『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』(104分/米/2017)

2018年製作
スポンサーリンク
merrychristmas-movie – Just another WordPress site

 

原題 『The Man Who Invented Christmas』

作家とは素晴らしい仕事であると再認識させてくれる。ディケンズが後世の作家たちに影響は計り知れない。もちろん『クリスマス・キャロル』は永遠なり。

有名作家になるともう過去の貧しい生活には戻れない。誇りがある。見栄、虚勢を張ってでも生きなければいけない。墜ちたくない。どうすれば良い、それは“書く”ことだ。。

 ひょっとしたらこの映画が今年一番面白かった作品になるかもしれない。大満足の映画だ。冒頭から終焉まで私の心を引き付けて離さなかった。チャールズ・ディケンズは言わずと知れたイギリスが生んだ世界的な文豪である。恥ずかしながら私は彼の作品を読んだ記憶がないのにも関わらず記事を書いている失礼をお許し願いたい。本当に面白かったから書かせて欲しいのだ。ちなみこの映画はシネコンで観たのだが、時間が21時過ぎという事もあるのかお客さんは私を含め6名と寂しい限りだ。子どもには難しい映画かもしれないが、かつて子どもの頃、自分の未来を夢見た大人には観てもらいたい映画だ。

 この作品はディケンズが名作『クリスマス・キャロル』を書く過程での作家としての葛藤、苦悩、失望、傷心、嬉々そして達成から自分自身の封印したい生い立ちをうまく絡ませながら描いている。更に現実と幻想の世界も交差させながら飽きることのない構成となっている。映画の始まりはディケンズの人柄を徹底的に描写している。有名作家であり、見栄っ張りで気前良く、温和で活動的で、人当たりが良く、極めて好印象な人物をアピールする。でもその反面、親しい人の前ではお金に苦心し、弱音を吐く。それが人間臭くていい。かつて書いた作品の印税を惜しみもなく散財してしまい毎日の生活が苦しい。妻にも借金をしていることを隠している負い目が追い打ちをかける。オマケに極度のスランプに陥っていて新作が書けない。全く書けない。更に妻は妊娠し、5番目が生まれる(ディケンズは合計10人の子どもを設けた)

 運悪くろくでなしの父親が押しかけてくる。すぐにでもお金を稼がないと一家は破産だ。しかし書けない。一筆も進まない。しかし天は彼を見捨てない。メイドで雇ったアイルランドから来た少女の存在が新作へと突き動かすのだ。この偶然が良い。映画を観ていて「そうこなくっちゃ」と膝を叩いてしまった。当時のイギリス社会ではクリスマスを題材にした作品など売れないと言われていた。しかしディケンズは自費で書き上げていくことを決心する。何としても書きあげなければいけないのだ。その理由は借金問題もあるが、やはり作家としての意地がある。巷ではディケンズは終わったと言いふらす輩もいる。彼らに何としても泡を吹かせてやりたい気持ちもある。そのためにはクリスマス前に出版する必要があった。期限は2ヶ月。

ディケンズの創作スタイルが秀逸だ。これほどまでに作品に自分自身を投影するとは、、、。やはり選ばれた才能なのだろう。

 作家には作家独自の制作スタイルがある。取材して淡々と書きあげていく者、口語形式でアシスタントに書かせる者、構想を練り上げて一気に書き上げる者など。この映画ではディケンズのスタイルがとても面白く描かれている。ディケンズが作品を書くときはまず登場人物のキャラクターを徹底的に練り上げている。そして究極の人物になるまで格闘する。すると人物が目の前に現れる。天から降りてくるのだ。現れたら後は彼らに演技指導を行うが如く作品を書き上げていくのだ。時には怒鳴り、時には抱きしめながら登場人物と密になっていく。人物設定がしっかりしていれば後は演じてくれるからそれを書けば良いというのがとても新鮮でもあるし、神聖でもある。傍からそれを見ていた妻はディケンズが狂っていると感じるほどの入れ様だ。でもそれがディケンズの制作スタイルなのだ。

書く書く書く、創る創る創る理由を止められない。何かを達成した喜びを知ると再び人はそれを味わいたくなる。ディケンズを通して作家魂を見た。

 私自身、物を書く仕事をしている。だからディケンズの気持ちが如実がわかる。苦しいけれど、一旦書き始めるともう止められない。後は人物と物語を楽しむだけなのだ。そして脱稿した時の喜びはこの上ない者だろう。だから作品が今年一番と言いたくもなる。創作すると言うこと、生み出すということはとてつもなくエネルギーを要し、苦悩も苦痛も伴う。そしてそして、出版して高評価を得た暁には天にも登る喜び、いや快感をもたらすのだ。だから創作することは止められないのだ。作品を書くに当たってディケンズは成長していく。登場人物と共に成長していく。劇中呟く。「人は誰もが尊い、誰かを助けられる」これは恐らく自分自身に言っている言葉だと思う。人を信じること、人を許すこと、諦めず生き抜くことの大切さをこの映画から感じた。素晴らしい作品であった。

スポンサーリンク

『運だぜ!アート』本日の総合アクセスランキング

映画『ばるぼら』ネタバレ・あらすじ「美乳」二階堂ふみ&「美尻」稲垣吾郎の衝撃愛!手塚眞とクリストファー・ドイルが紡ぐ「究極の芸術愛」誕生!感想・結末。
クリント・イーストウッド最高映画『許されざる者(1992)』ネタバレ・あらすじ「アメリカ社会の写し絵“悪人”しかいない世界」感想・結末
映画『第三夫人と髪飾り』ネタバレ・あらすじ「一夫多妻の時代“愛のレッスン”は芸術的“官能美”」感想「新しい才能アッシュ・メイフェア監督登場」結末「現代ベトナム女性は自由?」
山口百恵出演映画全リスト三浦友和との愛の軌跡が見える『伊豆の踊子』から『古都』
映画『楽園』ネタバレ・あらすじ・結末。ムラ社会は日本社会の縮図。長老(独裁者)の「決めつけ」こそ悪害なのだ。綾野剛、佐藤浩市もOKだが村上虹郎が最高だ!
【ネタバレ酷評】映画『カイジ ファイナルゲーム』カイジに日本の未来を賭けて欲しくない。『パラサイト 半地下の家族』を見習え。
映画『翔んで埼玉』ネタバレ・あらすじ・感想・ロケ地。ディスって大ヒット。GACKT &二階堂ふみの大仰演技に抱腹絶倒。
映画『すばらしき世界』ネタバレ・あらすじ「2021年度最高作品決定!」感想「西川美和vs役所広司+仲野太賀with長澤まさみで弱者見殺社会に“喝”」結末
映画『ヘルドッグス』ネタバレ・あらすじ「相関図を見ないとわからない」感想「松岡茉優が可愛い」結末「続編あるでしょ!」
映画『沈黙のパレード』ネタバレ・あらすじ「犯人だれ?」感想「福山雅治」結末「東野圭吾作品」

スポンサーリンク

合わせて観たい映画

小説家を主人公にした映画

映画『ばるぼら』

手塚治虫も恐ろしいが手塚眞監督も恐ろしい!

映画『ばるぼら』ネタバレ・あらすじ「美乳」二階堂ふみ&「美尻」稲垣吾郎の衝撃愛!手塚眞とクリストファー・ドイルが紡ぐ「究極の芸術愛」誕生!感想・結末。
映画『ばるぼら』ネタバレ・あらすじ「美乳」二階堂ふみ&「美尻」稲垣吾郎の衝撃愛!手塚眞とクリストファー・ドイルが紡ぐ「究極の芸術愛」誕生!感想・結末。映画『ばるぼら』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品情報・概要・キャスト、予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。映画『ばるぼら』公式サイトにて作品情報・キャスト・上映館・お時間もご確認ください。映画『ばるぼら』の作品情報・概要『ばるぼら』は手塚治虫が『ビッグコミック』(小学館)で1973年(昭和48年)7月10日号から1974年(昭和49年)5月25日号まで描いた大人向けの漫画である。当時の手塚治虫の苦悩を投影したと言われている。手塚の実子でヴィジュアリストであり、映画監督の20手塚眞が実写化し2020年11月20日に公開された。主演は稲垣吾郎と『人間失格 太宰治と3人の女たち』『糸』二階堂ふみ。共演は『37セカンズ』『閉鎖病棟 それぞれの朝』の渋川清彦、『人数の町』『楽園』石橋静河、美波、大谷亮介ら。撮影監督は『ある船頭の話』クリストファー・ドイル。

『天才作家の妻 40年目の真実』

女性の能力の方が高い

『天才作家の妻 40年目の真実』ネタバレ(感想)どんな夫婦にも“特殊”な世界観があるということ。
妻子ある大学教授と恋に落ち、略奪婚をしてしまった負い目もあるのだろうか。自らの夢である“作家”を諦め夫のゴーストライターに徹することで良き妻『糟糠の妻』を演じるているのか。ノーベル文学賞と言う名誉が二人の絆を壊そうとする。二人の感情揺れ動く。妻は全てを告白するのか、夫はそれを許すのか。夫婦である意味とは、、、。

映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』

ローラという女流作家の才能が飛び抜けている

映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』ネタバレ・あらすじ・感想。ローラ・アルバートの才能を評価。SNS炎上ビジネスの先駆け。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』のあらすじ・ネタバレ・解説・感想・評価から作品情報・概要・キャスト、予告編動画も紹介し、物語のラストまで簡単に解説しています。 映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』...

映画『コレット』

フランスにこの人がいたから良かった

映画『コレット』ネタバレ、あらすじ。女流作家シドニー=ガブリエル・コレットを演じるキーラ・ナイトレイの演技は絶品。女性の挑戦、勇気、希望の映画です。
今だに女性の社会進出を歓迎しない男は多い。世界的な女性作家シドニー=ガブリエル・コレットでさえも夫の強制により社会に出る機会を長く待った。この物語は文才のないダメ夫に嫁いだばかりに、作家としての才能を開花する女性の物語である。同時に女性の権利を広く訴えることでフランス女性たちに勇気と希望を与えた人生をつぶさに描いている。

映画『ドリーミング村上春樹』

村上春樹を愛してやまない翻訳家

映画『ドリーミング村上春樹』ネタバレ・あらすじ・結末。デンマーク人翻訳家メッテ・ホルムの村上春樹愛は仕事に直結している究極のハルキスト。
デンマーク人翻訳家デンマーク人翻訳家メッテ・ホルムを追ったドキュメンタリー映画。1995年ホルムは日本を旅した時に『ノルウェイの森』と出会った。読み終えてすぐに村上春樹の翻訳家になることを決意する。そして今ではデンマーク語の翻訳の大家となっている。そんな彼女が村上作品を翻訳する際の格闘と苦悩と挑戦をキャメラは追いかけている。

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』

ダメダメ人間と言われてもやっぱり太宰は偉大です

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』ネタバレ・あらすじ・感想・評価。蜷川実花映画はインパクト勝負だけ作品。物語を紡げない。二階堂ふみは最高演技。
映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイトにて作品情報・上映館の紹介と作品情報・ネタバレ・あらすじ・感想を記述。極彩色で映画を描く蜷川実花が小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみを迎え、太宰治の半生を描く。太宰を支えて三人の女たちがどのように太宰文学に関わってきたのかについても言及。太宰の“ダメっぷり、クズっぷり”を描こうとしている。二階堂ふみさんの演技が秀逸。

映画『トールキン 旅のはじまり』

『ロード・オブ・ザ・リング』の影に友情あり

映画『トールキン 旅のはじまり』作品情報・ネタバレ・あらすじ・感想。『ホビットの冒険』『指輪物語』は四人の友情物語から始まった。
映画『トールキン 旅のはじまり』公式サイトにて作品情報・上映館・ネタバレ・あらすじ・感想を紹介。トールキンのSF冒険小説の最高傑作と言われる『ホビットの冒険』『指輪物語』の誕生秘話が明かされます。一番は友情です。四人の親友から名作は生まれたと言っても過言ではありません。友情の大切さをヒシヒシと描いています。

映画『ガーンジー島の読書会の秘密』

リリー・ジェームズが綺麗すぎます

映画『ガーンジー島の読書会の秘密』作品情報・ネタバレ・あらすじ・感想・結末。リリー・ジェームズの気品が漂う。読書会が静かブームになる予感。
第二次世界大戦後、遂に女流作家の幕開けとなりました。戦前は男性名義で出版していましたが、もう自由に名乗れます。ジュリエットは精力的に活動します。ある日ガーンジー島から一通の手紙が届きます。興味を持ち島へ取材に行きます。そこでは読者会が行われており、ある女性の秘密がありました。ジュリエットは島に魅了され、恋もします。

映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』

やっぱりサリンジャーはいつまでも少年

天才伝説!『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』サリンジャーの名言が溢れてる映画
アメリカ文学史に燦然と輝く偉大な作家、サリンジャー。彼の後半の人生は謎に満ちている。なぜ表舞台から立ち去ったのか、その謎に迫る映画である。この映画はサリンジャーの名言が随所に盛り込まれている垂涎の作品である。天才作家の苦悩と葛藤、そして伝説になった生き方を如実に表している。
タイトルとURLをコピーしました