原題 『Ce qui nous lie』
家族はどこにいてもお互い強い絆で結ばれている。同じ地で生まれ、同じ風を嗅ぎ、同じワインを味わった。その記憶は忘れられない。この先も続いて行くだろう。
良いワインを作ること。それはまず自分を見つめること。熟成させること。焦らないこと。じっくりとゆっくりと。待てば良いワインができるように、良い人間になれる気がする。
とても美しい映画だと思う。ワイン作りを通じて家族の気持ちを熟成していく物語と言っていい。若者はいつの時代も自分探しの旅に出るものだ。たとえそれが無意味であるとわかっていても旅に出てしまう。何を求め何を得るのかなんて、どうでも良いのだ。とにかく自分のことを知らない人に会いに行きたいのだ。この物語に出てくる長男はまさにその典型的な若者だった。父親からのプレッシャーもあるが、ふとどこかへ行きたくなり故郷から消えた。そして数年後再び戻ってきた。戻ってくる時はいつの時代もどこの地でも訳ありだ。
父の死によって兄妹は分解するかに見えたが、畑が再生の機会を与えてくれた。
三人兄妹。長男は父親との折り合いが悪く10年間故郷のブルゴーニュを離れ世界放浪に出かけた。妹と弟は父と一緒にブドウを育てワイン作りをしている。父が危篤となりオーストラリアで家庭を築いていた長男は帰国する。間もなく父は死ぬ。父が残したワイン畑の相続が兄妹での懸案となる。静かではあるが、兄妹の中で争う気持ちが芽生える。長男はオーストラリアで家族を持っているが、妻とは離婚寸前である。向こうでのビジネスは上手く行っていない。借金もある。妹は一番、ワイン醸造家の才能がある。父の畑を守りたい一心だ。弟は半ば婿養子となり、村の実力者の娘と結婚し肩身が狭い。三人は父親が残した葡萄畑で自分たちのワインを作るために協力する。しかし兄は畑を売って現金が欲しい。オーストラリアでの事業につぎ込みたい。弟は義父が畑を買いたいという申し出に拒否反応を示しながら、弱い立場から頷くしかない。妹は絶対に誰にも渡さないという。夏が終わり秋が過ぎ、冬が来る。そしてまた葡萄が芽吹く秋が来る頃には三人の答えが決まる。精魂込めて作り上げたワインを三人が味わう。そして三人は畑の行方を決断する。
絵画のように美しい風景の中で繰り広げられるワイン醸造家の厳しい世界が興味深い。
フランスの牧歌的な風景がとても印象的だ。四季折々に映し出される葡萄畑がとにかく絵画のように美しい。こんな風景が見ることができる地で暮らしてみたいと感じてしまう。しかしワイン作りはそんなに甘いものではない。まず感性がいる。幼いころからの試飲がワイン醸造家の素養を作り出す。どれだけ試飲したかによって決まる。色、香り、味はもちろん、その年の気象条件、更に世の中の出来事まで精通している必要がある。とてもじゃあないが私のような日本人には無理だ。また畑にも格付けがあり、それが土地売却に直結する。
監督 セドリック・クラピッシュ
脚本 セドリック・クラピッシュ
サンティアゴ・アミゴレーナ
撮影 アレクシ・カビルシーヌ
美術 マリー・シェミナル
衣装 アン・ショット
編集 アン=ソフィー・ビオン
音楽 ロイク・デュリー
クリストフ・“ディスコ”・ミンク
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