三上博史、14年ぶりの主演作品。105分全開の舞台のような映画です。喜怒哀楽全部出してます。カッコいいね。
三上博史の目も良いが、やはり口元が良いと思う
三上博史主演の映画だ。久しぶりだ。昨年『モリのいる場所』で久々にスクリーンで観た時はとても嬉しかった。出演時間はわずかであったがやっぱり独特の存在感だった(確かNHKのラジオ番組で行っていたが、樹木希林さんとどうしても共演したかったそうだ)三上博史主演の作品は『月の砂漠』以来か。仙頭武則プロデュース、青山真治監督作品だった。あの時は若きベンチャー企業の社長役で心の隙間がある男を素晴らしく演じていた。忘れられないシーンがある。三上が月を見上げる場面だ。あの時の三上の顔が忘れられない。何か手に入れたつもりだけど、心は虚しくなるばかりで実際は失うことが多いとでも言いたげだった。
三上博史の良いが、三浦萌のキレキレな風俗嬢が恐ろしい
さて、本作はほぼワンテイクムービーに近い。冒頭から約40分は画角の移動は一切ない。普通ここまで長回しするとダレてくるのだが、全く飽きることない。画面一面にエネルギーが溢れている。演者のエネルギーは勿論だが、撮影しているスタッフのエネルギーも感じる。とにかく魅入ってしまう、何が起きるのかと凝視し、何を喋るのかと聞き逃したくない気持ちを集中させる。勿論、三上博史演じる間宮は良いが、風俗嬢、麗華役の三浦萌が良い。思いっきりも良いが、単なるおバカではない、キレキレの風俗嬢であると怖さが伝わってくる。
芥川龍之介の『藪の中』を現代社会の“飽食”という病魔に舞台を移した活劇だ
ストーリーは間抜けな風俗に嵌った刑事が脅されて金品を取られ利用されながらもデリヘル嬢に恋し将来を夢見るという家庭崩壊の話、、、。と言いたいところだが、ここに多くの群像劇を盛り込んでくるあたりが監督の狙いだろう。間宮の妻、その妻の中国人の愛人で麻薬密売人。更に、デリヘルの元締め。何度も何度もどんでん返しが続く。一体誰が本当のことを言っているのかわからなくなる。まるで芥川龍之介の『藪の中』だ(映画では黒澤明の『羅生門』)カメラはバックの中に設置されているという設定だ。よって役者たちが演技しながらカメラをあちこちに移動して設置する。でも気をつけないとわざとらしさが映ってしまうので、絶妙のタイミングが要求されるからさぞ難しかっただろう。音声の収録にも苦労したのではないか。セリフのやりとりに被りが少ないのは当たり前だが、手前から奥、下手から上手への移動でセリフの響きがかなり違う。照明はどうなっているのか気になる。
人間の欲望は多面性に比例する。保身が強くなると残酷になる
実際、この映画を観ていて私はゾッとしてしまった。エンディングにだ。ひょっとしたら我々が暮らす日常で、こう言った人間がいるのではないかと感じたのだ。多分いる。隣の部屋に住んでいる。普段は真面目なサラリーマン、あるいは良き母親を演じているが、別の顔があるのだ。昼間のラブホテルを想像して欲しい。オフィスアワーというのに駐車場は満杯だ。聞くところによると出会い系の即席カップルや風俗嬢との情事楽しむ殿方、それと不倫カップルで占められているそうだ。しかも人妻が多いという。人妻、まさか?私の認識が甘かったのだろうか、女性は結婚したら生涯、伴侶を裏切らないと勝手に思っていた節がある。男は簡単に裏切る。ドヌーブが随分前に演じた映画で『昼顔』という作品があったが、あれも若妻が日々の退屈から娼婦を行いスリルを味わう話だった。古今東西似たり寄ったりの話があるのだから、女性の性に対する好奇心もあって不思議ではない。
静けさの中に潜む恐怖
話を戻すが、映画は一見ハッピーエンドに終わる。あんなにドタバタしたのに丸く収まったかのように見える。最後はゆったりとまるで思い出アルバムをめくるように語られている。どこにでもある幸せな家庭だ。今思うとこのエンディングのカット数の方が本編より多いのではないだろうか。それも狙いなのか。
まあ、久しぶりに三上博史を観たのだ気持ちが良い。やっぱり三上博史はスクリーンで観たいものだ。
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監督 宅間孝行
脚本 宅間孝行
製作 原口秀樹
エグゼクティブプロデューサー 前田紘孝
プロデューサー 相羽浩行
撮影 山中敏康
照明 松本竜司
録音 池田雅樹
美術 佐藤彩
スタイリスト 吉田奈緒美
志戸岡晴 ヘアメイク
徳田芳昌 サウンドデザイン
浅梨なおこ 編集
松山圭介
音楽プロデューサー 伊藤薫 柴野達夫
作曲 鈴木めぐみ
助監督 伊藤拓也
制作主任 伊神華子
スチール 佐藤里奈三上博史 間宮
酒井若菜 詩織
波岡一喜 ウォン
三浦萌 麗華
樋口和貞
伊藤高史
ブル
世戸凛來
柴田理恵
阿部力小泉