着いたばかりのアンダースは教員として意気揚々と張り切っていました。
もちろん言語はデンマーク語一本で過ごします。しかし限界があります。ここでアンダースの良いところは“郷に入らば郷に従え”を実践します。
グリーランド語を覚え、村の人々と交流を重ね、さらにイヌイットの狩猟文化に深い敬意を示すようになります。すると村の人々は一気にアンダースに好意的になります。
人は自分たちの文化に価値を抱く人に敬意を払う
そりゃそうでしょう。私たちが暮らす日本にも多くの外国人が来ますが、英語で話しかけてくる人と日本語で話しかけてくる人とでは印象が全く違ってきます。
更に日本の文化、習慣、風習、しきたりなどを学ぼうとする外国人に対して今度は尊敬の念を抱くようになります。
アンダースはまさにこれをやったのです。そしてそれは打算的ではなくごく自然にアンダースという人間の優しさから発せられた気持ちだったからとても素晴らしいと感じました。
またアンダースの太っちょの体型も村人から好感を得たのではないでしょうか。動きがユーモラスでかわいいし、失敗する様に愛嬌があります。
登場人物は全て現地で暮らす普通の人々
さて、本映画ですが登場人物はプロの俳優ではありません。主役のアンダースは実際にチニツキラーク村に赴任した教師です。
イヌイットの子どもも大人も全て一般の人々です。一見、ドキュメンタリーかと思われそうですが、ちゃんと脚本も書かれています。
現地に住む人たちが演じるからこそ心に伝わる空気感が強いと思いました(クリント・イーストウッドの『15時17分、パリ行き』を思い出しました)アザラシ、一角獣、クジラ、シロクマの映像が出てきます。
彼らは伝統を重んじて狩猟しています。動物愛護団体からクレームが来そうですが、そんなの関係ありません。彼らは何千年もそうやって生きてきたのです。先進国の価値観を押し付けてはいけません。
少年アサーの夢が素敵です。「猟師になること」それも父、祖父を敬う気持ちからです。私たち日本人の多くの祖先は農民です。
夢は?と尋ねられたら「百姓」と昔の少年は答えていた時代があったのでしょう。そう考えると私たちは失ってしまった文化が多くあることに気がつかされます。
欧米化されてしまったのです。新しい産業や進歩を受け入れるのも大事ですが、何か捨ててしまったことへの罪悪感も抱いてしまいました。
もう一度、取り戻そうとしても何を失ったのかさえわからないほどです。
価値観とはいつの間にか大切な文化や存在理由を消滅へと導く危険性をはらんでいると認識させてくれた映画でした。
それゆえに伝統を守り抜くイヌイットの人たちは素晴らしい。
追記:アメリカのトランプ大統領が「グリーンランドを買いたい」と話題になっているが、おそらく話題作りだと思う。未だに植民地意識があるということか。
映画『北の果ての小さな村で』まとめ 一言で言うと!
郷に入れば郷に従え!
当たり前のことかもしれませんが、ついつい忘れてしまい無礼を働くことがあります。これは海外へ行った際の問題ではなく、ごく身近にあることです。隣の家のルール然り、隣の町のしきたりも違うし、海の町、山の町でも異なってきます。あらかじめ勉強をしておくことに損はありません。郷に入ることはその人たちの価値を尊重し、敬意を払うことです。
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映画『北の果ての小さな村で』の作品情報
スタッフ・キャスト
監督
サミュエル・コラルデ
製作
グレゴワール・ドゥバイ
脚本
カトリーヌ・パイエ サミュエル・コラルデ
撮影
サミュエル・コラルデ
編集
ジュリアン・ラシュレー
音楽
エルワン・シャンドン
アンダース・ビーデゴー
アサー・ボアセン2018年製作/94分/G/フランス
原題:Une annee polaire
配給:ザジフィルムズ