『サンダーボルト』
(115分/米/1974年)
原題『Thunderbolt and Lightfoot』
クリント・イーストウッド、ジェフ・ブリッジス、ジョージ・ケネディと錚々たる俳優の共演でイーストウッドは何を見ていたのだろう。
時代は変わったが、73年と75年の狭間で生まれた名作である
本作はマイケル・チミノ監督のデビュー作品である。この作品はアメリカンニューシネマの部類に入っていないそうだ。私から見ると『俺たちに明日はない』(67)『イージー・ライダー』(69)『真夜中のカーボーイ』(69)の若者のベトナム戦争に対する反逆心と疲弊したアメリカ社会を描いたニューシネマと受け止めていたが、どうも違うらしい。というのも本作が製作されたのはベトナム戦争が終わり、体制に対する若者のムーブメントも鎮静へと向かう過程にあったからだ。しかも73年には『スティング』『エクソシスト』75年は『ジョーズ』『ロッキー・ホラー・ショー』が大ヒットしていて、本作の74年は『ブレージングサドル』『タワーリング・インフェルノ』が1、2位を取っている。本作はベストテンにも入っていない。前後のヒット作と比肩しても明らかに毛色が違って見える。もう時代は新しい方向へ動いていたようだ。
監督、俳優と確実にキャリアアップしている。すでに将来を見据えているイーストウッド
であるが、私は本作が好きである。その理由は兎にも角にも癖の強い俳優が出演しているからだ。クリント・イーストウッド、ジェフ・ブリッジス、ジョージ・ケネディ。本当に存在感が強い役者たちだ。今でこそジェフ・ブリッジスは良い俳優になったが、本作ではまだ可愛い若造だ。この映画での主役はイーストウッドになるが、ブリッジスもケネディーもそれぞれの人生を背負っている姿が見えるから主役と言っても過言ではない気がする。何と言ってもケネディーの“アク”の強さは尋常ではない。ポール・ニューマンの『暴力脱獄』での演技もすごいが、この作品でイーストウッドに対する存在感の発揮力が尋常でない。イーストウッドがこれほどの圧力を感じた役者は後にも先にもいないような気がする。勿論、イーストウッドはケネディーに負けず劣らずの演技をする。本作ではインチキな神父を演じるが、とても似合っている。後に『ペイルライダー』でも牧師を演じているから神に仕える役が生える(ケネディーはどうだろうか)下記は本作の前後のイーストウッド作品だ。
1971 『白い肌の異常な夜』 The Beguiled
『恐怖のメロディ』 Play Misty for Me 監督
『ダーティハリー 』 Dirty Harry
1972 『シノーラ』 Joe Kidd
1973 『荒野のストレンジャー』 High Plains Drifter 監督
『愛のそよ風』 Breezy 監督
『ダーティハリー2 』 Magnum Force
1974 『サンダーボルト』 Thunderbolt and Lightfoot
1975 『アイガー・サンクション』 The Eiger Sanction 監督
1976 『アウトロー』 The Outlaw Josey Wales 監督
『ダーティハリー3 』 The Enforcer
初監督作品が『恐怖のメロディ』だ。『ダーティハリー』を挟んで『荒野のストレンジャー』で監督をやり、俳優としてもキャリアアップを図っているのがわかる。以後、80年からほぼ監督と主演を兼ねるようになる。よってこの『サンダーボルト』がある意味イーストウッドの過渡期になった気がするのだ。
余談だがイーストウッドは後に潰し屋と揶揄されるようになる。その際たる犠牲は『パーフェクトワールド』で共演したケビン・コスナーである。コスナーはこの作品以降、低迷していく。ひょっとしたらケネディーと共演したことでイーストウッドはより強くなったのではないだろうか。気の毒なのはブリッジスだ。以降、低迷を辿る。『ハリウッドで最も過小評価されている俳優』のトップだった。でも今ではもう名優の域に達している。それらを踏まえるとこの作品はアメリカの俳優の指針になる映画ではないかと感じる。
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