『ヒューマン・フロー 大地漂流』(140分/独/2017)
原題 『Human Flow』
難民を生み出したのは先進国の利権確保のために行った戦争に起因していることを忘れてはいけない
画角構成の美しさにこだわるのは良いが、芸術性の有無は必要だろうか
世界の難民の姿をとても美しく撮影しています。美術家だけあって画角構成がとても良いと思います。綺麗に収めることで現実の悲惨な光景を際だたせようとしているのですが、今ひとつ感情移入ができませんでした。なぜだろうか?映画は淡々た静かに展開して行きます。音楽も薄くひかれています。固定ショットは大賛成です。余計な感情が入ってきませんから。でもなぜでしょうか、私にはスクリーンから無機質な感情しか伝わってきません。
確かに難民たちの現状は悲惨で苦痛で絶望的なのはわかりますが、あまりが撮影意図が傍観者であろうとしているのです。映画のメッセージを受け取るのは観客の役目ですが、本作からはなぜか温かみが伝わってこないのが残念でした。もう少し難民の人たちのリアルな感情を入れて欲しかったです。
メディアと言う残酷、視聴者という傍観者の上書き
シリア、イラク、パレスチナ、バングラデシュ、アメリカ、メキシコ国境等を監督の中国人現代美術家が旅しながら現状を伝えていくが、何かが足りないのだ。まず、なぜ難民になったかについての掘り下げ方が足りない。難民になる理由は人種、宗教、国籍などの迫害、差別があるが、どうしてそう言った現象が起きているかについて明確に述べていない。理由の多くは五大国の利権が絡んでいる場合が多い。利権を確保するために戦争を行い、その犠牲者となっているのが彼らなのだ。私たちは遠い日本で暮らしている。まるで他人事のように見えるがよく考えてみると間接的に彼らを難民にしている可能性もある。また彼らを助けたいと思うが、それは単なる良い人アピールで実際に行動に移す人は少ないだろう。
私もそうである。私の生活で手一杯である。メディアとはとても残酷である。残酷な理由はまず不幸を売り物にして商売を成り立たせている。不幸を報道すると新聞も売れる、テレビの視聴者も増える。人間というのは自分の現状より不幸な人を見て安堵のため息を吐く生き物だそうだ。「ああ、私は彼らより恵まれてる。良かった、あんな風にならなくて」と思うらしい。だからテレビでは視聴率を稼ぐのは不幸な事件や事故、そして悲惨な戦争映像である。メディアは見る人の心を残酷ショーで上書きすることで稼ぎ、更なる強烈な上書きのネタを絶えず探している。
世界の美術家、人権活動家であるならチベット問題も取り上げるべきだ
この映画はそれほど凄惨な映像はないが、淡々とした演出を施すことで傍観者という冷酷人間を生み出しているかもしれない。実際、私はこの映画を観て、難民のための支援活動をしていない。本当に申し訳ないがそんな余裕もない。
あと、この映画に感情移入できなかった最大の理由は中国のチベット問題が全く触れられていない点だ。中国人で人権活動家であったなら是が非でもチベット問題に踏み込んで欲しかった。難民も多いだろう。いや難民にさせる前に何らかの処罰を与えているかもしれない。全く情報がないからわからない。
人間というのは自らの恥を外部に晒したくないものだ。国家も然り。
難民になった人たちに同情はするが、助けれらない自分もまた愚か者である。難民を作った側の人間が作った映画はやはり傍観者を増やすための宣伝映画のような気がした。
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スタッフ
監督
アイ・ウェイウェイ
製作
アイ・ウェイウェイ
チン=チン・ヤップ
ハイノ・デッカート
ダイアン・ワイアーマン
製作総指揮
アンディ・コーエン
ジェフ・スコール
撮影
アイ・ウェイウェイ
クリストファー・ドイル
編集
ニルス・ペー・アンデルセン
音楽
カルステン・フンダル作品データ
原題
Human Flow
製作年
2017年
製作国
ドイツ
配給
キノフィルムズ140分