『12か月の未来図』(107分/仏/2017年)
原題『Les grands esprits』
監督 オリビエ・アヤシュ=ビダル
フランス人はちょっと嫌みっぽくクールなところがある。良いも悪いも個人主義であるが、最後にはやはり心があるのだ。
心無い先生がどうやって金八先生のようになるのかを観てみよう
フランスの高校教師の奮闘物語である。日本風に言えば心のない先生が金八先生のような熱血教師になる物語と言える。パリの進学高校の国語教師のフランソワは言語に関しては非常にこだわりが強く、生徒に対しても自身の言葉への信念というか理念のようなものを求めている。父親が有名な作家であるコンプレックスもあるが、教育に熱心である。しかしフランス人特有のちょっと嫌みなところも垣間見える。ある日、国の教育機関からパリ郊外の寂れた中学校への赴任を命じられる。寝耳に水であり、断るつもりであったが一年という期間限定で引き受けることになった。
パリ郊外の寂れた中学、同じフランスとは思えないほどの異国感
いざ、赴任してみると驚くことばかりだ。まず中学までの通勤が不安だ、いやヤバイのだ。壊れた車やチンピラ風情の人々、昼間から酒浸りの人、そしてフランスではマイノリティーな存在である黒人やアラブ系の人々。命の危険も感じる。そして肝心の中学ではそれまで見たことのないような生徒ばかり。授業を受ける姿勢、態度がなっていない。彼らの目にはやる気もなければ希望もないのだ。そして知性教養がないから“幼い”のだ。
やる気のない生徒のモチベーションを上げるのは苦労ばかり
同僚の教師もやる気もない者が多い。任期を適当にやり過ごすだけだ。そんな中に放り込まれたフランソワだが、やはり教師としても意地とプライドがある。まずはクラスの生徒の名前を全て覚えることから始める。アフリカ系の名前は複雑で難しいがそれが功を奏することになる。勉強することの意義を全く理解していない生徒たちのモチベーションを上げるべく様々な工夫を持って授業を作っていく。書き取りテストを繰り返しながら生徒たちのレベルを徐々に上げていく。カンニングも見逃すことも一つの手段であると知った。
問題児であるからこそ、愛情を持ってしまうのだ
そしてクラスでベルサイユ宮殿へ遠足へ行った際、大事件が起きてしまう。問題児であるアフリカ系の生徒が宮殿の寝室内でいたずら騒ぎを起こしてしまう。これによってこの生徒は退学処分になる。フランソワは今ここで彼から学校を奪ってしまえば、彼の将来は悲惨なものになると訴えて救済の手を尽くす。フランソワにとっては問題児であるからこそ、彼のことが可愛くて仕方がなかったのだ。
フランソワはこのままこの中学に残るのか、是非とも残って欲しい
映画の冒頭ではちょっと嫌みで鼻高々な人間だったのに、この救済に励む姿を見て心が救われる。“捨てる神あれば、拾う神あり”なのだ。フランソワは確かに高武者な高校教師であったが、様々な環境に置かれている子供たちを見て本当の教育者とはどういうものなのかに目覚めていくのだ。ここに人間の成長がある。つまり映画としても体が達成されているのだ。この映画のタイトルにあるように中学への赴任は1年間。最後に問題児の生徒との会話が涙ものだ。そこでフランソワは戻るか、残るか、、を伝える瞬間で終わっている。「どうか残ってくれ」と祈りたくなる映画だった。
*フランスは多民族国家であるがゆえに様々な問題が存在するのだろう。貧しき者はいつも貧しく這い上がる機会さえない。移民はいつも虐げられているかのような印象さえ受ける。でもそう行った厳しい環境から抜け出すにはやはり教育が一番であると再認識させてくれる映画であった。
*劇中、恋の予感もあるが本道にはなっていないところが良い。
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スタッフ
監督 オリビエ・アヤシュ=ビダル
製作 アラン・ベンギーギ マチュー・ベルアーゲ トマ・ベルアエジュ
原案 リュドビク・デュ・クラリー
脚本 オリビエ・アヤシュ=ビダル
撮影 ダビ・カイエ
編集 アレクシス・マラール
音楽 フロリアン・コルネ ガドゥ・ノダンキャスト
ドゥニ・ポダリデスフランソワ・フーコー
アブドゥライエ・ディアロセドゥ
ポリーヌ・ユリュゲンクロエ
アレクシス・モンコルジェギャスパール
タボノ・タンディアマヤ
エマニュエル・バルイエ校長
レア・ドリュッケールキャロリーヌ
ジネブ・トリキアガト
フランソワ・プティ=ペランレミ
マリー・レモンカミーユ
シャルル・タンプロンセバスチャン
ジャンヌ・ロザ生活指導専門員
マグディ・ファヒームラン
シェイク・シラマルヴァン作品データ
原題 Les grands esprits
製作年 2017年
製作国 フランス
配給 アルバトロス・フィルム
上映時間 107分
映倫区分 G