『幸福なラザロ』(127分/伊/2018)
原題 『Lazzaro felice』
監督 アリーチェ・ロルバケル
デジタル撮影ではなく、スーパー16ミリ撮影のフィルム感の雰囲気に大満足
イタリアの大地を南北に撮影、更に四季折々の風景で色彩も豊かに
この映画が始まってすぐに懐かしくも寂しい気持ちになった。それはデジタルっぽくないからだ。この時代にこれだけフィルム感を出す映画ってすごいと感じた。
映画終演後、パンフレットを購入し確認したらスーパー16ミリのフィルムで撮影とのことで尚更、この映画にかける監督の気持ちが理解できた。ノスタルジックな映像を求めるのではなく映画というマジックが最大限発揮される手法だとアリーチェ・ロルバケル監督は語っている。
実際、映画のロケ地が乾燥した荒野から雪降る大地、そして街へと移り変わる様が確実にフィルムで捉えられているから成功と言える。やはりフィルム感は懐かしくも愛おしくなる。
主人公ラザロ演じるアドリアーノ・タルディオーロの純粋な瞳
もう一つ私の心を捉えたのは映画の主人公ラザロ演じるアドリアーノ・タルディオーロの純粋な瞳だ。まるで疑うことを知らないその眼差しは生まれたばかりの赤児のようだ。
イタリア人でこんなに無垢な表情を出す人に会ったことがない(失礼。私の会ったイタリア人は皆おしゃべりで、おしゃれで恋愛好きな人が多かった)ラザロは人が良く、頼まれたらノーと言えない。
いつまでも働く。皆はその性格を利用しラザロをこき使うのだ。でもラザロは決して嫌な顔をせず、純粋無垢な瞳のまま従うのだ。観ていて胸が締め付けられる。
日本人の我々が理解するには難しいかも。でも根本的には宗教の目指すところは同じだ
さて、この映画を我々日本人が完全に理解するのは難しいかもしれない。かなり宗教的な要素が盛り込まれている。ラザロはイエスに仕えた聖人で、一度死ぬがイエスによって蘇る。この映画でもラザロは一度死ぬが蘇る。
実際に起きた詐欺事件をモチーフにしている。ラザロがお舞い降りたのだ
物語はイタリアで実際に起きた事件をモチーフにしている。イタリアでは1982年まで小作制度があった。
土地を持っている地主が小作人に土地を貸し農作物などの成果物を納めさせるのだが、大抵の小作人は貧困にあえぐといく悪しき制度だ。
その制度が廃止されたが、その事実を小作人に知らせず搾取していたのだ。アリーチェ・ロルバケル監督はそれを現代版のラザロに置き換えて見事な映画に仕上げて見せた。
イタリア映画の巨匠たちに捧げるような映画
映画はフィルム感満載のためか、とにかくずっと寂しい気持ちになる。ラザロが右往左往する姿のヴィットリオ・デ・シーカ監督の『自転車泥棒』、働かされる姿にルキノ・ヴィスコンティ監督の『若者のすべて』を彷彿させる。
これはロルバケル監督がイタリア映画へのオマージュもあるが、やはりネオレアリズモ映画が源流にあるとわかる。
映画のタイトル『幸福のラザロ』は本当に幸福だったのか
肝心のラザロは最後の最後にどうなるのかは観てのお楽しみだが、この映画のタイトル『幸福のラザロ』の幸福が鍵になる。
本当にラザロは幸福だったのか、それともラザロと関わった人が幸福だったのか。
私はまさか結末がこんな形で終わるとは予想もしていなかった。
とても良い映画でした。
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スタッフ
監督 アリーチェ・ロルバケル
製作 カルロ・クレスト=ディナ ティツィアーナ・ソウダーニ アレクサンドラ・エノクシベール グレゴリー・ガヨス アルチュール・ハレロー ピエール=フランソワ・ピエト ミヒェル・メルクト ミヒャエル・ベバー ビオラ・フーゲン
脚本 アリーチェ・ロルバケル
撮影 エレーヌ・ルバール
美術 エミータ・フリガート
衣装 ロレダーナ・ブシェーミ
編集 ネリー・ケティエ
音楽 ピエロ・クルチッティ
キャスト
アドリアーノ・タルディオーロラザロ
アニェーゼ・グラツィアーニアントニア
アルバ・ロルバケル成長したアントニア
ルカ・チコバーニタンクレディ
トンマーゾ・ラーニョ成長したタンクレディ
セルジ・ロペスウルティモ
ナタリーノ・バラッソニコラ
ガラ・オセロ・ウィンター成長したステファニア
ダービット・ベネントエンジニア
ニコレッタ・ブラスキマルケッサ・アルフォンシーナ・デ・ルーナ(侯爵夫人)
アニェーゼ・グラツィアーニ
ニコレッタ・ブラスキ
作品データ
原題 Lazzaro felice
製作年 2018年
製作国 イタリア
配給 キノフィルムズ
上映時間 127分
映倫区分 G