『ゴールデン・リバー』(120分/アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン合作/2018)
原題『The Sisters Brothers』
映画『ゴールデン・リバー』のオススメ度は?
星4つです。
映像はとってもキレイです。
西部劇に見られるホコリっぽさがなく、しっとりとした絵作りになっています。
コメディー要素もあります。
役者陣が素晴らしいです。
一人でも友人とでも、恋人と行くのもオッケーです。
黄金よりも肉親の方が大事だと気がつかせてくれる映画です。
映画『ゴールデン・リバー』の作品概要
フランスの名匠ジャック・オーディアール監督が初めて手がけた英語劇でありしかも西部劇。ジョン・C・ライリーが映画化権をとり、直にお願いしたそうだ。ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドという豪華な顔ぶれ。2018年・第75回ベネチア国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞作品。アメリカの西部を男四人を中心に裏切り、友情、そして兄弟愛を描いている。お金より大切なものは何かをつかむことができるかも訴求している。
映画『ゴールデン・リバー』のあらすじ・ネタバレ
稀代の荒くれ者のシスターズ兄弟は提督からの命令で、謎の人物ウォームを追うことに。連絡係ジョンの情報でウォームを見つけるが、思わぬ展開に。ウォームのカリスマ性に魅了され、提督を裏切ることになる。黄金を山分けし、ウォームいう「理想郷」建設も手伝うことに。しかしあと一歩のところで失敗する。瀕死の重傷をおった弟を背負い逃げるが、、、。
映画『ゴールデン・リバー』の感想・評価・内容・結末
西部劇にありがちな“殺し屋”だけの物語ではない
この映画は最初から最後まで実に“男臭い”映画である。もちろん西部劇であるから大体の主役は男どもだが、本作にはほとんどと言って良いほど女は物語に絡んでこない。
更にインディアンも黒人も出てこないに等しい。ハリウッドでは何分に一度は必ず有色人種を出演させなければいけないという協定があるが、これは西部時代なのでオッケーということだろうか。
映画は冒頭から激しい銃撃戦から始まる。悪漢として登場するのはシスター兄弟。兄イーライ(ジョン・C・ライリー)は割と“マシな殺し屋”(殺し屋にマシもないが)で弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)は完全に“イかれた殺し屋”だ。
兄が弟の面倒をみる要素も込められている。
追いかける殺し屋と逃げる化学者の間の情報屋
この二人を軸に展開されていく。二人は政府御用達の殺し屋で、ある人物を殺せと命令され追いかけている。最初に情報屋演じるモリス(ジェイク・ギレンホール)が追いかけて、その後をついていく。
ターゲットはウオーム(リズ・アーメッド)という化学者だ。映画は殺し屋兄弟、情報屋、化学者の四人で完結していると言って良い。西部劇の多くの作品同様、本作も正義がない物語だ。
クリント・イーストウッドの作品を観れば一目瞭然だが、容赦無用で人を殺す。本作の兄弟は政府のお偉いさんである提督から「盗みを働いた」という理由だけで殺しに行くことになる。
狙われた方はたまったもんじゃあない。でも実際は化学者ウォームは複数の液体を調合することで黄金を発見することを可能にした。その化学式が欲しいのだ。
反目する四人が一致団結する理由
ここまでは黄金で栄えた西部劇でよくある下りだが、4人が一致するのはやはり政府(権力)に対する猜疑心からだった。
面倒臭い仕事をやらせて全ての利権を独占する、しかも自分たちは“かませ犬”のように扱われ、お役御免となれば殺される運命にあるとわかった瞬間に4人は団結するのだ。
当時のアメリカはやはり裏切りの連続で成り立っている偽善の世界だったことがわかる。誰も信じられない時代であった。でもこの4人はあっさりと意気投合してしまう下りはちょっとあっさりしすぎて違和感があった。
名ジャック・オーディアールの視線が独特の感情を生み出した
ただ映画としては十二分に楽しませてくれた。まず監督がフランスの名匠ジャック・オーディアールっていうのが新鮮だ。本作は主演のジョン・C・ライリーが映画化の権利をとり、直にオーディアールにお願いしたそうだ。それが見事に当たった。
アメリカ人監督だと余計な感情が入りすぎる。自国を美談として描きすぎる。その点、他国の監督なら客観的に見ることができるだろうと考えたそうだ。実際、どうだろうか。
映画はイーライとチャーリーの兄弟愛を中心に進み、最後は故郷に帰るところで終わるあたりに若干、温もりを感じるくらいだ。
ジョン・C・ライリーの暖かい眼差しで弟を見守る
そして役者たちがみんな個性がある。特に兄のイーライを演じるジョン・C・ライリーのどこか頼りない佇まいと殺しやらしからぬ優しさに惹かれる。とにかく弟思いなのだ。
弟がこんなに狼藉者になった原因は酒飲みで暴れ者の父親を殺してからだ、という告白で納得した。まだ少年時代だったそうだ。あれから弟は人を殺すことに躊躇しなくなり、悪の道でのし上がることを決意したそうだ。それが心配で弟とずっといるらしい。
ホアキン・フェニックスの荒くれ者役は地で行ってないかと思わせる
弟チャーリーを演じるホアキン・フェニックスもカメレオン俳優だ。先の作品の『ドント・ウオーリー』から一転して荒くれ者を演じるのは大変だったろう。まあ、前作も酒飲みで下品な役であったが、本作はそれ以上の濃いキャラクターだった。役者っていうのは本当に大変だと思う。
ジェイク・ギレンホールは今、一番ノリに乗っている俳優だ
一方、ジェイク・ギレンホールはこのところ出ずっぱりだ。『ワイルドライフ』『スパイダーマン』本作と現時点、日本では三本公開されている。彼はどんな作品の出てもすっと染み込んでくる。浸透力が強い。あの独特な瞳のせいだろうか。
しかも知的がベースにある。でも本作のようにワイルドな役もこなせる辺りに凄みを感じる。ウォーム役のリズ・アーメッドは上記の3人にはまだ程遠い。線の細さを感じるが将来を期待したい。
黄金を見つけた四人だが、結局はドジを踏むやつがいる
それで、四人は川に沈んでいる黄金を見つけることに成功するが、やはりここで弟のチャーリーがヘマをしてしまい、モリスとウォームが死んでしまう。
ここはもっとちゃんと描いて欲しかった。結局、黄金は手に入らず。みんながウォームの「理想郷作り」に共鳴したが、その前に金への欲望が仇となって終わってしまった。結局彼らは何を手に入れたのか、、、となる。
失敗の果てに手に入れた母との生活
でも、兄のイーライはどこかほくそ笑んでいるのだ。弟は片手を失った。もはや殺し屋稼業では食べていけない。ではどうするか。そう、故郷へ帰るしかない。
故郷には年老いた母が待っている。もう普通の生活に戻れる、という物語だ。兄にとってやっと辿りついた理想郷なのだ。
『ゴールデン・リバー』より原題の『The Sisters Brothers』が良いのでは
本映画で残念なのは邦題である。正直わかりにくいのだ。結局は「黄金の川」を探す物語ではないからだ。イーライとチャーリー兄弟の物語だからだ。シスターズが苗字になっているから直訳すると『姉妹兄弟』とわかりにくいから邦題にしたのなら、ちょっと早合点だ。
原題のままでも良いし、あるいは『シスターズ兄弟』でも良かった気がする。
映画『ゴールデン・リバー』まとめ 一言で言うと!
“兄弟は他人の始まり”にはならなかった物語
大抵の兄弟は年を重ねると疎遠になっていく。それは新しい家族を持ったり、あるいは親の遺産の相続などと様々だ。ただ本『ゴールデン・リバー』のように幼いころに父親からの虐待などがあり、辛い日々を共有しているとお互いに心を通じあっているのだろう。
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映画『ゴールデン・リバー』の作品情報
スタッフ
監督
ジャック・オーディアール
『ディーパンの闘い』(16)『君と歩く世界』(13)『真夜中のピアニスト』(05)『リード・マイ・リップス』(03)『天使が隣で眠る夜』(95)製作パスカル・コーシュトゥー
グレゴワール・ソルワ
ミヒェル・メルクト
マイケル・デ・ルカ
アリソン・ディッキー
ジョン・C・ライリー
製作総指揮
ミーガン・エリソン
チェルシー・バーナード
サミー・シャー
原作
パトリック・デウィット
脚本
ジャック・オーディアール
トーマス・ビデガン
撮影
ブノワ・デビエ
美術
ミシェル・バルテレミ
衣装
ミレーナ・カノネロ
編集
ジュリエット・ウェルフラン
音楽
アレクサンドル・デスプラ
キャスト
ジョン・C・ライリー(イーライ・シスターズ)
『僕たちのラストステージ』(19)『シュガー・ラッシュ オンライン』(18)『天使たちのビッチ・ナイト』(18)『キングコング 髑髏島の巨神』(17)ホアキン・フェニックス(チャーリー・シスターズ)
『ジョーカー』(19)『ドント・ウォーリー』(19)『ビューティフル・デイ』(18)『教授のおかしな妄想殺人』(16)『エヴァの告白』(14)ジェイク・ギレンホール(ジョン・モリス)
『世界にひとつのロマンティック』(19)『ワイルドライフ』(19)『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』(19)『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』(18)『ノクターナル・アニマルズ』(17)『ブロークバック・マウンテン』(06)リズ・アーメッドハーマン・カーミット・ウォーム
レベッカ・ルートメイフィールド
アリソン・トルマン酒場の女
ルトガー・ハウアー提督
キャロル・ケインミセス・シスターズ
作品データ
原題 The Sisters Brothers
製作年 2018年
製作国 アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン合作
配給 ギャガ
上映時間 120分
映倫区分 PG12