『秒速5センチメートル』(63分/日本/2007)
英題『a chain of short stories about their distance』
映画『秒速5センチメートル』のオススメ度は?
星4つ
とても切ない物語です。
ずっと初恋の女性を思う男性はいるのでしょうか。
女性は過去を吹っ切る強さがあります。
女々しいって言葉は男のことでは。
未来へ向かって生きることが大事と教えてくれた作品。
映画『秒速5センチメートル』の作品概要
『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』に続く、新海誠の第3作目の劇場公開作品。小学生の初恋相手の女性への想いを抱きながら生きる青年。短編三部作にまとめて青年の成長を描いている。
映画『秒速5センチメートル』のあらすじ・ネタバレ
お互いが転勤族の子供であったこと、読書好きという共通もあり、心惹かれ合う貴樹と明里。でも親の転勤で離れ離れになる。距離は出来ても心の距離が近いままだ。しかし思春期を迎えそれぞれの感情は違う方向に。貴樹は初恋に囚われ、貴樹に想いを寄せる女性を傷つける。一方、明里は未来に向かって生きていく、、、。数年後、二人は再会する、いやしない、、、。恋の結末は桜が教えてくれた。
映画『秒速5センチメートル』の感想・評価・内容・結末
人生における初恋とは何だろうか
初恋とは人生に大きな影響を与えるものなのでしょうか?わたしなど、初恋自体がいつしたのか、誰だったのかさえ覚えていません。
何となく「あの人だったかなあ」程度です。この映画を観ると女の人は別れた相手ときっぱりと縁を切って前に進んでいくのに対して、男の人はいつまでもクヨクヨする生き物なのかなあ、と改めて思いました。もちろん人によって違いますが、、、、。
中学生にとって東京と栃木の距離は途方もなく遠い
本映画は三部作になっています。まずは「桜花抄」小学時代、お互いが転校生でしかも読書好きから心を寄せ合う、貴樹と明里。
しかし、卒業と同時に明里は引っ越すことになる。東京と栃木の遠距離で文通で清い交際を続ける。
しかし、中学の終わりに今度は貴樹が種子島へ転向することになり、二人は会う約束をする。
貴樹は明里の暮らす栃木まで電車を乗り継いていく。そして二人は再会するのだが、ここの貴樹の心情がクドイほど描写されている。
つまり、大雪で止まった電車の中で一人で苦悩、思考する世界が後の貴樹の足踏みというか、停滞に繋がる経験になる。
もう二度と会えないとわかっている“再会”が貴樹の心を苦しめる
貴樹は明里に会うために初めての一人旅です。電車を何本も乗り継いて向かいます。
しかも大雪で電車は止まり、ローカル線の車内は孤独に包まれます。貴樹は明里に会いたいのですが、不安でいっぱいだったのは確かでしょう。
到着の時間は深夜になってしまいますから、実は明里がいないことを望んでいます。それは明里の身の心配もありますが、実はこのまま会わない方が良いとの思いもあったのではないでしょうか。会ってしまうと気持ちは高ぶってしまいます。これから遠い種子島へ引っ越すのですから、中学生の遠距離恋愛はキツイでしょう。
明里と再会したから貴樹はその後、十数年苦しむことに
でも明里は待っていました。正直、ここから貴樹の地獄が始まります。13歳の少年少女が愛を語り朝まで過ごします。
お互い初めてのキスをします。映画の中でも言っていますが、「キスをする前と後の世界は全く異なるものだった」と。
明里にとってはもう踏ん切りがついたと思いますが、貴樹にとっては別れようと思っていたのにキスをしたことで急速に思いが募ってしまったのです。
これは『飴と鞭』効果とも言えます。昨夜の苦しい一人旅の後に味わった明里とのファーストキスです。心身ともに英気というか、次なる欲望も芽生えるのも無理ありません。
貴樹の“秒速5センチメートル”状態、それは中学生のまま
もしここで明里が待っていなければ、貴樹のその後は過去に引っ張られうことはなかったと思います。
もう一つ、貴樹は明里に手紙を書いてきました。おそらく貴樹の本当の気持ちを書きなぐった内容でしょう。
それを渡せなかったのも過去に引き戻される要因となっています。この貴樹の陥り、つまりストップしてしまった中学生時代の感情こそが“秒速5センチメートル”状態なのです。
ここからの時間が動きません。とっても遅いのです。
それは第二章、第三章へと続いていきます。そして貴樹は少なくとも二人の女性の心を傷つけることになります。
ずっと明里のことを思いながら生きていますから貴樹を好きになった人はたまりません。
一方の明里は貴樹と一夜を過ごしたことで全て吹っ切って前に進んでいきます。貴樹と会うまではいつも一人で過ごしていたようですが、それ以後はうまくコミュニケーションをとるようになり、恋人と結婚に至ります。
女性とはそういう真っ直ぐな生き物です。素晴らしい。
18歳の青年が過去の恋を思い煩うということは、、、
第二章の「コスモナウト」は貴樹の転向した種子島が舞台です。貴樹に恋する花苗が登場してストーリーを引っ張ります。しかし恋は実りません。
貴樹に想いを寄せていますが、貴樹に伝えることが出来ません。貴樹から発せられる無言の圧力、拒否感みたいな存在があるからです。
おそらくではありますが貴樹は花苗の気持ちに気がついています。そりゃそうでしょう。いつも帰りと待っています。
花苗の気持ちを知っているのに告白させないように振る舞うのが罪です。これには花苗は傷つくのは当たり前でしょう。
貴樹の過去の囚われのせいで傷つく女性は悲惨だ
更に第三章では東京に出て就職した貴樹には恋人がいます。でも恋人から別れのメールが来ます。「1000回メールしても、心は1センチくらいしか近づけなかった」と。
これは女性にとっては本当に辛いです。この描写から貴樹は13歳から24、5歳までずっと明里のことを想いながら生きています。
でもその間に数人の女性と付き合いますが、明里のことが忘れられません。あの雪の降る夜のファーストキスの味が残っているのでしょう。
一途と言えば一途ではありますが、率直にいうと“女々しい”あるいは“ちょっとキモい”とさえ感じます。
仕事も辞めて、あの場所へ向かう、そして羽ばたく
そして貴樹は仕事も辞めて、恋人と別れてある場所へ向かいます。明里と一緒に観た「桜が舞い降りる踏切」です。
踏切を渡る時に成長したであろう明里らしき女性とすれ違います。そして貴樹は振り返ります。
ですが、電車が二人の間を引き裂きます。この電車が貴樹にとって救いとなります。踏切の向こうには誰もいません。
貴樹は少し微笑みます。ようやく過去と決別したかのように歩き出すのです。
何度も観ることでハッピーエンドだとわかる映画
この映画を最初に観た時はとても重たい気持ちになりました。ハッピーエンドではないからと感じたのです。
でも何度も観ると実はハッピーエンドなのだとわかりました。登場するそれぞれのキャラクターは自分の事を起こし答えを導こうとします。
明里はあの一夜で気持ちをまとめて、前向きに生きます。花苗は貴樹へ告白しようと頑張ります。結果的に告白できず失恋で終わり涙を流す事で浄化します。第三章の理紗は別れのメールを出します。
そう考えると何も行動、決断をしていないのは貴樹だけです。貴樹が行動、決断したのは13歳の時、雪の中、明里に会いに行く時だけです。
つまりそこから時間が止まっており、何も進歩していないのです。はっきりしない男といえばそうなりますが、最後の最後でようやく決断したのがせめても救いだったと言えるでしょう。
ここまで初恋を大事にできるなんて羨ましい
しかし、初恋をここまで貫くことは中々出来ません。私などは小学校、中学校の友人の顔すら思い出せませんし、同窓会などは行ったことがありません。
昔の友だちも恋人も会いたくもありません。なんかおぞましいのです。同窓会などへ行って「焼けボックリに火がついた」ってテレビやネットで見聞きしますが、本当でしょうか。
ちょっと気持ち悪いです。ですから本映画『秒速5センチメートル』で成長した貴樹と明里が数年後結ばれるという展開になっていたら、、、と考えるとゾッとします。
この映画のタイトルの5センチメートルは桜が舞い落ちる速度とのことですが、遅いようで意外と早いです。
3メートルから真っ直ぐ落ちたとしても60秒かかります。もちろん実際はそんなにかかりません。
つまり新海誠監督は心が捉える時間という比喩でこの5センチとしたのでしょう。桜が舞い降りる姿を見たことがありますか?ひとひらひとひらがクルクルと回りながら、あるいは左右に振りこのように揺れながら地面に向かいます。
また風によっての影響で変わって来ます。そしてその様子を見ている私たちの時間は秒数では測れないほど豊穣な感情に包まれています。
本作のタイトルに込められた意味を考えると新海誠ワールドは相当深いと感じました。
映画『秒速5センチメートル』まとめ 一言で言うと!
思い出は美しいままに!
人には美しい思い出はたくさんあります。写真にも、日記にも、今ではビデオの中にあります。それらは他人でも見ることはできますが、心に刻んだ思い出は自分だけのものです。誰にも話さずたまに思い出すだけで満足します。敢えて思い出の人に会うなどは止めた方が賢明です。何も良いことはありません。過去を思い出し懐かしむより未来へ進んだ方が道も心も拓けます。
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https://undazeart.com/tenkinoko/
映画『秒速5センチメートル』の作品情報
スタッフ
監督
新海誠
原作
新海誠
脚本
新海誠
絵コンテ
新海誠
演出
新海誠
キャラクター原案
新海誠
キャラクターデザイン
西村貴世
作画監督
西村貴世
美術監督
新海誠
美術背景
丹治匠
馬島亮子
色彩設計
新海誠
撮影
新海誠
編集
新海誠
音響監督
新海誠
アフレコ演出
三ツ矢雄二
音楽
天門
主題歌
山崎まさよし
制作
新海誠
コミックス・ウェーブ・フィルム
ラインプロデューサー
伊藤耕一郎
プロジェクト管理人
川口典孝
キャスト(声の出演)
水橋研二遠野貴樹
近藤好美篠原明里(少女)
花村怜美澄田花苗
尾上綾華篠原明里(成人)
水野理紗花苗の姉
寺崎裕香
中村祐子
岩崎征実
内藤玲
下崎紘史
平野貴裕
中川玲
井関佳子
井上優
加古臨王
中村梨香
須加みき
鮭延未可
新鹿由美子
斎藤由香子
作品データ
製作年 2007年
製作国 日本
配給 コミックス・ウェーブ・フィルム
上映時間 63分
ハッシュタグ
#秒速5センチメートル
オフィシャルサイト