『億男』(116分/日/2018)
もしあなたがある日、宝くじに当選したら正常でいられるだろうか。絶対に起こりうることがないと思っていても、当たった時のことを考えてしまうのが人間だ。
古典落語をベースにしながら、21世紀における貨幣システムへ懐疑的な思想を織り交ぜながら家族、友情、人生について深く考察させてくれる
この映画は予告を何度も観て多少の興味を持っていた。観るか否か悩んだ。そのお背中を押したのが藤原竜也の存在だ。藤原竜也が主演ではないことはわかっていたが、あの奇妙奇天烈な演技が予告から伝わってきたので観に行こうと思ったのだ。当初はこの映画は単なる宝くじが当たった馬鹿な男の人生ぶち壊し物語だと思っていた。でも実際は違った。かなりの文学作品であると感じた。脚本にも知性教養を感じる。だからこそこの映画を観て本当に良かった思う。古典落語をベースに進んでいることに気がついたことで尚更面白く観れた。
主人公は兄が負った借金を返すために昼夜問わず働いている。妻と娘とは別居している。娘は小学生でバレエ教室に通っている。ただでさえ借金返済に追われているのに、娘のバレエ教室代は男に高くのしかかる。ほとんど寝るまも惜しんで働き通している。ある日、町の商店街へ行くと通りすがりの老女から宝くじをもらった。それが奇跡的に当たった。3億だ。どうして良いものかわからなくなる。別居している妻には話せない。そこで大学時代の親友に連絡を取って会う。友人はIT企業を起こして大成功している。しかし、その友人は3億円を持って消えてしまう。お金を取り返すために必死になって親友を探す、という流れで進んで行く。無事お金を取り返すことができるのだろか。
佐藤健、高橋一生、藤原竜也、北村一輝、池田エライザ沢尻エリカ、そして黒木華。この若い役者たちの未来をもっと観たい思った。全てが素晴らしい。
この映画に登場する役者はみな一癖も二癖もある。その筆頭は藤原竜也だ。とにかく奇怪だ。素晴らしいの一言に尽きる。藤原の演技に見入ってしまう。彼の一挙手一投足において惚れ惚れしてしまうほど吸引力がある。そして北村一輝。彼も良い。最初はどこの関西人か、と思った。でも関西弁があまり板についてないことに気が付く。それが逆に良い。何ともせっかちで落ち着きのない関西人を演じている。実際、ああいうタイプの関西人に会ったことがある。そう思わせた点で北村の演技は素晴らしい。
そして高橋一生と佐藤健。もう言うまでもない。高橋の醸し出す不審が物語全体に憂鬱な雰囲気を作り出し、更に佐藤の頼りない弱々しさがどんどん引き立ってくる。しかし、二人の過去の関係はまったくそういった不安要素はないから構成としてはプラスマイナスゼロで成り立っている辺りは監督の狙い通りではないだろうか。かなり計算された脚本だと言える。もちろん沢尻エリカも良い。何といっても目が良い。目だけで何を言わんとしているか伝えてくる。黒木華はもっと良い。空気を纏っているようだ。どんな場面でもスッと馴染んでしまう。恐ろしい。黒木はしゃべらなくても良い。とにかく人を引き付ける魅力がある。
お金の正体を知りたい。それを知ることができればお金に振り回される人生からサヨナラできる、のだろうか。
さて、「この映画は単なる宝くじ当たった、どうしよう?」というバカ映画ではない。お金の価値観やお金を持つことの責任感についてもう一度考える良い機会になる。お金の正体を知りたいというセリフがある。名言だと思う。お金によって人は左右される。お金によって人は愛を手に入れる。無くすこともある。お金は変わらない。でもお金を手にすると人は変わる。紙幣の重さは変わらないが重さをつけるのは人間だ。色々と考えさせられる。特に現在社会であっという間に大金を手にしているIT長者たちのことも比喩的に描いているのが面白い。彼らは一瞬で大金を手にしたが、ひょっとしたら怯えながら生きているのかもしれないと感じてしまった。この映画を通して感じたのはお金を支配しようとしてはダメだ、ましてやお金に支配されてもダメだ。ではどうすれば良いのか?お金の価値を知ること、すなわち自分の価値も知ること、そして責任を持って使うこと。真面目に働き、謙虚な姿勢で、感謝することの大切さも学んだ気がする。
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