『センチメンタルアドベンチャー』
原題 『Honkytonk Man』(122分/米/1982)
イーストウッドにとってこの作品を作った意味を考えながら観ると感慨深い。
カイル・イーストウッドが父親から受けたもの
この作品はイーストウッドにとってとても重要な作品であると思う。映画として、あるいは作品としてヒットしたかどうかではなく、イーストウッドの個人的なこととして大事だと思う。まず第一にイーストウッドの子供のカイルが出演している。ほぼ全編に渡ってカイルが出演している。カイルは『アウトロー』『ブロンコビリー』についでイーストウッド作品3本目となる。前二作ははイーストウッドの恋人のソンドラと共演している。イーストウッドは大スターだから女性にはモテるから致し方ない。
音楽に対するクリント・イーストウッドの憧憬の念も込められている
第二はイーストウッドの音楽に対する憧れが出ている。彼はジャズが好きだ。そしてミュージシャンであり、作曲家でもある。歌手としては実は今ひとつと言える。歌声が優しい。声量を込めた歌うタイプではないのだろう。それほど歌手としては成功していない。だから映画の中で歌手の役を演じたかったのではないだろうか(本当は役者ではなく歌手になりたかったのではないかと思われるような発言も散見している)
後にカイル・イーストウッドはジャズミュージシャンとして成功する
しかしだ、この作品で甥っ子役のカイルは後にジャズミュージシャンとして成功している。だからこの作品の中でギターを触る場面を観て、良かったと思うのだ。この映画を通して音楽への道を選んだとしたらイーストウッドは少しは父親らしいことをしたのだとホッと胸をなでおろす。ただ残念なことにこの映画は評論家からはあまり良い評価を得ていない。
大恐慌時代、破天荒に生きたカントリーミュージシャン
内容は大恐慌時代に遡る。場末のライブハウスを周り、歌を歌って生計を立てる歌手レッドをイーストウッドが演じている。売れないカントリー歌手だ。金はない、酒飲み、女好き、そして結核持ち。そんな男に一世一代のチャンスがやってくる。レコーディングだ。しかし金がない。妹の家にたどり着き無心するがそんな金は無いと言われる。仕方なく歌手希望の甥っ子のホイットと車でオーディションが行われるナッシュビルを目ざす。
映画を通してイーストウッドはカイルに大人への入り口の扉を開けた
笑ってしまうが道中、レッドはホイットに色んなことを教える。鶏泥棒、タバコ、酒、そして女。これも教育と言えば教育だ。そしてギター。これが後のカイルに与えたと想像すると先に挙げたように親子として少しは幸せなひと時があったのだなあと思うのだ(この時イーストウッドはソンドラと暮らしている)
クリント・イーストウッドが映画の中で死ぬのは珍しい、、、
そしてナッシュビルに何とかたどり着ききレコーディングにこぎつけるが、結核のため死んでしまう。イーストウッドが映画の中で死ぬ作品は何本かある。『白い肌の異常な夜』『グラントリノ』そして本作。イーストウッドは中々死なないのだ。でも本作は死んでいる。それはおそらく歌手ミュージシャンに憧れたが、実現できなかった自分への別れなのかもしれない。
以上のことを考えるとイーストウッドが歌う『運び屋』はとても意味がある
イーストウッドはその後の作品で歌を歌うことがないと思っていたが、2019年作品の『運び屋』では何とお気楽気ままに本当に楽しそうに歌を歌っている。そう考えるとやはりこの作品はとても意味が深いものに思えてきただ。
カイルの活躍は期待したい
ちなみにカイルは大人になってから『マディソン郡の橋』と『J・エドガー』に出演している。そしてイーストウッド作品の音楽を担当している。『硫黄島からの手紙』『グラン・トリノ』『インビクタス/負けざる者たち』
原題は『Honkytonk Man』はカントリー歌手が回るバーのこと。邦題の方がわかりやすいかもしれない。感傷的な冒険か。良いのではないだろうか。
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スタッフ
監督クリント・イーストウッド
脚本クランシー・カーライル
製作クリント・イーストウッド
撮影ブルース・サーティーズ
美術エドワード・C・カーファグノ
音楽スティーブ・ドーフ
録音ドナルド・F・ジョンソン
編集フェリス・ウェブスター マイケル・ケリー ジョエル・コックス
字幕岡枝慎二キャスト
クリント・イーストウッドRed_Stovall
カイル・イーストウッドWhit
ジョン・マッキンタイアGrandpa
バーナ・ブルームEmmy
マット・クラークVirgil
バリー・コービンArnspriger
リンダ・ホプキンスBlues_Singer
作品データ
原題 Honkytonk Man
製作年 1982年
製作国 アメリカ
配給 ワーナー映画